12_桂離宮の色彩(1)〜諸行無常の美しさ

画像1 かつてドイツの建築家ブルーノ・タウトが「涙が出るほど美しい」と絶句した桂離宮は、世の中の乱れや流れの早さなど全く関知せずといった感じで、常に清澄な空気に満ちています。桂離宮の庭内には四季を表現した茶屋があり、桂離宮のアイコンのようになっている『松琴亭』の襖の淡い水色と白の市松模様は見た目に涼し気で一見「夏」のようですが、実は「冬」を表しています。
画像2 この水色は元々藍色です。加賀奉書を藍で染めたものが経年変化によって色が褪せた結果、淡い水色になっています。(いつかの拝観時、ガイドさんが重なった襖を少しずらして見せて下さいました。)
画像3 『松琴亭』はかつて宴席に使われていました。 藍と白の強いコントラストは華やかで賑わいを感じさせ、宴席にはふさわしい色合いだったことでしょう。しかし、色褪せて生じた水色と白とのやわらかいコントラストも、何の違和感なく環境に馴染んでいます。
画像4 数年前に襖が元の藍色の加賀奉書に張り替えられました。なるほど、コントラストが強くなるとやはり華やかさは倍増します。
画像5
画像6 藍の染め初めは少し緑みを帯びた水色(瓶覗→浅葱)であり、染めを重ねるごとに深い藍色になっていきます。それが時間の経過と共に藍が抜けていき、元の白に戻っていくプロセスが「色褪せ」です。
画像7 放っておくと苔や草が生え、周りの自然に溶け込んでいってしまいそうな和建築の中で、時間の経過とともに周りに中和するように褪せていく色の美しさ。しなやかで優れた色彩は、その変化する局面ごとに異なる魅力を携えます。変わってゆくものや事を前にした時に必要なのは、熱い湯が気温に馴染むよう冷めていくように、諸行無常を楽しむ強かさなのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?