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食の授業「FOOD DESIGN」


先日とある高校から市役所を通して「フードデザイン」を選考しているクラスで講義をして欲しいとの依頼がありました。
次世代を担う方々が自分たちのカラダやココロを作っている食に興味を持ってくれるってだけでとても嬉しいのに、更には「フードデザイン」という選考科目まであるという…今の高校は進んでいますな…

フードデザインという選考科目

授業は3時限と4時限の2枠を使ったもので、このフードデザインという科目を選考している生徒は4名。良くも悪くもこれが「食への関心」の現状と捉えます。
授業の最初に「フードデザイン」という専攻科目で普段どんなことを学んでいるのか?ということをクラスに聞いてみると

「基本調理の実習が多い」
「来月に調理実習のテスト(制限時間内に決められた品目の料理を作る)がある」

という答え。おっ…下流(川下)にスポットがあたっているのね…という印象。ココは予想通りでした。もしかすると調理のテクニック的なお話を望んでいるのかもしれないので、この段階で最初に本日のレジュメを公開。

まず最初に伝えたのは、

  • 今日は調理の技術などに関する話は一切ありません。

  • フードデザインとは、食産業の上流から下流全体を見た上で、次世代の食環境をイメージ(継承すべきコトと今断ち切っておくコトの精査)しながら、自分の体調や生活に合わせて最適化させていくことだと考えています。

  • というわけで今日は食産業の上流から中流域にかけた話をします。

  • ちなみにみなさんがこのクラスでやられている調理は下流域でのことです。

ということ。

「極端な話をすると、上流のことを知らずに下流で日々生活をしていると、上流で誰かが毒を流していた時に気付けない」
「上流でとても安全で美味しい野菜を供給してくれている農家さんが貧困にあえいでいる時にそれに気付けないと、知らないうちに安全で美味しい野菜を一つ失うことになる」

なんてことも話しました。
自分もそうでしたが、初めてコレについて考えた時、なんとか身近な情報を手繰り寄せながら、今あるピースでなるべくその景色をイメージしてみるという作業がありました。生徒のみなさんもそんな作業をしているんだろうな…という表情が見て取れたのが印象的でありました。

「美味しい」って何?

Seeds Food Design が一番重要視している感覚がこの「美味しい」です。
僕も含め色んな方が「美味しい」「マズイ」というけれど、この「美味しい」って何かをちゃんと考えることってなかなかないものです。
「舌の表面にある味蕾が味を感知してうんぬん…」とか科学的なアプローチを耳にすることもありますが、やはり大事なのはどれだけ僕ら人間がその味を感知できるセンサーの機能を磨いているか?もしくは退化させないようにしているか?ということ。
一流のワインのテイスターはこの感覚がとても優れていて、ワインの香りから様々な香りや風味をイメージして、美味しさを表す共通言語のようなものに置き換えることが出来ます。
そう、面白いのはワインのテイスティングの世界は、その味や香りを示すための共通言語がしっかり存在しているところ。
僕らが普段味を示す言語もそれこそ幅広く存在するのですが、デジタル化していく中で、普段の会話の言葉がこれだけ変わってくると収集がつかなくなってくるという、それこそ、もう「ヤバい」です。

「ウマい」「マズい」はわかるけど「ヤバい」はどう「ヤバい」のか?
その「ヤバい」は上振れですか下振れですか?というのは、その表情で理解する…というとても複雑で高度な情報解析を僕らは…というよりも若い世代の方々はしているわけです。ある意味コレはすごいことだと思います。

そんな「美味しい」のエピソードを生徒の皆さんに聞かせてもらいましたが、皆さんの美味しいエピソードには必ず「誰か」がいました。
「一人暮らしをしている姉が久しぶりに帰ってきて一緒に食べた◯◯が美味しかった」
「お父さんが作ってくれた◯◯が美味しかった」
「久しぶりに家族揃って食べたファミレスの◯◯が美味しかった」

その「美味しい」に「誰か」がいる!
これは凄いことですよ。舌の表面で頑張っている味蕾たちに理解できない感覚です。

そんなことを話しながら「美味しい」を考えていきます。

僕はこの手の話をする時に良くする話がこのA〜Dのランキング。
1位と4位は決まっています。1位はAで4位がDです。なんで決まっているかという「ココロ」と「カラダ」の反応が一致しているからです。
問題は2位と3位。「ココロ」と「カラダ」の反応が不一致な場合。

コレ、人によって違うのですが僕の知りうる限りBを2位にする方が多いです。昔僕もトンガッていた頃は「俺はCが2位だよ…」なんて言っていたけれど、歳を取ってココロもカラダも丸くなった結果今はBが2位です。
でも人それぞれ、自分の生きている環境で、時と場合によっても違います。

