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【プロ野球】楽天とロッテの『大型トレード』を、改めて冷静に考えてみる(後編:チーム事情編)

こんにちは。


この記事は前回の記事の続きとなります。

このオフシーズン、千葉ロッテと東北楽天との間で以下の選手移動が起こりました。

【楽天→ロッテ】美馬学投手・西巻賢二内野手・小野郁投手・ハーマン投手
【ロッテ→楽天】鈴木大地内野手・涌井秀章投手・酒居知史投手

今回は『両球団の戦力状況』から、今回の移籍がどのようなものだったか考えていこうと思います。


※当該記事のデータは『1.02 - Essence of Baseball』様、『データで楽しむプロ野球』様、『プロ野球データFreak』様より引用しています。



ロッテの戦力状況


2019年のロッテは、「中継ぎ陣の不調」「遊撃手が固定できなかった」「攻守に使える外野が1枚足りない」ことが弱点になっていました。


(DELTAGRAPHS様によるロッテのポジション別得失点差表)


【投手陣】

ロッテ2019投手陣

(青字が新加入、緑字が退団選手。記載は2019年の1軍陣容です)

2019年のロッテは、主に若手主体の先発投手が飛躍した年でした。その結果、先発ローテの平均年齢は一気に若返りを見せました。

しかし、一方で規定投球回をクリアした投手は0人。石川投手・二木投手に次ぐイニングイーターが不可欠な状況です。また、長年チームの先発を担いチームトップのイニングを稼いできた涌井秀章投手も、今季は104投球回とチーム4位の数字に終わっています。

これを受け、先発で確実にイニングを稼げてローテを回せる投手として美馬学投手を獲得しました。

一方、美馬投手の加入により、涌井投手は表ローテ要因から外れることが濃厚になってきます。美馬投手とは「イニングイーター」「ベテラン先発右腕」ということで役割も被ります。

そこで、後述しますが先発の頭数・質ともにロッテよりやや劣る楽天にトレードする(させる)ことで、先発願望の強い涌井投手が先発争いに食い込みやすい環境に移籍させてあげたものと考えられます。


リリーフに目を移すと、やはり層の薄さ、言い換えると勝ちパターンを安心して任せられるセットアッパーが不在な印象を受けます。2019年で「40登板以上」「防御率2.50以下」を達成した投手も、楽天は5人いるのに対してロッテは益田投手ただひとり。しかも益田投手は抑えのため、中継ぎでこの基準を達成した投手は皆無ということになります。

そこで、来年すぐ使える中継ぎ候補としてハーマン投手を獲得。ここ3年間リリーフの中心で稼働し、去年も目立った衰えは見えないことから、ジャクソン投手も含め7~8回を任せられる投手として期待した補強でしょう。

酒居知史投手に関しては、勝ちパターンや接戦を任せるのには不安が残ることから、プロテクト当落線上になりやむなくプロテクトを外したことが推測されます。

一方、2020年は外国人に7~8回を任せる予定から、今すぐ使える中継ぎではなく将来の抑え候補として小野郁投手を獲得した形ですね。潜在能力は非常に高く、化ければ十分勝ちパターンに入れる投手です。


【野手陣】

ロッテ2020野手陣

野手を見てみると、遊撃以外は固定のレギュラーがおり、いずれもWAR+2.5以上(中村奨3.7、レアード2.9、井上2.7)、UZRプラス(中村奨9.8、レアード0.8、井上2.4)を記録しています。そうなると鈴木大地選手は、今季こそ打撃が好調だったものの平均でOPS.750かつ、守備で利得を作れない(過去5年間で常にUZRマイナス)ため、単純に選手能力のみで見るとポジション争い2番手になってしまいます。

ロッテ2020プロスペクト

また、鈴木大地選手が2019年に多く起用された1B,3B,DHは、トッププロスペクトの安田尚憲選手のポジションでもあります。高卒2年目でOPS.800、19本塁打を2軍で残した安田選手は、3年目の2020年は1軍で経験を積ませることが予想されます。

鈴木大地選手にとっては、もともと正レギュラーとしては半歩足りない点がある上に、ポジションが被る若手がいることで、出場機会の減少・レギュラー剥奪が予想される状況。レギュラーで出たいのは野球選手の本能ですし、「FA移籍したい状況」であったことは事実でしょう。


一方で、遊撃手と控え内野手の層の薄さはチームの課題となっています。西巻賢二選手の補強は、この弱点を埋めるための補強といえます。

遊撃手は、藤岡裕大選手の故障離脱に加え、平沢大河選手も(特に序盤は)攻守に精彩を欠いていました。さらに、代役の三木亮選手も、打撃(wOBA)でも守備(UZR)でも「平均的控え選手~やや劣る程度」の数字しか残せていません。

二塁に目を移すと、不動のレギュラーの中村奨吾選手こそいるものの、サブ要因の選手がいません(去年はサブ枠を鈴木大地選手が埋めてくれていました)。もし中村選手が故障離脱した場合、穴を埋められる選手がいない事態にもなりかねません。

ただ、二遊間を平均レベルに守れてある程度打てる野手(※1)を用意することは難しいのが現状です。そのため、二遊間の頭数を確保しつつ、将来のサブ要因~二遊間レギュラー候補として西巻選手を獲得したものとみられます。


なお、もうひとつの課題になる「打撃or守備で利得を増やせる外野手(左翼手)」は、別途FAで福田秀平選手を獲得することで解決を図った形です。


楽天の戦力状況


2019楽天は、「捕手の層の薄さ」「先発要員」「衰えの見られるウィーラー選手に頼らざるを得ない三塁」が弱点となりました。

(DELTAGRAPHS様による楽天のポジション別得失点差表)

