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太陽と虹が重なる頃に…(1)

まだ暑い夏の日、彼女の一周忌を行った。
彼女と悠也が付き合い始めたのは四年前の高三の時の事だった。
一年前、二人は喧嘩をし、彼女が怒って悠也の家をとび出した時、ちょうど車が来て彼女はそのまま帰らぬ人となってしまった。
彼女の眠るお墓に悠也はお線香と花を手向け「奏……」と呟いた。
お墓参りも終わり、帰ろうと歩いてる時だった。
「君、会いたい人が居るだろ?」
と、知らない黒い帽子を被った四〇代くらいの男に言われた。
悠也は知らないふりをして通り過ぎようとした。
しかし、すれ違った時だった。
「本当に君は後悔しない自信があるのか?」
そう耳元で訊かれたのだ。
少し不気味に思い、男の事を横目で見ると男は悠也の事をじっと見つめていた。
「な、なんですか?」
悠也は恐る恐る訊いた。
「君は会いたい人が居るだろ?」
そう言い男はドヤ顔をした。
「な、なんなんですか?」
悠也が恐怖と困惑を浮かべながら訊くと男はあきれ顔で腕を組んだ。
「君ね、人を外見で判断しちゃダメって小学生の時に先生に教わらなかったのか?こんな事を言っても信じないと思うが、一応、私、魔法使い」
「一人称が私とか…… は?魔法使い?!」
訳の分からぬことを言う男への警戒心はさらに高まり、悠也は後ずさりをしかけた。
「あのね、君、ここは公共の場。面接で俺なんて言うか? 言わないだろ?私は列記とした男だ。オネェではない。」
そう言う男の顔は自信に満ちており、真顔だった。
「ところで君、名前は?」
「何で全く知らない赤の他人に名前を教えなきゃいけないんですか?」
悠也はムッとなって言った。しかし、男は謝る様子など一切見られなかった。
彼は一、二秒、悠也の目を見つめ「君、平川悠也っていうんだ」と言い男は何もなかったかの様に自分のセカンドバッグから白い薄い布のようなタオルを取り出し自分の爪を磨きだした。
「どうして俺の名前を……?」
悠也には今何が起こったのか状況が分からなかった。
「だから言ったでしょ?魔法使いだって。私は、人の心を読めるんだよ。ついでに誰かが会いたいと思った人にも合わせる事が出来る。例えもうこの世に居ない人でも……」
パニック状態の悠也の心を見透かしているかのように男はニヤリと笑った。
「嘘だろ……」
「嘘じゃない。本当さ」
男は当たり前だろと言いたそうな表情でまた爪磨きを始めた。
悠也にとっては信じがたいことであった。しかし、もしこれが本当なら…どうしようもできない思いを男に賭けた。
「……。そんなに言うなら会いたい人が居る。一年前に亡くなった俺の彼女だ。会わせてくれ‼」
悠也が真面目に言うと彼は軽く「うん。 いいよ」と言い爪磨きを続けた。
「本当にいいのか?!」
悠也は喜びと不安の混ざった声を口にした。
「あぁ、いいさ。 君の彼女さんはきっと虹の向こうの天空界にいるだろう」
「天空界?」
悠也は聞き返した。
「あぁ、あそこに大きな虹がかかってるだろ? あそこの向こう側が天空界っていうんだよ。まぁ、こっちの世界で言う天国だ。しかし、今すぐには彼女さんに合わせられないな」
男はいかにもわざとらしく残念がった。
「どうして?!」
悠也は男に詰め寄った。
「天空世界の入り口であるあの虹と太陽が重なり合った時にしかこの世界、あー、つまり人間界ね。生きている生物、人間界に存在している者は入れないんだ。ただいまの時刻は午後、五時。少しの辛抱だ。日が暮れ始めるまで待つんだな」
男は素っ気なく言った。
そして、その場に立ち尽くす事、一時間。
「もうすぐ重なるな。あ、これ君の力も必要だから。私が『求めよ!』 って言ったら『天空界の人々よ、許したまえ』 って言ってくれない? そうしないと天空界に入れないからさ」
さも当然のように真顔で言う男を悠也は凝視した。
その時、丁度、虹と太陽が重なり合った。
「求めよ!!」
「て、天空界の人々よ、許したまえ‼」
突然の男の大きな声にはっとし、悠也はとっさに言った。
すると悠也は物凄い光に包まれ、悠也は目を瞑った。数秒すると光は消え、目を開けると全く知らない世界が広がっていた。

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