ただ、今回の生徒の皆さんの話を聞く限り皆さん「ココロ」が美味しいと感じることが優勢な傾向にあるようです。

あなたの「食歴」教えてください

職歴ならぬ食歴。僕は生きていく上では「職歴」よりも「食歴」の方が何十倍も重要だと思っています。特に食産業に携わりたい方にはこの「食歴」がとても重要です。ただ、就職ってなってくるとこの「食歴」の伝え方にテクニックが必要になってくる…というのは言うまでもありません。

生きていく上で、生まれてから今までどんな食歴をたどってきたか?というのがなぜ重要なのか?自分が食べてきたものは脳とカラダ、ココロが記憶しています。そうやって僕らのカラダは作られていて命が営まれています。
生まれてこの方マシュマロしか食べてきていない人のカラダは文字通りマシュマロで出来ているんだろうし…(そんな人はたぶんいませんが…)
何らかの不具合で毒成分を食べてしまったら、それはしっかりカラダが反応して、カラダにも脳にもココロにも記憶されます。

そんな今までの食歴の中で印象に残るエピソードをピックアップして、それをエピソードとして人に話ができるようにしておくことは、食歴を整理することにもなって、自分のコミュニケーション能力の向上にもつながったりします。

例えば、幼稚園のときの弁当に[ふき味噌]と[つくし]が入っていた話。
これはどういうことかというと、幼稚園児の僕の目線からしたら、彼らがどいてくれれば唐揚げかミートボールがもう一つそこに入るわけです。もし幼稚園の友達にコレについてたずねたとした満場一致です。きっと幼稚園のお遊技場には「ワンモア唐揚げ・ミートボール」コールがこだますることでしょう。
それでも僕の母はそこに[ふき味噌]と[つくし]を入れました。
弁当を作る母にしたらコレには「季節の味を覚えてもらいたい」という愛があったのです。

そんな愛に気づけたのはずいぶん大人になってからのことでした。
ふき味噌、つくしを食べた時、なぜか幼稚園のときのアルミの弁当箱が映像としてよみがえってきます。
「ああ、ちゃんと良いものを食べさせてもらっていたんだなぁ」と。

こんな風に食歴をエピソードとしてまとめておくと、自分がどんな食べ物で構成されているか?がわかります。と同時に食への関心も高まります。

…というあたりで3時限が終了しました。
一息ついて4時限目に突入します。時間は11:35。
お腹が空いてくる時間です…

食の現状と向き合う時間

4時限目はちょっとヘビーなお話。
もしかしたらお腹空いているのに食欲がなくなってしまうかもしれません。
でも、とても大切な話なので、食産業の上流で起きているお話をさせてもらいました。

生産者のことを考えてみる

まずは生産者について。
これは食産業だけの話ではありません。あらゆる産業の上流〜下流にかけて同じような問題が発生していますが、特に我々がなかなか見ることの出来ない上流部では「知らなかったでは済まされない」ことが起こっています。
まずはこの現実をファッションにも多感な高校生に向けて、食産業ではなくアパレル産業の上流部に起こる現実として受け止めてもらいます。

この手の話をする時にわかりやすいのが「コーヒー」なのですが、生徒の皆さんはあまりコーヒーを飲まれないようでした。
ただ、生産者が貧困に喘ぎながら栽培したコーヒー豆で淹れたコーヒーをのんで「ほっと一息、小さな幸せを感じている僕らがいる」ということと、これはコーヒー豆に限ったことではなくて、その他いろいろな食材でも、海外ではなくて日本国内でも起こっている、もしくは起こり得る問題であるということは伝わったと思います。

この現状を知ってもなおアナタのココロは、誰かの貧困や犠牲の上に成り立っている味を「美味しい」と思えるのか?

どちらが正解・不正解と言うわけではなく、自分はどっちなのか?という事実と正対してもらう。そこが重要だと思っています。

食材のことを考えてみる

いよいよ食材についてです。生徒さんのご実家が農家さんだったりするケースもあるのでかなりセンシティブなところですが、今回はたまたま農家さんに関わっている生徒さんはいませんでした。

最初に言っておくのが、化学農薬や化学肥料を用いた慣行農法や有機肥料栽培とのハイブリッド型農法、有機農法、自然栽培農法など、それぞれ農法の是非を問うものではないということ。

もし是非を問うところがあるとしたら、今の農法を選ぶにあたって、色々調べて自分で納得したうえでの選択であったのかどうか?というところだと思っています。
これはスーパーで食材を選ぶ側の僕らにも同じことが言えます。というかむしろ僕らが今まで選んできた結果として、今の食産業があります。食材は上流から下流へ流れてきますが、ニーズは下流から上流へ登っていくのです。

