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折り紙職人たち-図書館の日々

 僕は図書館で働いていた。
 仕事自体はとても楽しかった。
 いろいろあって辞めた。
 辞めてしまった今だからこそ、本音を交えた話ができたらと思う。

 児童サービスを活発に行っている館では企画が忙しい。
 おはなし会、工作会の実施、児童向けの展示など各種イベントの実施などが主なところだと思う。大抵は中心的に活動するの児童担当者がいて、企画によっては手伝うひとがいたり、担当のグループを体制的に組んでいることもある。いかに子供たちを楽しませ、図書館に親しんでもらうかを常に考えている人たちだ。
 ほとんどの公共図書館には児童書だけを集めた児童エリアを一般書架と区別するように配置していて、さらにその一角におはなし会用の小部屋を作っているところも多い。ちょっとぐらい騒いでも大丈夫な設計になっている。これもゾーニングのひとつと言える。まれにテンションが上がりすぎた子供たちが鬼ごっこや隠れんぼを始めてしまうことがあるが、状況をみて注意することもある。だがそれも基本的には見ていて楽しい。子供たちが笑顔で楽しそうにしている姿は毎日見ていても飽きないものだ。「ちょっと他の人がうるさいかも知れないな」と感じたら、苦情が来る前に優しく注意する。児童エリアでは親も安心して油断しがちなので、こちらの声がけをきっかけにしてもらって注意してくれると助かる。

おはなし会

 おはなし会というのは時間を決めて子供たちを集めて、絵本を読んで聞かせるイベントだ。シンプルなイベントだがこれもスタッフによって熟練度に差が出てしまう。何しろ相手はコントロールの効かない小さな子供たち。しかも年代もバラバラな子供たちが集まるので、読む本によって集中度に大きな差が開く。乳幼児向けの「赤ちゃん絵本」みたいなものを読んで大ノリになる子もいれば退屈そうにしている子もいる。逆にストーリー性の強めな絵本を読むと小さい子は理解が追い付かなくなってすぐ違うことに注意を向け始め、お母さんに甘え始めたり好き勝手に喋り出したりする。これを押さえつけたりはしない。
 読み手のスタッフにとっては力量が試されるところだ。おはなし会を始める時には子供たちの注意を向けるためにリズムに乗った手遊びを一緒にやったりして雰囲気を作るのだが、上手いスタッフは一瞬で子供たちの目を集めてしまう。声のトーンや手の動きなど細かく見たら違うのだろう。不思議なものだ。
 また、おはなし会で読む本は事前に読み手を担当するスタッフが毎回選んでいて、経験の長いスタッフは本を選ぶのが早い。ある程度幅のある年齢層を意識しつつおはなし会に向いている本を準備することができる。もともと本の内容を知っているのだ。絵本について相談すると一瞬で答えが出る。ストーリーを覚えてしまっているのだ。置いてある本全部知ってるんじゃないかというくらい記憶している。もう経験では追いつけないレベル。熟練のスタッフにはたまにこういう人がいて頼りになる。
 開催の頻度に差はあっても、おはなし会は大抵どこの間でも実施している。子育ての一環として気軽に利用するといいと思う。

工作会

 工作会というのも読んだそのままで、いろんなものを子供と場合によっては親も一緒に自分で手作りして楽しんでもらおうというイベントだ。
 例えばクリスマスにスノードームを作ってみたり、子どもの日に鯉のぼりを作ったり、という感じで家に持って帰ってもしばらく楽しめて季節感のあるものを考えている。場合によってはスタッフが事前に途中まで進めていることもある。一番大事なのは「その場で完成できること」だからだ。物作りの達成感を味わってもらうことで、図書館を楽しい場所だと感じてもらいたいという狙いもある。なかなかうまくいかない子にはその場で手助けをしてなんとか完成に持っていく。意外と面白いものが出来上がったりするのでやってみると面白い。
 イベントが定番化した館ではすでに利用者に周知が行き届いていて、参加が抽選になることもある。知っている人にとっては人気のイベントなのだ。
 工作会にはお父さんが一緒に来ることもある。父親のモチベーションもイベントによって変わるのだろうか。大人にとっては簡単なものなので威厳を発揮したい時にも役立つイベントかも知れない。

ぬいぐるみお泊まり会

 図書館ならではの企画で人気のイベントとして「ぬいぐるみお泊まり会」というものがある。子供たちのお気に入りのぬいぐるみを一度図書館に預けてもらって、そのぬいぐるみたちが図書館に寝泊まりして仕事を手伝ったりおはなし会に参加したりして楽しむ様子を写真に残して記念のアルバムを作ってぬいぐるみと一緒にお返しする、というもの。ぬいぐるみたちが参加したおはなし会の本を貸し出したりもするが、細かい内容は館によって微妙に異なる。夜の様子をSNSのアカウントを使って公開しているところもある。完成品は間違いなく楽しんでもらえるものだが、実際のところ、一番大事なぬいぐるみは手元に置いておきたいようで、子供たちにとっては2番手、3番手のぬいぐるみが預けられることが多いようだ。
 ぬいぐるみお泊まり会は実施しているところとそうでないところがある。これも人気があって毎年抽選になるし、可能な限り違う家庭に参加してもらいたいので、事前にその旨を開示してもいる(この辺りは各館の状況で匙加減が変わるだろう)。そして準備が大変だ。一旦利用者の私物を預かることになるので保管の状態は万全でなければならない。取り違えもあり得ない。
 持ち帰ってもらうプレゼントにも力を入れる。これはそれぞれの図書館におけるマンパワーの差も関係するが、基本的にやってて楽しいので、担当のスタッフはみな嬉々として取り組んでいる。SNSの活用は予約投稿なども利用すればリアルタイム感が出て効果的かも知れない。

折り紙は万能

 こういった様々な子供向けのイベントのほとんど全てに使われていくのが「折り紙」だ。工作会で作ることもあるが、おはなし会に参加するとプレゼントでもらえたりするし、ぬいぐるみお泊まり会では背景の飾りに使っていたりする。また、展示の飾りにも使う。折り紙は児童向けのサービスではいろんなところで使えるものでスタッフ総出で作っているような場所もあるくらいだ。季節のイベントでもそうだし、おはなし会の小部屋を飾ることもある。児童書のコーナーに子供たちを誘導するために壁に点々と飾り付けされていることもある。
 このため、一部の図書館員は折り紙のレパートリーを非常にたくさん持っていることがある。イベント直前の時期だと「数が足りない」とのことで可能な限り他のスタッフも制作に取り掛かる。夜間で出入りが少なくなったカウンター業務の合間に、配架がひと段落ついたときに、隙間時間を見つけて折り紙を折るのである。その結果、折り紙職人が複数人在籍している図書館もある。
 図書館で折り紙が活躍するシーンは多い。
 さりげなく飾り付けに使われていたりするので、機会があれば観察してみるといいと思う。

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