響くこと(71
霊巫女はイヨと別れてから
セナとの話を思い出していた。
https://note.com/colyuu/n/na82758374a2b
わたしはいったい何を感じているのか。
わたしはいったい何を信じているのか。
ついこの間まで
あの海で過ごしていた時間が
もう大昔のように感じられた。
手に優しくもつピンクの貝殻にふと目を
向けた。
この貝殻を見ていると、とても安心する。
イヨはとてもしっかりしているように
感じる。わたしよりもしっかりしている。
けれど、ふとした時に
何かを諦めているように感じるわ。
なぜそう思うのかは分からないけれど
何かを強く強く守る為に
何かを諦めているような。
ふとした時にそんな表情が見える。
「君と同じだよ。」
ふと、横を見上げるとセナがいた。
「今日は、よく一緒にいてくれるのね。」
「もう暗いからな。」
私達は、手を繋ぎながら社へと向かった。
「霊巫女。イヨはイヨだ。君は君だ。
とても似てはいても、彼女には彼女の
道が。君には君の道がある。」
「なぜ、そんな事を言うの。」
「君は背負うべきものじゃないものは
背負わなくていいのだ。彼女の道は
君には歩めない。君は君しか自らの道を
歩めない。」
わたしは何も言葉にできなかった。
マナヒマナハレマナヒカヤ
マナハレヒカヤマナハレヒ
その言葉だけが
頭の中に響いている。
「ねぇ。セナ。
私達のご先祖様はどこから来たの?
なぜこの地にやってきたの?
なんだか、イヨとこうしてお会い
できている事が不思議でたまらないの。」
「君は何も覚えていないのか?」
「昔、ヒカホがお話してくれた事は
なんとなく覚えているわ。
海の向こうで離れ離れになった
ご先祖様達のお話。
いつか再会できるのを望んでいる事。
その言葉を私達は持っている。
でも、それしかわからない。
なぜ再会しなくてはいけないのか。
バラバラになってしまったのなら
もう会う事はできないのではないか。
そんな思いで、あの言葉を響かせるのに
躊躇するわ。」
セナは黙って話を聞きながら
歩き続けた。
「私達は君達の意志を天に届ける。
そして、天の意志を君達に届ける。
それが役割だ。
君達の身体は、目に見えないもので
構成されている。とてもとても小さな
動きの中で、君達は現れている。
その小さな小さな動きの中には
君達の血が流し続けている音がある。
その音に反応しあって
人は出会い、音をつなげる。
繋げなくてはいけない音があるのだ。」
わたしはさっぱり意味がわからなかった。
「君がもし、その音を響かせる事を
諦めたら、君達の中に流れている
血は途絶えてしまう。
君達は途絶えさせてはいけないものを
選んで生まれてきた。
それは、これから先もつながる。
その先への道の上にいるだけだ。
不安や恐れから、理由のなさから
手放してはいけないものがある。
君は君の中に流れているものを
信じていく事しかできないのだよ。」
「私にはその音が聞こえないわ。
わたしの中に流れているものを
感じ取れない。」
セナはわたしの方を見つめた。
君には聞こえてる
君には響いている
そして君は感じている
そう、頭の中に言葉が響いてきた。
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