何を感じて、信じるか(48

私は社に戻り、今日の事を思い出していた。

イヨという、私にとても似た娘の事。
異国の皇が来ること。
イヨと力を合わせること。
そして、イヨに子を産めぬようにする。という事。

「霊巫女様。三つの月が廻る前に、こちらに来ます。それまではどうかこの事は、私達の内に留めましょう。」

イヨはそう言い、奥の御戸へと戻った。

私には婆様以外、お話するものが居ない。
ヒカホが居ないいま、誰かと話す事もない。

ふと、セナに頂いた棒を思い出し、取り出そうとした。

すると

「今は吹かぬほうがよい。」

ふと、横を見るとセナがいた。

「セナ!元気でしたか?大日目ノ彦命はどうされているのでしょうか?」

セナはゆっくりと、私に近づき、頭に手を触れ、優しく撫でてくれた。

「元気だ。しかし、大日目彦ノ命は神と、今より少し前の時へ連れていった。けれども、必ず、必ずソナタは、彼と会える。安心するが良い。」

少し前の時とは…よく分からない。けれど、会えるという言葉を聞けて嬉しさが込み上げた。

「私も彼と会える時を待ちます。セナ。今日は、私にとてもよく似たイヨという娘に会ったの。私と声まで似ていらしたわ。」

セナは黙ったままだった。

「なんだか不思議な気分。私のような、違うような。不思議でたまらなかった。」

「霊巫女は霊巫女さ。今は…だ。名はすぐ変わる。名というものに縛られてはならぬ。自らの名に縛られたものは、自らを失ってしまう。名はその時々で変わるのだ。

ソナタはソナタだ。
どこに自分をおいて、物事をみるのか。これからとても大切になってくる。私と話し続ける為にも。」

「そうね。私は私だわ。見える事柄だけに縛られていては、見えるものも見えないわ。」

「分かるようになってきたじゃないか!」

セナの笑顔は私を安心させる。

「ねぇ、セナ。私達は何故離れているのかしら?心はとても近くに感じるのに、いつ会えるかさへ分からない。あなたが龍神様だから?」

セナが私をみつめた。

「君は質問が変わったね。」

「私だって成長しているわ。」

「ははは!そうだ!君は成長しているさ。」

私はびっくりして、セナをみた。

「どうしたのだ?」

「セナでも、声を出して笑ったりするのね!初めて見たからおどろいたの。」

「ははは。君こそからかうのも上手くなったね。

霊巫女。君の質問だけれど…。

君はなぜ、僕と離れていると感じるのだ?」

「だって…。会おうと思っても会えない。いつ会えるのかさへ分からない。」

「心は近くに感じているのだろう」

私は黙ってしまった。

「私はいつも、そなたのそばに居る。そなたと同じ場所に生きてしまえば、それこそ中々会えなくなる。けれども、そなたが龍神の声を届ける巫女で、私が天の声をそなたに届ける龍神ならば、私達はいつも一緒だ。姿、形は見えなくとも、共にいられる。

君が何を感じ、何を信じるのか。それだけだ。

表にでていない。見えていない。だからって、無いわけではないのだよ。見えるものだけが真実ではない。全てのものは、見えないもので構成されている。

君が何を感じ、何を信じるか。それだけさ。」

何を感じて、信じるか。そうね…。
私は瞳を閉じて、セナを感じてみた。

目を開けるとセナは微笑んでいた。

「セナ。今日、婆様達に次の皇が異国から来る事を聞いたの。元は、私達と同じ南の國の民だと。私は異国のものは恐ろしいけれど、そのお方には会ってみたいと思うわ。何故か分からないけれど。」

「そのうちわかる事だ。いいか。霊巫女。そなた達が感じる闇だったり、恐れは、それを人々が持つように鏡に移されているものを見ているに過ぎない。」

「かがみ?」

「そうさ。かがみさ。君達は神言は石に刻み、それを見て、自分の内へ問う。それと同じだ。

その恐れや闇がある。という事を鏡に写しているに過ぎない。鏡ばかりにとらわれていると、目に見えない真実に気がつけない。人々は何千年もそれを繰り返そうとする。それが星が決めた道だ。霊巫女。いいか。大切な事を見たいのだったら、鏡の外に世界があることを知ることだ。みえるもの、映るものばかりにとらわれるな。目の前にあることを忘れてはいけないよ。」


恐れを感じるものは私の内にあるのね。

「ありがとう。セナ。私はイヨとも、皇とも共に過ごしたいと思うけれど、事の大きさを思えば、それをしていいのか。という事に恐れを抱いていたのかもしれないわ。」

「そうだね。その恐れは自由ではないから重さを生み出す。人は過去の記憶を追う生き物だ。その記憶から現実を構成してしまう。けれど、その過去が変われば、簡単に今も変わってしまう。過去の記憶は気づく為にある。けれど、無理して追わなくても良い。」

過去の記憶を追う…。確かに…。

そこから、物事を決めてしまったり、考えてしまうわ。

「それでもいいのだ。けれど、何を感じているか、信じているか。その自分を見定めなくてはならない。」


「わたしは…セナと共にいることを選びたい。」

「そうだ。私はいつもそなたと共にいる。それを忘れないで欲しい。」

「分かったわ。セナ。」

そう言うと、セナは微笑んで、私の前から姿を消した。

私はセナと共に在る事を選んだ。

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