見出し画像

ステーブルコイン危機:UST崩壊の波及効果

本記事はCoinGecko Analysis「Unstablecoins: The Effects from UST's Death」の日本語翻訳版です。

はじめに

最大のアルゴリズミック・ステーブルコインであるTerra USD(UST)が崩壊し、1週間で180億ドルある時価総額がわずか12億ドルにまで縮小した影響で、クリプト市場は2週間ほど荒れた状態が続いています。Anchor Protocolからの大量のUST引き出し及び他のステーブルコインへの退避が発生しました。それによって、大量の売り圧力がUSTの価格を押し下げ、同時に人々がUSTを償還したためLUNAが"Death Spiral"に陥りました。

多くの投資家は、マクロ環境の不透明感から、こうなる前にすでにポートフォリオをステーブルコインに移行していました。USTはステーブルコインであると信じられていましたが、先週の出来事で明らかになったように、これは真実からかけ離れていることが判明しました。USTの急落に多くの人が怯え、他のステーブルコイン(中央集権型か否かを問わず)への信頼も揺らいでいます。今回は、TerraのUSTの暴落に対し他のステーブルコインがどのような反応を示したかを見てみましょう。また、先週のTerra /USTで起こったことを全て見逃してしまった方は、まずこちらの記事を読めば全容を理解することができます。

Tether(USDT)

Bitfinexが発行するTetherは、現状最大の時価総額を誇るステーブルコインです。業界内におけるその優位性は議論の余地のないものですが、FUDもついて回ります。各USDTはUSDに裏打ちされており、保有者はTether財団を通じて各USDTをUSDと1対1で交換できるとされていました。しかし多くの疑念の声を受け、Tether社は裏付け資産の内訳を公開しています。それによると、同社の準備金は現在、コマーシャルペーパー、マネー・マーケット・ファンド、現金、銀行預金、国庫証券、リバース・レポ手形などの様々な商品で構成されているといいます。全ての準備金が現金で保有されているわけではありませんが、財団は常に特定のパートナー取引所経由でのステーブルコインの償還可能性を保証しており、これまでのところそれが信憑性のある主張であることが証明されています。

この保証が試されたのは、USTが下落し始めたときです。投資家がステーブルコイン(特に以前のFUDによりUSDT)に不安を抱き、多くがUSDTから他のステーブルにスワップし始め、多くの取引所のペッグが一時的に崩壊する原因となりました。BinanceとFTXでは、USDTは0.94ドルまで下落し、Kucoinでは0.80ドルにまで達しました。しかし、USTとは異なりUSDTのデペッグはCEXでのみ発生したようで、Curveのプールは比較的バランスが取れている状態でした。ペッグ乖離は数時間しか続かず、アービトラージャーがその機会を利用したことでその後ペッグは回復しました。

USDTボリューム & 時価総額

画像1

裁定取引を行う者にとっては、USDTが1対1でUSDと交換できるという保証が肝心です。実際に財団はその約束を守りました。テザー社によると、5月11日から12日の間に23億ドルのUSDTが償還され、それらは滞りなく行われたようです。こうした償還により、USDTの時価総額は5月9日から5月13日の間に37億ドルも減少しました。USTの崩壊直前には840億ドルの高値を記録していましたが、そこから5%も減少したのです。1日の取引量も急激に増加し、5月12日には1760億ドルに達しました。これは、平均400億ドルから600億ドルの取引量であった通常日を大幅に上回るものです。

今日(17/5)の時点で、5月9日以来、償還は約78億ドルに達しUSDTのペッグはまだ維持されており、クリプト市場は安堵しています。中央集権的または分散的な取引所におけるクリプト取引の大部分はUSDTで決済されているため、もしUSDTがUSTのようなペッグ乖離をしていたとしたら、悲惨なことになっていたでしょう。ほとんどのクリプトユーザーはUSDTを何らかの形で保有しており、USDTのデペッグはおそらくクリプト市場の急激かつ長期的な低迷を招いたことでしょう。

USDC及び Binance USD(BUSD)

USDTは、裏付け資産への疑念とそれに伴う規制当局との軋轢によって苦しんでいますが、他の中央集権型ステーブルコインは、反対にこの状況が追い風となりました。先週からの最大の勝者は間違いなくUSD Coin (USDC)Binance USD (BUSD)であった。USDTとUSTから多くの投資家がこれらの代替通貨に集まり、取引量だけでなく時価総額も増加しました。

USDCの取引量と時価総額

画像2

5月9日から5月13日の間に、USDCのマーケットキャップは14億ドル増加しました。これは非常に急激な増加であり、週が進むにつれてさらに増加し続けています。今日(5月18日)現在、USDC は時価総額で 523 億ドルを誇っており、史上最高値に近い水準にあります。一方、1日の取引量は平均60億ドルから290億ドル以上へと約480%も急増しました。

スマートコントラクトにロックされたUSDCの割合

画像3

興味深い現象として、スマートコントラクトからUSDCが大量に引き出されたことがあります。5月8日から5月12日の間に、~42%から~33%へとかなり急激に減少したのです。1つの可能性は、投資家がUSDCを持っているイールドファーム(アグリゲーターなど) がUSTエクスポージャーを持っている可能性を恐れたことでしょう。

