二人の研究者(仮)#13 仮説#1
一日だけ回答の期間を貰った。
が、あまり断われない話だとは感じた。それに、悪くない話だとも思う。
ではなぜすぐに回答しなかったか?
未だに小林が死んだと信じられなかったからだ。自分はこの三ヶ月の間、そのことを知らずに過ごしていたことになる。今のこのご時世、こんな大きなニュースをどこからも耳にせず気付かずに生きていられるか?
いや、意図していたとしても無理だろう。それこそ誰もいない山奥でひっそりと生きている人間くらいにしかできない。
だから確かめることにした。
佐藤はGR社の先端研究所のロビーにある、面会スペースの一つにいた。約束の時間まであと8分30秒。
GR社は最大手のIT企業だ。その売上のほとんどをWEB上に配信する広告サービスの収入でまかなっている。その他には少ない割合ではあるが、WEBサービスや電子機器の販売などがある。
WEBでかき集めた資金を使って、とにかく面白いものを開発することでも有名な企業だ。例えば、 SF映画の世界でよく見るような身体に埋め込むコンピュータや、空中に浮かび上がるホログラフィックインターフェースなんかが挙げられる。タイムマシンもそのうちの一つだろう。ある程度、社員の裁量に任せた自由な研究開発ができる社風なのも時々話題になる。
この先端研究所はそのGR社の中でも基礎研究に近い部分が集まった場所だ。ここで開発された基礎技術や理論が新しい製品へと変貌していく。そのための商品開発部門はまた別の研究所にあるらしい。
先端研究所は事務棟と三つの研究棟に分かれている。今いるのは事務棟だ。研究員の居室はこの事務棟にある。といっても居室が与えられるのはそれなりの立場にいる者だけだろうが。
腰掛けている椅子は、決して座り心地が良いというものではなかったが変わった形をしている。デザイナーズチェアというものだろう。椅子に限らず面会スペース全体の雰囲気が洒落た感じになっている。
このスペースだけでも費用がどれだけかかるのだろうと想像しながら、シンプルにデザインされた時計を見上げ時刻を確認した。
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