小説の中の色 #5 祖母の布巾色/「猫を抱いて象と泳ぐ」
両隣の建物に押しつぶされそうな小さく古びた家で、祖父母に育てられた主人公が語る、祖母が片時も手放さなかった布巾の描写が印象的です。その布巾は、元はどこにでもある白地に小花模様が描かれたコットンの布巾でしたが、祖母の涙も、汗も、鼻水も吸い込んで、身体の一部のようになっていて、洗濯されることもありませんでした。
どんな絵の具でも出せない色合い
お年寄りの肌の色を思い浮かべてみました。
個人差や身体の部位による違いはありますが、ベースはグレーを含んだベージュ系の色で、部分的に薄い茶系のしみや黒ずみができていたり、刻まれた皺によって影が生じていたりします。肌の大部分は艶が失われてマットな色調ですが、長年水仕事をした手の甲などは皮膚が硬くなり、そこだけ光沢を帯びています。
この古い布巾も同様に、茶色みを帯びたうす暗い色合いで、所々にしみができ、摩擦による毛羽立ちで繊維の張りや艶は無く、鼻水などの汚れが付いた部分には鈍い光沢がありそうです。
絵の具を混ぜて作れないような複雑な色。日々の暮らし、さまざまな思いが長い時間をかけて少しずつ重ねられていった、決して美しい色とは言えないけれど、年月の重みと、どこか暖かみを感じる色ではないかと思います。
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