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【プロ野球】楽天とロッテの『大型トレード』を、改めて冷静に考えてみる(前編:選手スタッツ編)

こんにちは。


今年のロッテと楽天のオフシーズンで最も話題となった出来事として、両球団間での度重なる移籍劇は真っ先に候補に挙がります。

ロッテには美馬学投手・西巻賢二内野手・小野郁投手・ハーマン投手が、楽天には鈴木大地内野手・涌井秀章投手・酒居知史投手が入団しました。それぞれの入団形式はFA・人的補償・自由契約・金銭トレードと異なるものの、実質的には大型トレードと見ていいでしょう。


正直、ロッテファンの僕からすると、チームリーダーの鈴木大地選手のFAも、地元出身のスター涌井投手が金銭トレードで放出されたのも、実績のある酒居投手がプロテクト外になったのもとてもショックでした。特に鈴木大地選手が同一リーグにFAしてロッテと戦うことになるのは、現実を直視できないほどつらい出来事でした……。


しかし、時間を経て冷静になってみると、両球団・選手ともに『移籍する理由』があることが改めて分かってきました。

そこで、『各選手が残した数字』『両球団の戦力状況』から、今回の楽天とロッテの選手移動について考えてみます。


今回は、各選手の成績面を振り返り、移籍する選手がどんな選手なのかについて見ていこうと思います。


※当該記事のデータは『1.02 - Essence of Baseball』様、『データで楽しむプロ野球』様、『プロ野球データFreak』様より引用しています。



美馬学投手(楽天→ロッテ)

2015 16登板 3.44 3勝7敗 86 1/3回  62奪三振 FIP: 3.89
2016 25登板 4.30 9勝9敗 155回 116奪三振 FIP: 3.80
2017 26登板 3.26 11勝8敗 171 1/3回 134奪三振 FIP: 3.63
2018 14登板 4.56 2勝6敗 79回 41奪三振 FIP: 5.07
2019 25登板 4.01 8勝5敗 143 2/3回 112奪三振 FIP: 4.07

高い制球力で勝負できる技巧派右腕。スタミナもまだ衰えていない。

ここ4シーズンで3回規定投球回を投げており、2019シーズンに規定投球回数に達した投手の中の1人です。

彼の最大の特徴は与四球の少なさ。過去5シーズンのうちすべてでリーグ平均を下回る四死球に抑え、うち3シーズンで与四球率1点台を記録しています(2016: 1.86、2017: 1.73、2019: 1.50)。余計なランナーを出さない能力はリーグ屈指と言えるでしょう。

また、2017年ころから奪三振能力も向上し、奪三振率は2017年(7.04)と2019年(7.02)の2年でリーグ先発平均を上回っています。つまり四球を抑えつつ三振を奪える、自滅しにくい投手といえます。

一方、弱点と言えるのが被本塁打の多さ。2018年(1.37)、2019年(1.19)と、2年連続で1試合1HR打たれている計算になります。

その原因として推測されるのが球威の微妙な衰えです。HB/FB(フライのうちHRになった割合)は、2015~2017年では9.9%→8.2%→8.9%でしたが、2018~2019年で12.5%→11.6%と増加しています。(※1) 同時に、Pull率(引っ張りの打球を打たれた率)も2016年から年々悪化(30.1%→33.7%→35.0%→38.8%)している状況です。

ただ、『守備の影響』『運の要素』を見ると、2019年はキャリア平均に近いシーズンであり、直球の平均球速(143.6km/h)も平均水準に収まっています。ストライクゾーンで勝負できる球威と制球力さえ維持できれば、打線次第で2桁は十分期待できる投手といえそうです。


涌井秀章投手(ロッテ→楽天)

2015 28登板 3.39 15勝9敗 188 2/3回 117奪三振 FIP: 3.77
2016 26登板 3.01 10勝7敗 188 2/3回 118奪三振 FIP: 3.96
2017 25登板 3.99 5勝11敗 158回 115奪三振 FIP: 4.53
2018 22登板 3.70 7勝9敗 150 2/3回 99奪三振 FIP: 4.10
2019 18登板 4.50 3勝7敗 104回 87奪三振 FIP: 4.32

年々強みが薄くなってしまっている。復活できるか?

