マラウイの二人の先生と出逢い、共に歩んできた「Web交流」の道
Colorbathの教育事業であるWeb交流プログラム「DOTS」。
ネパール・マラウイという未知なる国とつながる原体験を通して、自分自身のみえる世界(視野)を拡げるきっかけを数多く届けてきました。
実施後はホームページにレポートを掲載し、日本の子どもたちや先生方の生き生きした様子を、お伝えしています。
noteでは少し視点を変えて、マラウイやネパールにいる先生方の想いや活動にフォーカス。さまざまなエピソードをお届けしていければと思います。
今回は、「DOTS」でプロジェクトマネジャーとして活躍する椎木睦美さんに、マラウイの先生方との出逢い、共に活動してきた経験、今後思い描くビジョンについて語っていただきました。
「マラウイのDOTSコーディネーター」 ウォンガニ先生との出逢い
私がウォンガニ先生と出会ったのは、2015年。JICA青年海外協力隊として訪れた、カゾンバ小学校(マラウイ北部・ムジンバ県)でのことでした。
当時の私の任務は、小学校での情操教育を拡充すること。具体的には、音楽や図工、体育などの表現芸術科目がこれにあたるのですが、新しく導入された科目ということもあり、マラウイの先生たちには、授業を受けた経験がありません。座学だけではなく、実技を取り入れた授業づくりのサポートをする必要がありました。
そんな中、カゾンバ小学校で働いていたウォンガニ先生は、実技指導に精力的に取り組む先生の一人でした。「明るく授業をしている」という最初の印象を、今もよく覚えています。
とても生徒思いで、かつ自分を成長させたいというモチベーションも強くある先生だと感じました。その意欲が、さまざまな場面で「カタチ」になっていく様子を、間近に見てきました。
その一つが、一緒に実現した「表現芸術科目で学んだことを、子どもたちが表現する場所」づくり。日本の学校では、1年を通して、運動会や文化祭、合唱コンクールなど、さまざまな行事が行われますが、マラウイにはそういった学校行事がありません。
授業で得たものを発表する場を作りたい。しかし、私の赴任中だけではなく、その先も行事を継続していくには、一緒にやってくれるマラウイの先生の存在が必要不可欠でした。その時に手を挙げてくれたのが、ウォンガニ先生だったのです。
実施のために日系企業に協賛を募るなど、一緒に走り回り、「カゾンバスクールオープンデー」という形で、開催することができました。その名の通り、学校が地域に開かれ、大人も子どもも一緒になって楽しむ1日でした。
綱引きやスピーチコンテスト、劇の発表などなど、わくわくするイベントが満載。
また、おじいちゃんおばあちゃんたちが知っている民族ダンスを子どもたちに教えるという場面もありました。
ウォンガニ先生をはじめマラウイの先生方は、数年経った今でもこのイベントのことを覚えてくれていて、私が現地に行くたびに「あのイベントは良かった。他の学校でもできるようにしたい」と言ってくれます。
ウォンガニ先生が広げていくDOTSの「楽しさ」
日本とマラウイの子どもたちをオンラインでつなぎ、対話のきっかけを届けるという取り組みも、ウォンガニ先生と一緒に始めたものでした。
知人から「日本の高校生とアフリカをつなぎたい」と連絡をもらい、マラウイの先生たちに「日本の子たちとテレビ電話できるよ!」と提案して実現。
最初の交流は、マラウイの生徒たちが「スクールオープンデー」でできるようになったばかりのダンスを披露したり、生徒同士で質問しあったりといった内容でした。
マラウイの生徒たちは慣れない経験にかなり緊張した様子でしたが、ウォンガニ先生はノリノリ。前のめりに自己紹介したり話したりと、日本の人と共に過ごす時間を、心の底から楽しんでくれていました。
この「先生自身が楽しんでいる」、内側にワクワク感を持っているということが、帰国後に「DOTS」の構想を提案したとき、すぐに協力してくれた理由でもあるのだと思います。
自分が楽しいからこそ、その「楽しさ」を子どもたちにも体感してほしい。
そんな思いを持ってくれているウォンガニ先生は、いつもエネルギッシュに、DOTSに関する「やりたいこと」を考え、伝えてくれます。
昨年12月に現地に行った際は、「DOTSをマラウイにもっと広げていきたい。僕がパソコンを持っていろいろな学校を回って、この活動の楽しさを先生たちや生徒たちに伝えていきたい。」と熱を持って語ってくれて、とても嬉しく思いました。
このDOTSの運営やファシリテートを通じて、彼が自信を得ていく様子が伝わってきますし、自分のことだけではなく、地域や他の先生方のことも考えて行動する様子が、とても頼もしいです。
今後も、マラウイの「DOTSコーディネーター」として活躍してくれることを、期待しています。
マラウイにおける、「先生」のイメージ
ここで少し、マラウイの教員養成について説明します。