何かを選択する際に、それは自分の意志で、自分の責任のもとに選択する。

コレさえできていれば問題はないのですが、フードデザインをしていく側として僕が一番憂慮しているのは、ほとんどの方が自分の意志で選んでいるようで選んでいないということです。自分の意志で選べば全ては自分の責任ですから、見立てが悪い…ちゃんと学ぼう…で済みますが、実は自分で選んでいないので、何が起こるかというと消費者庁に苦情が殺到します。
最近でも大きな製薬会社のサプリメントが問題になりましたよね。
お亡くなりになられた方や体調を崩された方にはお悔やみやお見舞い申し上げますが、コロナ以降あまりにも様々な要因があり過ぎるこの状況で一つのサプリメントが直接的な要因になるにはデータが少なすぎる気がします。
おそらく渦中では色々な権謀術数が渦巻いていると思いますが、後出しクレームの殆どの方は、おそらく麹菌の効能とかについてしっかり調べずに「テレビや誰かが良いと言っていたから」購入していた…という感じではないかと思っています。

ココでのポイントは「誰かの話を鵜呑みにするのではなく、これからの世の中は自分の口にいれるものはしっかり調べた上で選択する必要がある」ということ。

その選択するために避けては通れないポイントを生徒の皆さんに見てもらいました。

・残留農薬濃度は国の基準値以下だから、健康への害はまず考えられない

というのをよく聞きますが、その国がなぜか一人逆行して基準を緩和している…、皆さん、コレをどの様に判断するでしょうか?

・やはり日本は進んだ国だ!
・なぜに欧米は規制を強化しているんだろうか?
・今の政府が決めたことを信じてよいのだろうか?

コレはやっぱりちゃんと考えなくちゃいけない問題だと思います。
一方では安価な農産物を求める国民のニーズがあり、
また一方では人手不足や担い手不足に悩む農家の現状もあります。
だからといって今まで通りゆっくり折り合いを付けながら、ある意味少しずつ先延ばししながらやっていくほどの時間が残されているかどうか?という心配も、世界情勢やもう既に起こっている食料危機を見れば当然あります。
今は日本中、いや世界中がそれぞれに大きな決断が必要な時。
選挙も含め、今までのやり方では新しい時代を生きていけない…沿う感じている人も少なくないのではないでしょうか?

その上で選択した答えにはきっと誰も文句のつけようがありません。
だって全て自分の責任での選択ですから。

農薬だけじゃない!利便性と引き換えにに失ったものも多い

農業と農薬の現実を知った上で、そのちょっと下流に位置するのが食品加工業です。いわゆる二次産業。
授業の中では生徒たちにも一番身近な清涼飲料水を取り上げ、YOUTUBEでの動画を見ながら食品添加物の現状を知ってもらいました。

博士も知らないニッポンのウラ[食品のウラ]

見ているととても面白い…と思いきや、清涼飲料水が作られる過程で一切の食品がないことに気づくと「えっ?」となる世界…

僕らが美味しいと思って飲んでいた清涼飲料水のフルーツの味は偽物だったという現実。ココからさらに掘り下げていくと甘味料の世界もかなり深いです。
今回は清涼飲料水を例に挙げましたが、こうやって賞味期限の長さなど利便性の追求や安価に抑えるというニーズに応えた商品が増えていく中で、これらの利便性やクセになる味と引き換えに失ったものはどのくらいあるんでしょうか?
こういうことも、今改めて考えて知っておく時期に来ているんじゃないかと思うのです。これは高校生だけじゃなく、僕ら大人も同じです。

選ぶことを考えてみる

こんな現実を共に学んだ上で、選ぶということを考えてみましょう。
今やちょっと調べれば沢山の情報にリーチできる時代。
サクッと調べて、一番はじめにヒットした情報が自分にとって響きが良ければそれをエビデンスとしてカウントするし、逆ならカウントしない…
こんなエビデンスの取り方は全く意味がありません。
様々なファクト(事実)の積み重ねから導き出される選択こそが、自分で選ぶということです。
そんな話をしました。

そして最後に、何のためにフードデザインをしていきたいか?という問いと図を見てもらいました。
僕らにとって本当にあるべき食の姿は、上の図にある円が上下左右にずれているのではなくきれいに一つの円に重なっている姿です。

僕は今はずれているこの円が少しずつでも同心円に近づくようにフードデザインという道を選びました。
生徒の皆さんが、それぞれどんなフードデザインをしていくのか?
この授業に真剣に向き合ってくれた生徒の皆さんの眼差しに心を打たれながら、彼らが描くデザインを期待して約時間の授業を終えました。

これは僕にとってもとても刺激的な授業でした。
そして先日この4人の生徒さんから授業の感想をまとめたレポートが届きました。
おっ!ちゃんと伝わっている!
これはとても嬉しい。

こんな風にSeeds Food Designとしても、飛騨スパイスカレー研究所としても、今後を担っていく彼らに胸を張って見せられるデザインの形を作っていこうと思います。

そして、嬉しいことに次の授業の依頼もありました。
次は一転してスパイスカレー作りです。
スパイスカレー作りから学べることも沢山あります。
僕も共に学べることが楽しみです…


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