年度別成績を見てみると、最多勝を獲得した2015年から右肩下がりに下降しています…。

大きな原因の1つが被本塁打の急増です。2015、2016年の涌井投手は、被本塁打率を0.52→0.72に抑え、リーグでも上位5名に入る優秀さでした。しかし、2017年からは1.14→0.96→1.21と、一転してリーグ平均より悪い数値に転じています。

さらに、涌井投手の代名詞であったスタミナも衰えつつあるようです。平均イニング数も、2019年はロッテ移籍以降初めて6を下回りました。

原因として考えられるのはフライ率の増加でしょうか。今シーズンはここ5年間で初めてフライ率がゴロ率を上回ったシーズンでした。さらに、強い打球を打たれやすかったことも考えられます。Hard率(強い打球を打たれた率)は、過去の平均より6%も高い割合になっています。

ただし、今年は被BABIPが非常に高く(.348)、キャリアを通してBABIPが高い投手でもないことから、運にも見放されたシーズンだったとも言えます。新天地で持ち前の総合力を見せつけられるか真価の見せどころです。


ハーマン投手(楽天→ロッテ)

2017 56登板 2.72 3勝1敗1S 33H 53回 58奪三振 FIP: 3.88
2018 47登板 1.99 2勝3敗18S 12H 45 1/3回 44奪三振 FIP: 2.98
2019 50登板 3.04 5勝3敗 21H 47 1/3回 49奪三振 FIP: 3.51

来期も中継ぎの柱として十分期待できる右腕。

高齢(来季35歳)と年俸(2019年:1.3億円)の関係や、防御率の低下、ブセニッツ投手の活躍などによりリリース対象になった投手ですが、成績を細かく見るとまだまだ活躍の余地が十分にあります

特徴として、リリーフで通用しうる水準の奪三振能力、球威とノビのある直球でフライアウトを奪える点が挙げられます。毎年イニングと同数の三振を奪っている上、MAX154km/hの直球を武器に、毎年ゴロアウトの1.3~1.5倍のフライを奪っています。

さらに、来日3年目の2019年は被打率(.191)、WHIP(0.99)で自己最高の数字を残しています。このことから、3年間で大きく衰えた可能性も低いといえます。

しかし、被BABIPの低さ(.253)から、2019年は幸運なシーズンだった可能性も否めません。また、本拠地でHRが出やすいロッテでは、フライボール投手は不利になる可能性もあります。実際に、今年の被本塁打率は0.95と、ほぼリーグ平均並でした。2018年の好成績(0.40)と比較すると大きく悪化しているのがわかります。

とはいえ、基本的なスタッツを見る限りでは、2020年も期待できる投手と見ていいでしょう。


酒居知史投手(ロッテ→楽天)

2017 19登板 3.13 5勝1敗 1H 74 2/3回 48奪三振 FIP: 4.75
2018 15登板 5.59 2勝6敗 83 2/3回 55奪三振 FIP: 5.17
2019 54登板 4.37 5勝4敗 20H 57 2/3回 60奪三振 FIP: 4.41

人的補償の中ではかなりの大物?来年すぐに使える中継ぎ投手。

報道を見たときは「どうしてプロテクト外なの??」と驚いた投手でした。『ロッテの29番目の選手』として、楽天でどのような結果を残すか見ものの投手。

2019年は、リリーフ転向したことにより奪三振率が飛躍的に向上。同時に被打率(.236)もリーグ平均より優秀な成績を残しました。リリーフ転向に伴い、例年被打率の低かったフォークの投球割合を増やした(24.2%→37.2%)ことが成績向上につながったと推測できます。

また、幅広い起用法に対応できるのも魅力。先発と中継ぎをこなせ、回跨ぎもできる投手なので、首脳陣からすると非常にありがたい投手ではないでしょうか。

課題は被本塁打の多さ、四球の多さです。毎年被本塁打率が1.3~1.4を推移しており、いわゆる一発病の気がある投手です。また、四球もやや多めで、今季は平均の約1.15倍ほど四球を出しています。現状では、終盤の競った試合展開で登板させるのには不安が付きまといます。

とはいえ人的補償としてはかなりの好投手であることには変わりありません。新天地での活躍を期待したいです。



小野郁投手(楽天→ロッテ)

2018(1軍) 9登板 3.48 0勝1敗 10 1/3回 9奪三振 FIP: 4.48
2018(2軍) 39登板 1.86 3勝3敗 20S 38 2/3回 38奪三振
2019(1軍) 13登板 6.27 0勝0敗 18 2/3回 14奪三振 FIP: 5.04
2019(2軍) 35登板 3.32 2勝3敗 14S 38回 53奪三振 

「化ければ内竜也クラス」の未完の大器。

一方の楽天からの人的補償である小野投手は、2軍では無双しつつあり、あとは1軍でファームでの投球ができるかが勝負の投手です。

特徴として、2軍レベルなら被本塁打を極めて打たれにくく、奪三振も多く取れる投手です。ここ2シーズンで、被本塁打率は0.46→0.03を残しています。特に今季は1本しかHRを打たれていません。また、2019年は奪三振率も向上し、12.55という数字を叩き出しました。

しかし、まだ1軍では力を発揮できていません。直球の被打率が2年とも.360台なのが響いている形です。

彼の課題は制球力にあると推測されます。2軍で結果を残したここ2年間も、与四球率はともに4を超えています。その一方で、1軍ではリーグ平均よりも四球数を抑えられているという結果となっています。

