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ついに、突破口が見えた。政府に訴えてきた子どもたちを性暴力から守る仕組み。制度実現までの道筋と課題

「いよいよ、ここまできた」

資料をみて、駒さん(弊会代表、駒崎)と目を合わせ、互いに強く頷きました。

8月28日、厚生労働省で社会保障審議会児童部会「子どもの預かりサービスに関する専門委員会」が開かれました。先のベビーシッターマッチングサービス大手企業の登録シッターが派遣先の子どもに対する強制わいせつ罪で立て続けに逮捕された事件を受け、その対策を審議するものです。


資料には、本件を担当する官僚各位が作成した対策案のたたき台がありました。課題は多くあると思いましたが、現在の法制度の中で実現しうるギリギリのラインまで踏み込んだ、とても画期的な内容でした(詳細は後ほど書きます!)

今年6月から、私たち認定NPO法人フローレンスがあの手この手で政府に対して訴えてきた、性犯罪者を保育教育現場からキックアウトする仕組みが多く取り入れられていたのです。


官庁に設置されている「委員会」とは? 今後の展開について

「いや、『いよいよ、ここまできた』って言ってるけど、どこまできたのよ」と思う方もいらっしゃると思います。委員会で検討って、つまり、進展してるの?

ざっくりいうと、本件について政府が具体的に手を打つことを検討するステージに入った、ということができると思います。

「子どもの預かりサービスに関する専門委員会」は、民間出身の専門家で構成されています。官庁では新しい法案や制度を検討する際、まずこういったワーキンググループを作り、官僚が作成した案を土台として詳細を議論します。

政府のもとには、まさに星の数ほどの要望が日本中から寄せられています。それらを全て検討していたら、政治家や官僚がどれだけいても足りません。どうしても、優先順位をつける必要があるのです。今回「子どもの預かりサービスに関する専門委員会」が本件の審議に入ったことで、私たちの訴えは数多ある要望のひとつから、具体的に政府のリソースを割いて検討すべきものとなりました。これは、本当に大きな進展といえます。

なお、今回の「子どもの預かりサービスに関する専門委員会」の議論はこちらで公開されています( ↓ )


そして、この専門委員会で議論された後は、ひとつ上の「審議会」にあがります。今回のケースでいうと、社会保障審議会です。この審議会も民間出身の専門家によって構成されています。ここで、専門委員会によって議論された内容を踏まえて、審議会としての公式意見といえる「答申」を出します。これが超大事!

答申に法的拘束力はないので、政府は必ずしも従う義務はありません。しかし、わざわざ専門家を収集してそこで出された結論をまったく無視することは、普通ありません。そんなことをしたら相応の説明責任を問われることになるでしょう。なんのための会議だったんや!ってなるし、それを無視した案を強行するって、何か裏があるわけ?ってことにもなりかねませんからね。

答申が出たら、その後もろもろ調整と定められた決済ルートを経て、具体的な法律や制度となります(ルートは、決済する案件によって異なる ※ )。ですから、専門委員会で本件が扱われたことはまさに「いよいよ、ここまできた」って感じなのです!

※ 本件は、フローレンスが動いてTVや全国紙などでガンガン報道もされており、国会でも取り上げられています(加藤大臣が答弁されています)。こういう場合は、専門委員会で議論を進めつつ、並行して大臣にも相談します。最後は、大臣の了解した方向で会議もまとまるのが通例。今回の案件は内閣府と、場合によっては法務省も関わることになる可能性があります。

そして、繰り返しになりますが、そんな重要な審議会の答申は現在行われている「子どもの預かりサービスに関する専門委員会」での議論が土台となります。よって、官僚から出された議論のたたき台と、それに対する各委員の意見は極めて重要なのです!


現状の法制度の枠組みではギリギリまで踏み込んだ厚労省のたたき台

では、今回厚労省から出されたたたき台はどのようなものか。結論から言いますと、課題含みではありつつ、現在の法制度の中で実現しうるギリギリのラインまで踏み込んだ、とても画期的な内容だと思いました!

以下、弊会が政府に提案してきた日本版DBSと比較しつつ、ポイントを絞ってみていきましょう。簡略化すると、こんな感じになると思います(図中の"DB"はデータベースの略です)

アートボード 1


まず画期的といえる要素は、なんといっても、保育士そしてベビーシッターの性犯罪に関わる事案をデータベース(以下DB)で共有する、ということでしょう!しかも、立件された犯罪に限らず、事案が発生した時点で届け出ることを検討しています(その後、刑が確定した時点で公開範囲を調整していく内容)

小児わいせつは、そもそも立件するのが極めて難しい犯罪です。加害者が児童に対する指導的立場を利用して、卑劣な脅迫などで事件の表面化を妨げたり、また、被害者およびその保護者が声をあげることが極めて難しいものでもあります。アメリカの研究等では、1人の性犯罪者から生み出される被害者数は平均380人と推定されています。早期に手をうつ必要があるのです(※)。

