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仮面村ポーカーのディベロップノート(COLON ARC)

今回は、備忘録というか、仕事内容紹介というか、比較的同人のボドゲデザイナーさん向けに書くNoteです。

今回の新作「仮面村ポーカー」では、おそらくこれまでCOLON ARCでリメイク(というか、リビルド)してきたゲームの中で一番変更点が大きいかもしれません。
もうちょっと行くと「シンデレラマジック」のように「共作」となります。

弊社で声をかけさせていただいて出版する場合、がっつり手を出す場合はこんなことをします、っていう内容の話になります。需要、ほんまどこにあるんやろか……

っと。グダグダ前書き並べても仕方ないので、レッツ本編。


1.「仮面村ポーカー」の元ゲームと話のきっかけと

まず前提のお話を少し書きます。

「仮面村ポーカー」の元のゲームは、「アルパカ村へようこそ!」という創作ボドゲサークルの「高天原」のカードゲームです。古くから私を知っている人は、「お前のサークルやんけ」っていいそうですが、ええ、まぁ、そうです。

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高天原の現在は、ほとんどすべての活動をぺけさん(海老めぐみさん)が1人で行っています。テストプレイについては、私の自宅で月に1回開いているのですが、そこにも参加しています。

とはいえ、このゲームの場合、私はテストプレイに1回だけ参加した程度です。他の場所でテストプレイされていて、いろいろな意見やアイデアを取り入れた、整理はされていないけれど、ほぼほぼできている状態で遊ばせてもらいました。

後、邪推されても困るので書いておくのですが、近しい人、特に高天原関連のリメイクを優先的にすることはありません。その辺は後でも触れてますので、そちらも読んでもらえたら。


※アルパカ村へようこそ! のステータス

タイトル アルパカ村へようこそ!
プレイ人数 2人
プレイ時間 約20分
推奨年齢 10歳以上
発売時期 ゲームマーケット2020秋

◆内容
2人用のカードドラフトゲームで、人狼をテーマに取っています。能力が人狼由来になっているため、イメージしやすくなっています。
システムで特徴的なのが、カードドラフトの後にある「アクションフェイズ」。いくつかのカードにはアクションが書かれていて、カードに振られた数字順に解決していくのですが、その絡み合いがとてもうまくできていました。

実際、テストプレイの時に、「お、これ、システムの構造が面白いな」と思ったのが最初のきっかけかなと思います。


2.製作ボードゲームの選定の話

最近のCOLON ARCでは、その年に出すゲームを5~6月(遅くて7月)に選定します。
選定基準は、「自分が面白かったこと」、そして「ある程度の完成していること」です。細かくて重要なことがたくさんありますが、ざっくりこの2つです。
この選定に上がるゲームですが、以下のようなものがあります。

1.ゲムマなどイベントで販売されたもの(気になるやつは買ってます)
2.自宅テストプレイ会で作者に「出す予定はないけど、出したかったらどうぞ」って言われたもの
3.自分が作ったゲーム(もしくは、アイデア、プラン)

これらを振るい、というか、なんだろう、天下一武道会みたいなトーナメント方式にして、比較検討していきます。そうしてトップ4ぐらいをその年に出す、ということで準備していきます。

「アルパカ村へようこそ!」もこの中に入っていて、見事トップ4に入ったということで、製品化する方向で考えることにしました。

近しい友人のボドゲでも、この選定に漏れると再販やリメイクをお願いされてもやりません。それはそう。


3.製品化に当たって

まず、製品としての最終形を考えます。

タイトル アルパカ村へようこそ! → (1)テーマ変更
プレイ人数 2人 → (2)複数人、できれば2~5人
プレイ時間 約20分 → (3)要相談
推奨年齢 10歳以上 → (3)要相談
発売時期 ゲームマーケット2020秋 → 2021年秋、22年大阪、22年春のどこか。


(1)テーマ変更

ゲームを遊んだ感じ、見た目に反して初心者向けというよりは、しっかり遊ばせる系のゲームでした。がっつりのゲーマー向けではありませんが、カードでしっかりドラフトしたい、ぐらいの温度感でしょうか。