【投手陣】

楽天2019投手陣

楽天投手陣は、ロッテとは対照的に先発が弱点な一方、救援陣で強みを作れています。救援利得ではソフトバンクに次ぐ2位とリーグ屈指のリリーフを揃えているものの、先発利得は西武に次ぐワースト2位です。

その中で、美馬学投手がFAでチームを離れることが決まりました。美馬投手は在京志望が強く、もともと関東圏のチームに移籍するのは既定路線だったのでしょう。

そうなると先発がさらに苦しくなります。涌井秀章投手に白羽の矢を立てたのは、苦しい先発陣で少しでも貢献してほしい思いからでしょう。

昨年涌井投手よりイニングを稼いだ先発は、美馬投手を除くと2人しかいません(石橋投手・辛島投手)。先発ローテの柱候補である岸投手・則本昂投手・塩見投手はともに故障を抱え、フルシーズン働ける保証がありません。

涌井投手は、2019年こそ不調でしたが、もともと豊富なスタミナによって長い投球回を投げられる投手です。また、ここまで大きな故障歴がなく、昨年の不調はラグーンによるHR増加と被BABIPの高さによる不運の影響もあるため、楽天に移籍すれば十分戦力になると見ているのでしょう。


次にリリーフ陣。

既存の選手の活躍に加え、牧田投手らも加入するため層の厚さは来年も担保されています。高齢外国人かつ高年俸ハーマン投手をリリースして別の若手~中堅外国人にスイッチする余裕もあるということでしょう。

一方、松井投手の先発転向に伴い、森原投手orブセニッツ投手の抑え転向が予想される状況では、枚数を確保したいのも事実。その中で、同点からビハインドで確実にイニングを食ってくれる投手として酒居知史投手が人的補償に指名されたものと見られます。


また、若手投手を見ると、育成選手を多く獲得していることもあり、24歳~26歳の年齢層がボリュームゾーンとなっています。その中で、2018年も2軍で好成績を残しながらも2019年に1軍で結果を出せなかった小野郁投手は、球団内の期待度が低下していたのでしょう。そのため2019年に2軍でさらに指標を良化させながらもプロテクト外になったものと思われます。


【野手編】

楽天2019野手陣

野手では、捕手の層の薄さと内野のサブ要因の薄さ・高齢化が見えてきます。次世代のレギュラー候補が不在な状況です。

その点、鈴木大地選手1B/2B/3B/LFを高水準で埋めてくれる存在。選手層の向上に多大なる貢献を果たしてくれることが期待できます。

「鈴木選手をレギュラー固定する」ことを考えると三塁手が基本線でしょうか。

正三塁手のウィーラー選手は、打撃面でOPSが2017年から.835→.769→.738と下降線を辿っています。守備面(UZR)でここ5年間で4度のマイナスを記録していることから、「打つことで利得を稼ぐタイプの三塁手」といえますが、打撃が衰えてくると強みが薄れてきます。

その点、2019年の鈴木大地選手は、OPS.826を記録している上、得点創出能力を示す”wRC+”(※2)でもウィーラー選手の1.3倍程度の打力を備えていました。守備(UZR)でも3Bでは0.0(ウィーラー選手も0.0)と、足を引っ張らない水準かつウィーラー選手並の水準を残しています。

つまり、楽天はウィーラー選手より打てて、ウィーラー選手と同程度の守備能力を持つ三塁手を獲得できたことになります。その選手がユーティリティでもあることは、楽天に大きなプラス要素をもたらしてくれるでしょう。


次に若手選手へ目を向けていきます。

楽天2020プロスペクト

おおよそ25歳以下である程度1軍出場しているor2軍で結果を残した選手をリストアップしました。

このように見ると、二遊間を守る選手の激しい競争が見えてきます。

例えば村林選手は守備に優位性があり、少ない守備機会ながらも2017,2018と遊撃UZRでプラスを記録しました。山﨑選手は、1軍で少ない打席で3割を打つ打撃力、2軍で22盗塁・IsoD.108を記録する俊足と選球眼を兼ね備えています。

その中で見ると、2019年の西巻賢二選手は打撃の粘りを失った上に守備もまだ1軍レベルでなく、楽天の若手二遊間争いに勝てていない状況でした。さらに小深田選手・黒川選手と「二遊間を守る期待の若手」がさらに2人も加入することによって、楽天ではさらに出番が減少してしまう状況にあったと言えます。そのため石井GMが育成契約に踏み切ったと考えられます。

しかし、ロッテなら二遊間のプロスペクトも、二遊間を守る選手の絶対数も楽天に劣ります。そのような環境ならまだ飛躍するチャンスが残されていることからロッテは獲得に行ったものと推測されます。


なお、捕手は元々レギュラークラスの確保が非常に難しく、移籍による獲得も望めない(ロッテには正捕手争いできるクラスの捕手はいなかった)ことから、既存選手で争わせる形を取っています。


(※1)「代替可能な選手の成績がどのくらいなのかを集計していくと、打者に関しては加重出塁率で平均の0.88倍となります。加重出塁率の平均値が.330のときであれば.290の水準です」「守備・走塁に関しては平均的な選手と代替可能な選手とはほぼ同じ水準にある」(蛭川晧平著『セイバーメトリクス入門 脱常識で野球を科学する』p.168より引用)という考え方をもとにしています。今回は、””加重出塁率.290かつUZR±0””という選手を想定しました。
※2 『1.02 - Essence of Baseball』様によるwRC+の説明 


以上になります。


ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました!!

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