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二人の研究者(仮)#5 研究者B#1

足を揺すると服の擦れる音がする。
その音のみが部屋に響く。
その部屋の主は椅子の上でパソコンの画面を眺めていた。
「先を越されたか…。」
悔しさとも安堵とも取れる感情が混じった声が出る。
「なるほど…。」
誰にともなく相槌を打つ。もちろんこの部屋には他に誰もいない。

電気のついていない暗がりの部屋で、パソコンの画面だけが光る。

佐藤洋一は大学の研究員である。
教員ではないが、所属する研究室の教授には良くしてもらっているし、代わりに学生を指導することも多い。
エレベータ横のこのフロアの案内には「時空間工学専攻」と書かれていた。
佐藤はこの分野の研究を学生の頃から続けている。その頃からの経験と実績をかわれてこの研究室に来ることになったのだが、正直壁にぶつかり続けてくすぶっていた。
もちろんそれなりに成果は出しているし世間的にも高評価だ。この場合の世間とは非常に狭い世間だが。
それでも結局はネガティブな結論になってしまうものばかりで、本人としては満足していなかった。

この満足していないという感情は、最近自覚したことだった。
普段からあまり感情を表に出すことは少ないが、それなりに思いがあり自発的に行動したりもする。
そんな彼の自発的な思いの一つとしてこんな野望がある。彼の中では一番の思いだ。
この分野で第一人者となり果てはノーベル賞、レベルの高い研究機関に入り成果を出し続け、いずれタイムマシンを造りあげるんだという強い思いがあった。
誰にも話したことはないが秘密にしているつもりもない。
それを成し遂げる自信も、技術も経験もあるはずだった。
実質、第一人者とまでは行かないにしても、十本の指には入るくらいの立場にはいると自負している。

そこに突然、たった一人の研究者が飛び出てきた。
タイムマシンが出来ないことを理論的に示し続けていた自分と可能性を示した彼とではどちらが優秀なのか?一般人から見れば後者の方だろう。
そんなことを思いながらこの日は午後からずっと自室に篭っていた。


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