以下、ぺけさんにリメイクに当たって、私が最初にした説明の一部です。

”ゲームとイラストとタイトルがあまり合ってないと感じました。
イラストやタイトルから、もっと簡単な、具体的に言えばぺけちゃんが過去に出した「ちんあなごっこ」ぐらい軽いゲームを想像するのに、いざ遊んでみるとフェドゥッティさんの「操り人形」やフリーゼさんの「サンドキャッスル」ぐらいの重さがありました”


ここで作者のぺけちゃんと相談です。
まずは、ぺけちゃんの意図を聞きます。これが今後、何よりも一番優先することになります。

”このゲームは、鍋野企画さんの「犯人は踊る(すごろくや様)」ぐらいの軽さを目指して作りました。ゲームがあまりうまくなくてもカードの巡りで強いゲーマーにも勝てちゃうぐらい。なので、あまりがっつりのゲーマー向けだと、リメイクはしたくない。後、できればリメイクは私が絵を描きたい。もちろん選択肢はそちらにあるんだけど。”


実際できたもの(アルパカ村へようこそ!)と、結構剥離があって、一旦自分の中で再整理です。
もちろん、その希望を通すためです。

また最初に私が考えていたのは、このゲームは、相手の手持ちのカードを推理しつつ、効果的なカードを選択していく、もうちょっとカードを複雑にすれば立派なギーク向け(ゲームが得意なゲーマー)のゲームです。
大人っぽい、ホラー的なイラストにしてもいいかなと考えていました。もちろん、その場合は新たにイラストレーターを探さなくてはなりませんが。


とはいえ、ぺけさんの要望が優先なので、元々の路線の方向を模索することにしました。それくらい、このゲームは自由度があるな、と感じていたこともあります。また、それはそれで面白くできる気はしていた、というのも本音ですね。


(2)複数人、できれば2~5人

問題点は1つではありません。先ほどの問題と並行して進めます。
最初の自宅テストプレイ会では複数人プレイでの実験をいくつか行いました。
アイデアはいくつかあったのですが、合計で3か月かかったかな。システム部分だけで。そこでようやく今の形に落ち着きました。アイデアが多い分、ゲームのふり幅が大きい分、試す部分がものすごく多かったです。

それに当たって、最初にこのゲームの根幹を考えました。
根幹というのは、このゲームのどこが、「楽しい」のか。「面白い」のか。それを言語化するところからスタートです。

その結果、ゲームの分解し、そしてぺけさんの意図を合わせると以下の点に絞られました。
もちろん、こんなミクロな話は作成者であるぺけさんが考えていることはなくて、自分で理解して、自分で実験して、正しいこと実感をつかんで進める、という感じなのですが。

・面白、楽しいポイント
1.カードを引いたときに、「前に引いたカードを取っておけばよかった」「取っておいてよかった」と思わせる点。
2.相手の手札の推測。もしくは推測して攻撃する点。

1つ目が全体の全体の8割ぐらい、という結論になったのは、2回目の自宅テストプレイ会の時でした。
この面白ポイントに設定する前に、他の面白ポイントに設定したテストキットを2つ、いや3つか4つほど作ったと思います。もちろん、それらはテストされ、ダメな部分を明確にしてくれました。そうして残ったポイントを伸ばす、という進め方をしました。

同様にぺけさんからも「ちょっと違う」という感じの感想をたくさんもらいました。そこを1つ1つチェックして、元々想定していたポイントが間違いないことを確かめていきます。

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ちょっとだけ余談にずれますが、本来のテストプレイはこういった「可能性はあるけど、実際どうなの?」をつぶしていくことかなと思っています。

でもほんと、その分、振り切ったテストキットをたくさん作らないといけないのが面倒ですね……(毎回思う。紙の消費も激しいし)

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(3)プレイ時間と推奨年齢

ちょっと長くゲーマーしてないとわかりにくい部分としてボードゲームの1つの指標に「推奨年齢」があります。交渉できるとか、ブラフをかませるとか。そういった点です。実際の年齢とは強くは関係していないと思います。強くは……(でも参考にすることはありますよね)

リメイクではそういう部分の話も必要です。

これらを決めるには、「先ほどの(1)や(2)で試した結果」、そして「これまでの様座な体験から思考テストした結果」、「自宅テストプレイ会で自分で感じた内容」、そして、「メインの柱となるぺけさんの意図」

”鍋野さんの「犯人は踊る」ぐらいの軽さを目指して作りました。ゲームがあまりうまくなくてもカードの巡りで強いゲーマーにも勝てちゃうぐらい。”

