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それなら目をつぶりましょう。

※この記事はnote上の別アカウントで書いた記事をこちらのアカウントに転載し、一部加筆修正を加えたものです。______________________________________________
ここ数週間、「アイドルマスター シャイニーカラーズ」(略して"シャニマス")というゲームに睡眠時間を捧げている。
ゲームの概要はこうだ。
プレイヤーは283プロダクションという芸能事務所に所属するアイドルを育成し、仕事をこなしファンを増やす"プロデューサー"に扮し、23人のアイドルのうちガシャで当たった1人を育成する。
言ってみればアイドル版・パワプロサクセスだ。
"アイドルマスター"というゲームの存在はもちろん知っていたが自分の中に内在していた予断と偏見によって敬遠している部分があった。
"アイマス"って音ゲーだよな?音ゲー苦手なんだよな…(通常音ゲーの譜面はボーカルのリズムに依存しており、打楽器のリズムをモニターしてギターを弾く自分にはこれがどうしても慣れなかった)などとタカをくくって触れてこなかったジャンルだった。
だけども、自分の尊敬するインフルエンサーが多数シャニマスをプレイしており、皆口を揃えて素晴らしいゲームだというので、ならプレイしてみましょうと思い立った。(ホントは最近実装された新グループの浅倉透さんがめちゃくちゃ好みだったという動機がデカい)

そんなこんなで軽率にシャニマスに足を踏み入れたわけだがそこで一人のアイドルが目に留まった。
トップの画像にもなっている三峰結華(みつみねゆいか)だ。

このゲームはひとりのアイドルを育てる、といった特性上、アイドルひとりひとりのパーソナリティが深く、詳細に描かれている。
"みんなに好かれたい"一心で自分自身のペルソナを創り出し演じる者(ありのままの自分は人に好いてもらえない、という不安の裏返しでもある)、極端に利他的で自分の幸せが他人の幸せに依存している者など、多種多様の魅力的な人間性を持ったアイドルたちがその内面、そしてアイドルとしての成長を目指しレッスンをこなす。
話を三峰結華に戻す。
三峰は19歳の大学1年生。
アイドルになる以前からかなりのアイドルオタクで、アイドルになってからも仕事の現場で推しのアイドルを見かけると我を忘れて興奮してしまうという珍しい背景を持つ。

自由奔放で掴みどころのないサブカル系眼鏡女子。美人でノリもよく、初対面の人に対しても気後れせずに話しができる。

と公式サイトに記述がある通り高い社交性を備えたまさに現代の快活な女の子といった印象だった。
が、
彼女をプロデュースしていくにつれ、その複雑な内面が徐々に映し出されていく。
今回はタイトルにもしてある「それなら目をつぶりましょう」というエピソードについて感じたことを記したいと思う。
※True Endを含むコミュのネタバレを多分に含みます。
個人の解釈をこれでもかと書き記します。ご注意ください。

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「私だけは見逃してあげるから」
仕事に忙殺されているプロデューサーは体調を崩しながらも、薬を飲み、ひとり事務所で仕事を続ける。
そんなところに三峰がやってくる。

——ねぇねぇプロデューサー、大丈夫?
……あのね? 三峰は、『プロデューサーの体調は大丈夫ですか?』って聞いてるの。

プロデューサーは体調不良を言い当てられたことに驚きつつも、大丈夫だよ、と返答する。

風邪気味、寝不足、締切間近
三峰の目を誤魔化そうったってそうはいきませーん
三峰そういうの隠すために小細工するの得意だからねー、
人がやってるのもわかっちゃうんだなぁ

三峰はプロデューサーにこう告げる。
ここで私はある曲の歌詞を脳裏に浮かべた。

多分平気なふりは人生で
わりと重要なスキルだと思う
多岐に渉り効果示すので
使用頻度もそれなり
人の多くはその熟練者で
大概の焦燥は隠せるが
人の多くがその熟練者だ
大概はばれていたりもするが
『透明飛行船』- BUMP OF CHICKEN

そう、自分の本音を取り繕うことに慣れた人ほど、他人のそれにも敏感になるのだ。
三峰結華は一人称に「三峰」を用いる。
常に自分のことを第三者視点、俯瞰して見ているのではないだろうか。
他人から見た「三峰結華」を常に意識し、それに沿うような振る舞いを見せる。
言い換えれば、ありのままの自分を隠しているというようにも見える。
そして三峰はこう続ける。

プロデューサーはさ、三峰にはすぐ無茶するなって
言うくせに、自分のことは全然顧みないよね

ひとしきりプロデューサーを咎めたのち、差し入れを手渡す。

……無理しないで休みなって、
多分色んな人から言われてるんでしょ?
それでもやらなきゃって思うんだったら—— 
それがプロデューサーにとって、必要なことなんだったら
三峰は、止めないでおいてあげる
目をつぶっててあげる

ここでタイトル「それなら目をつぶりましょう」の真意が明らかになる。
三峰はプロデューサーの無理を深く追求しないことを選ぶ。
ここで気になったのが、いろんな人——つまり三峰以外の人に対しての言及だ。
他人のプロデューサーへの反応に対して、三峰自身はこういう反応をとるよ、という、ここでも三峰の俯瞰的な視点が描写される。
三峰にとって自分とは常に"他者に対しての自分"なのではないかと考察する。
場面は移ろってエピソードの最終幕。True Endと呼ばれる高いハードルを超えた末に見られる特別なエピソードである。