BUSD の取引量と時価総額

画像4

BUSD については、時価総額が178億ドルから10億ドルほどわずかに減少し、その後、元の水準に回復しています。その後、BUSDの時価総額は成長を続け、本稿執筆時点では182億ドルに達しています。出来高も約600%増加しています。

DAI及びFRAX

USTの崩壊によって、競合の分散型ステーブルコインは劇的な伝染効果を受けました。ここで重要なのは、すべての分散型ステーブルコインが同じように作られているわけではなく、DAIとFRAXはペッグを維持するためのより強力な基盤と償還メカニズムを持っていたということです。DAIFRAXは時価総額成長の観点で苦しんでいますが、両社とも不安定な市場の中でそれぞれのペッグを維持することに成功しました。

DAIの取引量と時価総額

画像5

5月8日から13日の間に、DAIの時価総額は約80億ドルから約60億ドル強に急落し約25%も減少し増しました。この間、取引量は平均4億ドルから40億ドル超へと10倍に増加しています。DAIはペッグの下乖離は免れましたが、反対に人々がUSDTから他のステーブルコインに殺到した時期と重なったこともあり、5月12日に価格は一時的に1ドルを超えました。

FRAXの取引量と時価総額

画像6

担保を80%USDCに支えられているFRAXは、5月12日にステーブルコイン間取引が急増したことによって高いボラティリティに晒されました。一時0.97ドルまで下落しましたが、内蔵の償還メカニズムが作動し、裁定者がFRAXを購入したため、オフペッグの度にしっかりと回復させることに成功しました。全体としてはペッグは維持されましたが、FRAXは結局、時価総額の激しい縮小を余儀なくされました。5月8日から5月13日の間に、FRAXの時価総額は約38%の約10億ドル減少しました。

ペッグを失った他のステーブルコイン

USTの影響は、ステーブルコイン・エコシステム全体に強く影響を及ぼしました。様々なアルゴリズミック・ステーブルコインがペッグを失い、そのほとんどは今日までペッグを回復することができていません。

最大の犠牲者の1つは、Waves Foundationが発行するNeutrino USD(USDN)です。USTと同じように作られたこの通貨は、5月12日に0.76ドルでペッグを大きく下回る取引をしたものの、まだ死のスパイラルには陥っていません。その後、0.97ドルまでは回復しましたが、目標額の1ドルにはまだ達していません。

Fei USD(FEI)もデペッグに見舞われ、0.97ドルの安値に達しました。しかし、USDNとは異なり、ペッグを維持することに成功しています。一方、Fantomで発行されたステーブルコインであるDEI(DEI)は、デススパイラル寸前でしたが、チームが償還を停止したため、なんとか生き残ることに成功しました。最悪の事態は避けられたものの、同トークンは現在1ドルを大きく下回る0.60ドルで取引されています。同プロジェクトは現在、DEIを完全な担保付きステーブルコインへとピボットさせるために、ボンド(債券)の販売を行う予定です。

この危機を無傷で生還したステーブルコインの1つが、Tron財団が発行するDecentralized USD(USDD)である。乱高下の間その価値を維持し、さらに時価総額が増加しました。同様に、QiDAOによるMimatic(MAI)はペッグを維持し、時価総額は時間の経過とともにわずかに低下したと考えられています。

新しいクラスのステーブルコインが登場?

TerraとUSTの崩壊はとても新鮮ですが、同時に新しい分散型ステーブルコインの提案がすでになされています。

BitMEXの共同設立者であるArthur Hayes氏は、デリバティブ契約を通じて発行されるビットコイン担保のステーブルコインを提案しています。その理由の一つは、ビットコインが最も広く利用されている暗号通貨だからです。しかし、パブリックブロックチェーン上で法定通貨にペッグされたステーブルコインを作ることは、多くの妥協を伴うと彼も理解しているようです。

また、FRAXのモデルを採用しつつも、若干の改良を加えることを求める声もあります。例えば、シニョリッジ(FRAXの現行モデル)に裏打ちされた部分担保と、マネーマーケットとの組み合わせがその例です。マネーマーケットがあれば、FRAXの無担保部分は余剰担保を利用して発行できます。TwitterのLisciviaは、こちらスレッドで、このようなモデルの利点を説明しています。 

次は何でしょう?

UST / LUNAの騒動を通じて、ステーブルコインは必ずしも見かけ通りのものではないことが明らかになりました。プロトコルは、自分たちのステーブルコインはペッグされており安全であると謳うかもしれませんが、必ずしもそうではなく、投資家は常に警戒する必要があります。

しかし、web3を動かす分散型ステーブルコインの必要性は依然としてあり、USTはその実現にかなり近づいていた事例だったと言えるでしょう。USTが残したものや経験したことから学び、今後また多くの新しい分散型ステーブルコインが動き出すことが予想されますが、UST崩壊を学んだ投資家がそれらを信頼するかどうかはまだ分かりません。

原文執筆者:Shaun Paul Lee

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?