を使って、ゲームの着地点、方向性を決めます。ディレクターって呼ばれる部分の仕事ですね。


上記をまとめて、3か月目のテストプレイ会で準備したのが以下のような感じです。

タイトル アルパカ村へようこそ! → タイトル変更。テーマはそのままゆるふわ。
プレイ人数 2人 → 2~5人。可能であれば6人プレイも。
プレイ時間 約20分 → 45分程度
推奨年齢 10歳以上 → 8 or10歳以上
発売時期 ゲームマーケット2020秋 → 2021年秋

こんな感じで調整したテスト版を作って、いざ4回目の自宅テストプレイ会に臨みました。
結果は、今回の原型ができました、という感じです。


4.細部の作りこみと追加プラン

4回目ののテストプレイで最終形が見えたので、細部を作りこんでいきます。またそれらのために、現在の原型となっているプランに追加して、ゲームを分厚くしていきます。タイトルも決めなくてはいけません。

まずは、追加プランのために、下調べです。
ゲームのテーマは「村づくり」です。現代でいうと「村おこし」に近いのかなということで、その辺調べたり、「人狼テーマ」という部分もあるので、人狼の役職についてあれこれ調べたり。

それらの知識部分から、カード能力のアイデアを書き出していきます。
目標は採用数の2倍程度です。

次に考え付いた能力をジャンル分けします。
同時にゲームに登場させるカード枚数を計算からある程度の答えを出します。
さらにそこからカードの種類数を計算します。ここはプレイ時間やプレイ人数から逆算すれば出てくるので、ほぼ機械的です。

そして、細部を仕上げていきます。それらの数字の部分は一部は経験則から来ています。いや、これまでの知識って言った方がそれらしいかもしれません。w

カード調整の一例を書くと、こんな感じです。

例:山札から登場しないカードがあるとして、ゲーム要素に推理がある場合、どの程度の枚数までなら「推理のずれ」の許容の範囲なのかを考えます。時には枚数で、時には割合で。

分からない場合はテストプレイするか、過去のゲーム(もちろん、自分が出したものでなくて構いません。)の配分を見て考えるとか。他のデザイナーさんの本を読んだりすると、数式や数列を使う場合もあるみたいですね。一番変わった友人の場合は、AIに決めさせたとかなんとか。

こうして、調整を行っていきます。


大枠が決まってきたら、その枚数に合わせたカードの種類を決めて、その種類に合うように、たくさん用意したアイデアを分類します。
この時にあふれてしまったり合わないアイデアは補欠に回していきます。廃棄しないのがポイントです。たまに後で必要になったりするので……
どのカードもすべて「仮」能力です。そして、それは経験則によって成り立っています。

4か月目のテストプレイでは、特に「ピーキー」なカードのテストを行いました。全部突っ込んで、遊んでくれた人から感想を聞きます。感想のほとんどは「よくない」です。だってピーキーなんだもの。
そこで話題に上がったカードのコメントを集めました。いいのも、悪いのも。

さあ、それらを削って…… なんてことをしてはいけません。
目立つのは悪いことばかりではありません。それが味になったりもします。ポイントは、ゲームがより面白くなるかどうか、という視点で考えます。

そういったことを考えて、能力を調整します。
場合によっては新規のアイデアを考えます。

とはいえ、新規ばかり考えると何も進みません。整理を重点的にします。
特殊カードは面白さに大きく寄与しますが、プレイヤーには労力を割いてもらうことになります。
どの程度の労力にするか、については、ゲーム構造も含めた話になるので、説明がしにくく、私の説明ではわかりにくいので割愛しますが、可能な限り、「すんなり受け入れられる範囲で」カードを決めていくことになります。

こうして、ゲームに登場するカードの能力がほぼほぼ確定します。(無限にテストプレイするタイミングがあるなら、ほんとはこの辺で無限にしてたい)


5.テーマとタイトル

カードの能力、という点だけ取れはそれは無味無臭の乾燥したアイデアです。それにテーマからくるキャラクターを乗せると、わかりやすいカード、イメージしやすいカードとなります。

今回はリメイクにはなるので、元々あったキャラクターの部分は作りやすい部分です。
それらをある程度まとめたら、新規のカードの部分になります。
今回は…… 元あったカードの能力もすべて手を入れたので、34種すべてをキャラクターを合わせて再評価です。