……三峰さぁ、虫がダメなの
誰かと一緒にいる時は、
頑張って慌てないようにしてるけど……
ほんとはまわり飛ばれるだけで怖いし、
あと、触りたくないから追い払えなくて、すごく困る

三峰が自分の内面について吐露する珍しい一幕。
(追記)
ここでの"虫"とは、自分の間合いを弁えずに自分の踏み込まれたくないところまで踏み込んでくる人の比喩ではないかと考察する。
誰かと一緒にいる時は、その場の雰囲気に合わせて頑張って笑っていられる。
でもほんとはそんな人たちが怖いし、関わりたくない=傷つけたりしたくないから振り払うことができない。
これ以前のエピソードに、プロデューサーと三峰がふたりで衣装を探しに買い物に出かける話がある。
そこでショップの店員に恋人同士だと勘違いされるも三峰の機転でそつなくかわす(ように見える)、というストーリーがある。
彼女はその時も、怖くて仕方なかったのではないか、と私は考える。
さらにこう続ける。

——それからね、誰かと一緒に買い物に行くのも、
ほんとはそんなに好きじゃない
……自分の物買おうとしてる時に、
相手のこと付き合わせちゃってるなーって感じるのが嫌でね
色々考えてると疲れちゃって、
買い物が楽しくなくなっちゃったりして——

衣装を一緒に買いに行った経験のあるプロデューサーは取り乱す。

あっ、違うの違うの
プロデューサーに文句言ったわけじゃなくて
誰かの買い物についてくのは大丈夫なんだ、
むしろ好きなぐらい!

すかさずフォローに入る三峰。
そしてこう告げる。

それから——……
えっとね……
……三峰の性格ってアレだから、こいつ面倒だなって
思われてないか、不安になることがあって……
……そういうこと考えてる時の自分は、
ちょっと嫌になる

やはり他者から見た三峰を意識している。
そしてそれを意識する自分がいる。
そして自己嫌悪に陥る。
自意識のメビウスの輪。(なんだそれは)
常に他者から見た自分を意識する、ということはそれ自体が強い自意識だと私は思う。他人にどう見られているか気になる。
他人の評価を気にすること——それは、少しでも良い自分を他人に見て欲しいという自意識ではないかと思う。

えへへ、人の目が気になるのって、
人として当たり前のことだと思うんだけどさ
でも、三峰は好きでこの性格やってるわけじゃん?
だったらうじうじ気にしたりしちゃダメでしょ、みたいな
自分ルールとの兼ね合い? 的な?

ここの立ち回りが絶妙だと思う。
自己完結してしまうのだ。
プロデューサーからの返答を待たず、相手と自分の本音の間に自己完結を挟み込むことで間合いを取らせている。

……で、今みたいに自分勝手に話すくせして、
最後まで踏み込めないように自分から一歩引いちゃうのとか
……ずるいなって、思うの
……ね、もう踏み込めないでしょ?

鬼である。自己分析の鬼。
他人との間合いの取り方が上手、ということは裏返せば自分の本心をさらけ出す——相談事などが苦手であることが多い。ソースは私自身。
相談事に付き合うのは得意な方で、むしろ相談事は自己肯定感の向上にもつながる(汚い物言いだが)のでどちらかといえば好きだしwin-winの意識で取り組める。
だが、なかなかどうして相談に乗ってもらう側というのは難しい。
悩みを打ち明けること、それはつまり相手に自分の弱さを知らせることだ。
自分の弱さを受け入れてもらうことだ。
それはすごく勇気の要ることだと思う。

……それで?
他には苦手なもの、ないのか?と問うプロデューサー。

あとは、多分——……
——ない
P)……今、踏み込んでいいか?
えーダメだよ、ないって言ってるんだから
っていうかプロデューサー、三峰の苦手なこと、
『踏み込まれること』だったらどうするつもり?
P)その可能性があるから許可取ろうとしたんだろ
あはは、やっぱ真面目〜
……でもダメだよ、踏み込んじゃやだ
それに、プロデューサーだったら大丈夫
三峰が一番苦手なことは、多分——プロデューサーだったら
絶対にやらないんだろうなって思うから
だってプロデューサー、三峰のことよく見てくれてるもん
……だから、大丈夫

最後まで予防線を張り続ける。見事。
踏み込んで良いか?と問うプロデューサー、それを拒む三峰。
それでいて見せるプロデューサーへの信頼。
言葉にするのが難しすぎるなんとも言えない情感。
三峰の一番苦手なこと——
プレイヤーに十二分に考察の余地を与えて着地する物語の構造に感嘆のため息を漏らした。
そして、このエピソードのタイトル。
『だから守って、踏み込んで』
"シャニマス"こんなエピソードがつまりに詰まったゲームだ。

引用:https://switchback.sakura.ne.jp/yuikawiki/【それなら目をつぶりましょう】三峰_結華

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