実は、マラウイの子どもたちに「将来何になりたい?」と聞いて、「先生」という答えが返ってくることはほとんどありません。多くの子どもたちは「会計士」「科学者」などの職業の名を口にします。
一方、マラウイでは少子化が進む日本とは反対に、子どもの数が急増中。教師を増やす必要があるため、政府が教員養成学校を設置しています。ここでは、中等教育機関を卒業していれば、誰でもほぼ無料で学ぶことができます。
教員になった人が学校で働きながら、通信教育で学士課程に進んだり、他の職業を目指したりもするのが、マラウイの教育現場の特徴です。小学校の先生であれば午前中で終わるため、子育てやそれ以外の職業、学びとの両立が可能となります。
このような背景もあり、マラウイには、さまざまなバックグラウンドを持つ先生がいると感じています。
愛情溢れるビクトリア先生との対話
ウォンガニ先生と同じく、マラウイのカプタ小学校で働いているビクトリア先生。今年から、Web交流プログラム「DOTS」にも参加してくれています。
私は、12月にマラウイに渡航した際、彼女とじっくり話す時間を持つことができました。そこで聴いたことが、強く心に残っています。
ビクトリア先生は、家庭の事情で、親戚の家を転々として幼少期を過ごしました。
マラウイでは算数が苦手という人が少なくない中、ビクトリア先生は算数が好きで得意。そのこともあり、会計士になって生計を立てていきたいという夢を持っていたそうです。
しかし、経済的な理由で大学にはいけなかったため、教員という道を選びました。自分の生い立ちがあるからこそ、どんな子に対しても愛を届けたいという気持ちが強い先生です。
「家族と共に暮らせない子どもたちが、お互いに支え合いながら過ごす居場所となる、孤児院を建てたい」
今は、そんな夢も心に抱きながら、教育現場で働いています。
制服や文房具が買えない子に対しても、優しく寄り添う姿。
「先生が学ぶことに対する苦手意識を持って教えていると、生徒にもそれが伝わり、その教科を好きになってもらうことはできない。だから、私は算数が好き、という気持ちで授業をして、新しいことを学ぶ楽しさを伝えていきたい!」という、熱意のこもった言葉。
自分の過去を受け止めたことで、自然に愛を持って人と接していることが、言葉や行動一つ一つから、伝わってきます。その人柄は子供たちにも伝わり、確かな信頼関係を築いていました。
先生たちと一緒に創っていく、これからのDOTS
ウォンガニ先生が、ビクトリア先生をDOTSの担当に選んだ理由。
そこにはきっと、私も感じたような温かな人柄と、教育や学ぶことへの熱意に対する信頼があるのだと思います。
DOTSに参加した最初のモチベーションが、彼女自身の「日本の人と話してみたい!」だったということもあり、子どもたちの様子を嬉しそうに見守ったり、拍手を送ったり、自分も会話に参加したりと、いきいきした様子で参加してくれています。
ビクトリア先生からは、DOTSに参加しているときの子どもたちの様子についてもお聞きしました。
DOTSに対する子どもたちの関心はとても高く、「次は僕が参加したい!」という声が挙がることもあるそうです。しかし、学力のハードル、人数の問題もあり、やりたい子にやらせてあげられるとは限りません。
その事情を知った上で、代表として参加した子どもたちは、DOTSが終わった後、話した内容や、新たに知った日本語の単語などを、友達に積極的にシェアしているそうです。
「参加ができなかった子どもたちに対しても、別端末を使ってリアルタイムにその様子を見せたい。」という提案がビクトリア先生からあり、少しでも多くの子どもたちに体験させたいという強い想いを、確かに受け止めた瞬間でした。
マラウイは日本以上に、外国の文化や人と接する機会が、子どもにとっても大人にとっても少ない環境です。また、学校においても、一クラスの人数が多すぎるがゆえに、子どもたち一人ひとりと向き合いたくてもできないと、諦めの気持ちを持ってしまう先生が多いという現状があります。
この先の「DOTS」が、マラウイの人たちにとっても「視野を広げ、世界を知る」きっかけとなっていくためには、ウォンガニ先生やビクトリア先生の関わりの幅をさらに広げ、二人の頑張りを伝えていくことも必要だと思っています。
先生たちの努力や想いが、周囲の人たちによって伝播し、「私にもできる!」という希望になっていく未来のためにも、マラウイだからこそできるオリジナルのWeb交流を、一緒に創っていければ、本当に嬉しいです。
ウォンガニ先生の、「DOTSをさらに広めていきたい」という熱い想い、「DOTSに関わることを誇りに思っている」というビクトリア先生からの言葉。しっかりと受け止めて、これからも「DOTS」に取り組み続けていきます。
(聞き手・執筆:櫻井かおり)
ウォンガニ先生のさらなる活躍!(2022/8/8追記)
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