能力に沿ったキャラクターを、キャラクターに沿った能力を、という双方から歩み寄った調整を加えます。この部分を適当にやると「遊びにくい」ゲームになることは、過去にやらかした自分のゲームで証明されてしまっているので、同じことを繰り返さないように気を付けます。

そして、タイトル決めです。
まず、ゲームは以前よりもうちょっと難しくなります。
でもイラストに耐えられるぐらいの難易度のゲームにはなりました。

少しシリアス、でも実際は遊びやすい、そんなゲームを意識しつつ、ブラウザを開いて、映画や小説、漫画のページをたくさん開きます。
アイデアを探すんですね。
そして感じた、思いついた単語をバンバン紙に書いていきます。

後で、読み返して、よさげなものをピックアップして、それらを調べて……っていう感じでタイトル案を複数作って、決めていきます。天才なんかは「ぴたっ!」としたタイトルを思いつちゃうものかもしれませんけど、私なんかはこれが精いっぱい(ばたり

最終候補のいくつかをイラストを描いてもらうぺけさんに照会して、決めました。イラストへのイメージも大事なので。

タイトルからくるイメージが私自身のイメージとも一致することも確認します。大事です。


6.終わりに

え、終わりに?
そう、終わりにです。
ディベロップとしては、ここまででほぼ終了です。イラスト部分はアートディレクター(いうても私なんですが)の役割で、カードのデザイン、レイアウト、ユーザビリティ、UIなんかのテストをします。
ですがシステム部分はほとんどここで終わりです。

イラストを描いてもらって、カードのデザインを作って、配置して、印刷して、UI確かめて、作り直して、という感じで進めていきます。
とはいえ、デザインからカードの変更をしなければならない場合も発生して、追加アイデアを求められたりします。
そう、そんな時に補欠に置いてあるアイデアが生きてきます。(今回も生きてます。)

そうして、最終案を作って、カードリストをイラストレーター(いうてもぺけさん)と確認して、双方でOKが出て、入稿、印刷です。


今回の製作については、当初から「全部変えていいよ(でもコンセプトは変えないでね)」という感じだったので、リメイクというより、より大掛かりなリビルドになりました。分解、そしてコンセプトを変えての再作成みたいな感じですね。

その分、手を加える部分も多く、元々の作者であるぺけさんにもたくさん意見を聞きました。


こういった点は、製作するゲームによって大きく異なる、ほんとケースバイケースです。
例えばですが、2020年に出した「花見小路 日本版」については、ルール面はそのままに、イラストをすべて一新、そして追加のアクションカードを採用しました。
追加のアクションカード部分はかなり前(3-4年?)に元々のアイデアはもらっていて、出すタイミングを見計らっていたんですが、それがようやく形になった感じです。追加アクションのテストもほぼほぼ以前終わっていたので、手がかかることはなかったですね。
私の視点が増えていたので、それでの修正がちょっと入ったぐらいです。

2017年に出した「ヒトトイロ」では元々のタイトル「Day Ever」でほしかった「お題の大幅な追加」、「繰り返し遊ぶための色の追加」を行っています。
特に「お題の追加」については、作者の大谷さんとリストを共有し、あれやこれや言いながら作成しています。
意図と異なるお題が消えたり、意図から生まれたお題ができたり。


そんな感じで、COLON ARCでリメイクを出す場合、同じルールでイラストを変える、というだけでなく、分解して組み直すリビルド、追加するアドオン、純粋に増やすパワーアップなどを行っています。
これらは私が触れたときに「この辺やりたい」ってところが最優先されるイメージです。

もちろん、元のゲームは素晴らしいです。あえて追加しない場合も今後あると思います。

いいアイデアがあれば今後やりたいリメイクもあります。昔出た同人カドゲ、ボドゲで面白いのがたくさんあるんですよ。
でもいいアイデアが出ないとそのままなんですよね……がんばろ。


最後の最後にちょっと余談になりますが、次回ゲムマ2022春に予定しているゲームは、テストプレイ段階で製品化をお願いしたゲームです。
テストプレイの段階が「整理」の前だったため、カードの能力は1から作っています。
オリジナルの作者のテイストが結構出るゲームになっているので、カードゲーム、特にTCGやドミニオンが好きな方にオススメできるゲームになっていると思います。


ではでは。

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