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渋田喜久雄(黎明花)の初期作品『変幻花鳥図』『敵討蓮花仏』Kindle版発売

 昭和初期に大衆文壇へ彗星の如く現れ、長谷川伸の愛弟子にして大林清、山岡荘八、山手樹一郎ら戦後の大衆文学をリードした面々と親交を持つ“時代の寵児”の座に在りながら、戦火の時代に表舞台を去ったため活動の全容が長らく謎に包まれて来た渋田喜久雄(1902~1978)。

 渋田が64歳の時に郷里の福岡県古賀町(現・古賀市)で町役場の広報紙に「梅田健」名義で連載していたコラム『酔筆講談 ペン一本無茶修業』をプリント・オン・デマンド(POD)形式で書籍化したのに続き、昭和初期にいずれも「渋田黎明花」名義で発表したデビュー作『変幻花鳥図』(サンデー毎日大衆文芸昭和5年上期佳作)および当時の大衆文壇の頂点に在った講談社『キング』の誌面を飾った出世作『敵討蓮花仏(かたきうちれんげぼとけ)』の2作品をKindle版で発売しました(著作権継承者承諾済み)。

『酔筆講談』でもこの2作品について取り上げられていますが、渋田の生前にその著作は書籍化されていないためそれぞれ初出から90年、88年ぶりの公開となります。
 デビュー作『変幻花鳥図』は吉川英治『鳴門秘帖』の影響を受けつつ、ややメタフィクション的な文章の挿入が弱点に挙げられるもロマンス、ミステリー、海洋冒険活劇の要素をふんだんに盛り込む意欲作で雑誌掲載の直後に銀幕の大スター・阪東妻三郎が映画化を打診したと言う折り紙付きの1編。
『キング』1932年10月号に掲載された出世作『敵討蓮花仏』は、人違いで親友を斬り浪人の身となった男の苦悩と親友の遺児が成人した暁に仇として討たれる約束を巡る母子の葛藤が題材で、作者自身も上京していた母親に読んで聞かせたと言う思い出もあり特に気に入っていたと思われる珠玉作。

 現在のところ、筆者調べで渋田が生前に残した著作(「渋田黎明花」もしくは「渋田進」名義)は17編を確認しており、今後の調査でさらに増加が見込まれるため短編・長編を合わせて少なくとも50編は存在していると推測されます。
 今後も入力が済んだ作品は順次Kindle版を発売して行く予定ですので、皆様のご支援をいただければ幸いに存じます。

渋田喜久雄『変幻花鳥図』(Kindle版、473円)
渋田喜久雄『敵討蓮花仏』(Kindle版、473円)

(各タイトルの表紙と当記事のヘッダーでは、イラストACの商用利用可能素材を使用しています)

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