※ ただし、事案の届出をする事業者の誤解や恣意的な判断が働かないように、現場で働く人がいつでも異議申立できる仕組みが必須だと思います

そして次に、すでに書いた通りベビーシッターを対象にしていることがあげられます。保育士と異なり、ベビーシッターはその欠格事由(ベビーシッターになれない人の条件)が法律に書いていません。よって、規制をすることが難しいとずっと言われてきたのです。それが今回、はっきりと「ベビーシッターを対象にすることを検討する」と記載されています。どのように法律との整合性をとるのか本文に記載はありませんでしたが、これまでの政府の塩対応を思えば、かなり踏み込んだ内容といえます!(本件を担当してくださった官僚の皆さま、本当にありがとうございます 😭


一方、課題としてあげられるのは、このDBをどのように活かすのか、まだ抽象的なことです。みたところ、事案が発生した場合は行政(都道府県)の間では情報共有がされるようですが、では、いったいどのように加害者を保育・教育現場からキックアウトするのか?たたき台には、刑が確定した段階で「利用者にも情報提供を行う」とありますが、利用者の全てが情報を確認するリテラシーを持っているとも限りませんし、事業者だって知らずに採用してしまうかもしれません。また、万が一、公開されている情報が誤っていたら取り返しがつきません(冤罪だった場合など)

私たち認定NPO法人フローレンスが提言している日本版DBSの肝は2つあります。まず、この情報にアクセスできるのは、保育教育現場で働くことを希望する本人のみ、という点です。事業者にも利用者にも公開しません。こうすることで、加害者(および被疑者)の個人情報を守ります。

そして、採用面接の時に、このDBを管理する組織に対して犯歴証明書の発行を依頼し、その提出を求職者に義務付ける、ということ。こうすることで、事業者が誤って性犯罪者を雇用してしまうことを防ぎます。

加害者のプライバシーと、被害者を生まない仕組みとを両立させるには、この二つは欠かすことができないと考えています。

また、今回対象としているのは先に述べた通り保育士とベビーシッターのみです。幼稚園教諭や、教師は入っていません。理由は、これらは文部科学省の管轄だからです。欲を言えば、行政の縦割りを超えて包括的に議論して欲しいところです。

しかし、ますはどんなに小さくても風穴を開けることが肝心。まず厚生労働省が管轄する領域で成功事例を作り出し、それをもって「ん?なんで文科省はやらないんですか?おかしくないですか?ん?」と横展開していけばいいでのです。

まずはここで、子どもを守るための仕組みをしっかり作って欲しいです!千里の道も一歩から!

なお、厚労省案の詳細が気になる人はぜひ全文をご確認ください。すでにホームページで公開されています!

アートボード 1


専門家たちによる反対意見がある模様

こんな感じで、課題含みではありつつも画期的な厚労省のたたき台。まさに子どもたちを性犯罪から守るための突破口といえます。が、専門委員会を傍聴している仲間からの情報によると、この突破口をせっせと閉じようとしている委員がいるそうです。

曰く、個人情報保護は慎重にすべき

曰く、やりすぎると事業者が萎縮する

曰く、教員も犯罪歴共有してないのにベビーシッターだけやるなんてやりすぎ… 等々


うん、まあ、それぞれ意見は大事ですよね。特に個人情報保護の観点とかはとても大事。そこは本当に熟慮を重ねないといけないと思います(ぜひ私たちの日本版DBS案を採用してほしい)。

けど、どんな議論をするにせよ、現在の制度では子どもたちを卑劣な性暴力から守ることができてないという現状は、委員各位に間違いなく認識してほしいです。現状維持だけは、あり得ません。そんなことは誰でも出来ます。誠に僭越ながら、専門家として責任ある仕事をしていただきたいです。

だいたい、「事業者が萎縮する」なんて意見がありましたが、子どもを性暴力から守ることができない事業者に子ども預けようなんて保護者は思いませんよ。こんな状態が続いたら、かえって市場が縮小するのではないでしょうか。現状は、誰にとっても不幸なはずです。ただし、性犯罪者以外。

引き続き、私たちはこの重要な委員会の経過を注視していきます。ぜひ、ひとりでも多くの方に注目していただきたいです。それが、社会を動かす最も大きな力です。

実は厚生労働省のホームページで、議論の流れだけでなく参加している委員も公開されています(↓)。誰がどんな発言をしているのか、しっかりみておきましょう。


私たちが6月に「#保育教育現場の性犯罪をゼロに」作戦を始めて、はや3ヶ月。ようやくここまで来ました。今回は、本当に大きなチャンスです。絶対に形にしなければならないです。

というのも、次にこんなチャンスが来る時があるとしたら、それはまた、多くの子どもたちが性暴力にあった時だからです。センセーショナルな被害が出ない限り、政府は絶対に動きません。

本件に消極的な方々に伺いたい「あと何人子どもたちが犠牲になればいいのですか」と。

1 is too many(ひとりでも多すぎる)だと、私は思います。


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