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マスクとフェイスシールドとマウスシールドには互換性があるのか

最初に結論を言います。
マスクとフェイスシールドとマウスシールドには互換性がありません。
そもそも用途も効用も異なるものです。
舞台や稽古場でマスクを着けたくない(顔が見えない、声が聞こえない、苦しい etc)からという理由でフェイスシールドやマウスシールドを着けている団体が増えてきましたが、感染対策としてはそれで十分だとは言えません。

多くの舞台作品においてマスクを着用しての上演というのは難しいでしょうから、上演に際しては役者がマスクを外せるだけの環境を作ることが必要です。
そしてマスクの代替品としてシールドを使用する場合には、単純な置き換えではなくてその場面に合わせた何らかの補助的対応が必要になると思います。

もちろん適切なタイミングで使用されればフェイスシールドやマウスシールドにも感染を防ぐ働きはありますが、舞台公演でこれらが使われている場合には基本的には演じる側も観る側も気を引き締めた方が良いと思っています。

巷では「マスクは何製がいいの?」「どのマスクが感染予防効果が高いの?」というナノレベルでの質問・議論もよく聞きますが、少なくともそれよりははるかに大きな違いがこの3つにはあるのです。

観客にとっては、客席にフェイスシールドが配られると、配られない場合よりも、その団体は熱心に感染対策を行っている印象はあるかもしれません。
もしそれに十分な感染予防効果があるのであれば、私もとにかくフェイスシールドを配れと提案するでしょう。
しかしやはりそれは誤解であり、本当にその感染対策が十分かどうかについてはもっと総合的に判断されるべきだと思います。

実際にフェイスシールドが配布されている現場で感染が拡まったこともありました。
逆にフェイスシールドやマウスシールドが使われている現場で無事に公演が行われていることもありますが、これは人と人との距離や向きが適切でそもそもシールドの必要がなかったか、もしくは幸いそこにウイルスがいなかっただけという可能性の方が高いでしょう。

このことに関する誤解については結構大きな心配をしており、間違った認識が浸透してしまわなければいいなと思っています。
それが取り急ぎこれを書いている理由で、その点だけでもご理解頂ければこの後は読んでいただけなくてもかまわないのですが、以下に「それはどうして?」ということを書きます。

そもそもどうしてこういう事態になってしまったのか不思議に思っていたのですが、コロナウイルス感染が拡まる中で「マスクを着けてたら舞台なんかできないよね」という話をし始めたころに舞台関係者の間で人気のSNSアカウントから「マウスシールドならなんとかいけるんじゃないか」というような声があったことを最近ある方から教えて頂きました。
確認してみるとそこに書かれていたのは、あくまでも見た目でマスクよりは妥協できるという意見で、科学的根拠をもってマウスシールドがマスクに代わるものであるものであるということを言っているものではありませんでした。
なので発信元には何の悪意も責任もないのですが、その情報がジワジワと舞台関係者の間に拡まって、「これで結構いいんじゃない?」というのが浸透してきている現状のようです。

細かい機能の問題は今回は説明を省きますが、見ればわかる通りフェイスシールドやマウスシールドは口・鼻の周りは外気に晒されており、直接的な飛沫の吹きかけや曝露は防げても長時間一緒にいればウイルスの吸収についてはほぼマスクをしていない場合と一緒になってしまいます。
これらを用いていた接客業の現場でのクラスターが報告されていることからもそれは証明されています。

舞台公演と同様に緊急事態宣言の出た際に一旦中断した後再開している映像作品やテレビ番組の撮影でマウスシールドやフェイスシールドが使われているのを見かけることがあります。
これについても同様のリスクはあるのですが、考えてみれば分かる通り撮影の場合は直接的な個人と個人の接触時間は舞台の稽古や上演と比べるとかなり短くまた不要時の距離の確保も容易です。
同じエンターテイメントの世界で行われている対策なのでなんとなく良さそうに思って単純に取り入れてしまいがちですが、感染対策においても舞台作品と映像作品にはこれだけに限らず大きな違いがあるということを認識しておく必要があると思います。

またシールドは単純な器具のように思われがちですが、はじめて渡される人にとってはかなりのストレスにもなりますし、正しく使うのは難しいものです。
複雑な医療機器であれば使用方法を間違えばそもそも起動しなくなってしまうことも多いのですが、マスクやフェイスシールドは着けていればなんとかく使えている気持ちになってそのまま時間が過ぎていくのがかえって危険です。
医療現場で日常的に使っている人や飲食店や食品売り場で働いているような人でないと、いきなり初めて渡されて上演時間中正しく装着していられる人はほぼいないでしょう。
結果的には不用意にそれに触ってしまったり、肝心な時にずらしたり外したりしてしまうことになって、配らないより配った方がリスクを生み出す可能性もあり、配布する場合には十分な指導説明をする必要があると思います。

もちろん正しい知識をもって適切な場面でシールドを有効に使っている団体もあります。
上手く活用すれば効果的に感染リスクを軽減することは可能だと思っています。
でも、もしそのような活用をする他団体の活動を見て、「良さそうだから自分たちも」と十分な知識を入れることもなくネットでポチっとしてモノマネで使おうとしている方はどうぞご注意ください。
「良さそうなものを試して活用する」という取り組みは今はとても重要ですが、やはり基本的な知識は備えてからにしたいものです。

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