このことから、2軍では多少球が荒れても勢いで抑えられたが、1軍ではコントロールを気にしすぎて腕が縮こまった可能性が考えられます。その結果が、高い直球被打率と、1軍における四球の少なさと推測しました。

裏を返せば、制球力を向上させるか、1軍でも抑えきれる球威が付けばリリーフ適性は十分にあるといえます。指導者の腕の見せ所でしょう。


鈴木大地選手(ロッテ→楽天)

【打撃成績】
2015 142試合 .263 6本 50打点 47四球 OPS .695
2016 143試合 .285 6本 61打点 50四球 OPS .745
2017 143試合 .260 11本 52打点 55四球 OPS .748
2018 143試合 .266 8本 49打点 44四球 OPS .744
2019 140試合 .288 15本 68打点 56四球 OPS .826
【守備成績】
2015 (SS) UZR1200:-16.2(併殺 -4.8/範囲 -13.2/失策回避 +1.7)
2016 (SS) UZR1200:-11.9(併殺 0.1/範囲 -12.0/失策回避 +0.3)
2017 (2B) UZR1200:-6.3(併殺 -4.5/範囲 -3.1/失策回避 +1.1)
2018 (3B) UZR1200:-1.3(併殺 -1.0/範囲 -3.4/失策回避 +3.1)
2019 (1B) UZR1200:-1.4(併殺 -0.2/範囲 -1.2/失策回避 +0.7)

抜群の安定感と頑丈さは。新天地ではどのポジションで輝く…?

改めて鈴木大地選手の特徴を数字から見渡してみると、『欠場の少なさ』『残す数字の安定感と平均の高さ』が浮かび上がります。ほぼ毎年フル出場しつつ、OPS.750前後を安定して記録できる点が売り。今年はラグーンの恩恵も受け、自己ベストの成績を残しました。

セイバー的には、高い選球眼・少ない三振・リーグ平均水準近くの長打力を残せる選手といえます。選球眼を測る指標の””IsoD””で毎年リーグ平均の1.1倍ほどの数字を残しつつ、三振率をリーグ平均の0.5~.0.6倍程度に抑えられる打者です。HRは少なめですが、2塁打と3塁打が多いため、リーグ平均の0.9倍ほどまで長打を打てています。

セイバー的にもブレの少ない、「非常に計算しやすい選手」といえるでしょう。

問題は守備位置。

内野の全ポジション+レフトを守れるユーティリティ性は大きな武器です。しかし、レギュラーとして固定するとなると、守備で利得を稼げる選手ではない点が悩ましいところです。

どのポジションでも平均以上に失策を抑えられる一方、平均以下の範囲であるのも特徴。失策で試合を壊すことは少ないが、取れるボールに追いつけない可能性が多少高い選手ともいえます。

おそらく「打撃型セカンド」「堅守・高出塁型のサード」、もしくは「守備走塁に穴の少ないファースト」として想定されているでしょう。監督の起用法に期待したいですね。


西巻賢二選手(楽天→ロッテ)

【打撃成績】
2018(1軍) 25試合 .247 0本 3打点 3四球 OPS .561
2018(2軍) 91試合 .253 5本 33打点 30四球 OPS .702
2019(2軍) 106試合 .233 1本 25打点 41四球 OPS .631
【守備成績】
2018 (SS,1軍) UZR1200:-77.1(併殺 -0.1/範囲 -9.1/失策回避 -0.7)

1年目の輝きを取り戻せるか。小柄でも意外と打てる打者なはず。

168cmと小柄ながら、50m 6秒1、遠投115mといった俊足強肩が武器の内野手。プロ入り前は特に守備で期待されていた選手です。

1年目から1軍で出場し.247を記録。2軍でOPS.700を記録するなど、少なくとも1年目の数字だけを見れば完全にプロスペクトの1人です。特に、1年目は2軍で優秀な三振率の低さ(9.5%)を誇っていました。

【参考】


ただ、定評があるとされた守備は、1年目はプロの壁に阻まれた格好。1軍レベルではないことが露呈したシーズンでした。

飛躍の2年目……のはずでしたが、2軍成績を見ると、打率、OPS、本塁打が目に見えて悪化しています。特に、前年優秀だった三振率は、19.9%に終わり、武器を1つ失った格好になってしまいました。(四球率が前年の7.7%から10.7%に上がったのを見ると、待球型にシフトした可能性もあります)そのことが、石井GMに嫌われて育成契約を打診された可能性も否めません……

1年目の傾向を保てたなら、小柄な中にも長打力を秘めた内野手に育つ可能性も秘めています。守備についても、まだ来年で高卒3年目ですので今後の成長にも期待できます。

将来的な遊撃レギュラー候補としても、近未来の二塁・遊撃のサブ要因(=三木亮選手の後釜枠)としても見てみたいですね。



以上となります。


次回は『チーム事情』の観点から見ていこうと思います!










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