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電気ブランの紅茶割り

居酒屋で隣にいた男が、電気ブランをロックで、と言った。ストレートで飲むのが美味しいのに、と思ったが、彼はロックの美味さを知っているのだろう。ちょうどわたしがストレートで飲む美味さを知っているように。

電気ブランは浅草神谷バー発祥のブランデーをベースとした酒である。その名は、明治時代にハイカラなもの、もの珍しいものの頭に電気◯◯と付けて呼ぶのが流行っていたことに由来する。

電気ブランデー、転じて電気ブラン。森見登美彦の小説『夜は短し歩けよ乙女』『有頂天家族』などに登場する幻のお酒“偽電気ブラン”のモデルで、作中では「特殊な電圧で製造された神秘的な風味を持つカクテル」とされている。

実は、本家の電気ブランの方もその製造方法は謎に包まれている。ただ、ブランデーをベースにさまざまな酒(当時のバーで余りがちだった比較的安価なもの)をミックスしている、ということは確かなようだ。つまり、既にミックスし終えた、カクテルの状態で売っている酒と思ってもらえれば分かりやすい。

度数は45度と高く、よく冷やしてストレートで飲むと、電気のようにビリリ! とした風味が楽しめる。



居酒屋で隣に座る男、彼とはどんな愚痴だって言い合える関係だった。いつもわたしばかりが話しているような気もするけれど、だからこそ、電気ブランのロックの美味さを知ってみたい、本人から聞くよりも、先ずはじぶんで試してみたい、と思った。

会計を済ませて、大将のお爺ちゃんに「また電気ブラン用意して待ってるからね」なんて言われて、店を出る。ホッピーの看板が設置され、全席で喫煙ができ、軒先は店舗用テントで覆われている、なんとも電気ブランの似合う風貌の店だったなあ、なんて思いながら、帰り道、電気ブランの360mlビンを買った。



酒には酒の飲み方がある。
アメリカの大衆的なウイスキーはソーダでハイボールにして飲みたいし、アイラモルトのスコッチはストレートでそのピート臭を感じたい。ビールはグラスをよく冷やして、焼酎はお湯割りで。もちろん、ブランデーは冷んやりとストレートで飲むのが鉄板だ。
ブランデーベースということはチョコレートやナッツが合うだろうということで、明治の洋酒チョコレートとナッツのつまみを用意。いざ、飲み比べをしてみる。

しあわせ〜


①ストレート
②ロック
③ソーダ
④お湯割り
⑤ジンジャー割り
⑥紅茶割り

先ずは①ストレートで。ショットグラスの7.5-8割程度お酒を注いで、ひとくちで飲む。ビリビリとして、やっぱり美味い。『夜は短し歩けよ乙女』のアニメーションのように、宝石みたくキラキラ透き通る琥珀色が綺麗。

そして次は②ロック。はじめにロックグラスへすり切りまで氷を足し、グラスの3-4割お酒を注ぐ。2回程度グラスの中で氷を滑らして香りを出し、少しずつ飲む。ストレートとは違い、特徴的なビリっと感が抑えられた代わりに、ブランデー本来の甘さが感じられるマイルドな風味で、とても美味しい。

③ソーダ割。グラスはそのまま、氷をグラスに満たし、先ほどより気持ち多めにお酒を注ぎ、ソーダは7-8割まで注ぐ。マドラーを使い時計回りにくるりと一回転ステア。……甘い!!!!!!ハイボールにしてはかなり甘いので、苦めのハイボールが苦手な方にはおすすめ。似た味の酒にジャックダニエルのソーダ割を挙げたい。

④お湯割り。ブランデーは温めると香りが増し、身体が暖まるため安眠効果がある。クリスマスマーケットなどで売られている「エッグノック」は、卵黄にブランデー、ラム、卵白を順番に混ぜ、ホットミルクと割ったものをいうらしい。

⑤ジンジャー割。……甘い!!!!!!!!!!ノーマルのソーダでも甘かったんだから、ジンジャーエールと混ぜて甘くないわけがない。甘いカクテルが好きな人にはおすすめ。

⑥紅茶割り。午後の紅茶のストレートティーなどを使っても良いのだが、今回は茶葉を買い自分で淹れるところから。しっかり熱を冷ましたあと冷蔵庫に入れ、一晩寝かせる。
すり切りまで氷を加えてから、お酒を気持ち少なめにグラスの2割まで、キンキンに冷やした紅茶をグラスの9割まで注ぎ、時計回りに1回転ステア。
ものすごく美味しい。あまりにも美味しくて、涙が出そう……。私にとってはこれが一番のお気に入り。



ロックも美味しかった。
20歳を超えてから、初めてお酒を飲んで、少しずついろんな味を覚えていって、人生にとても彩りが増えたように思う。
お酒の味を思い出すだけで嬉しい気持ちになるし、一緒に飲みに行った人も、そこで話したことも、全て幸せな記憶。こんなふうに好きなものが増えるんだったら、大人になるのも悪くないよね、と思う。

最近のお気に入りはやっぱり電気ブランの紅茶割り。友達の好きなお酒とその飲み方の話も聞いてみたいな。

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