見出し画像

煙草

私は、かつて、喫煙者でした。
初めて煙草を吸ったのは、高校生のときでした。
普通に興味本位で、自販機でセブンスターを買って、火を着けました。
(注:タバコは大人になってから。)
煙を吸い込んだ途端、激しくむせて、そして「なんて不味いんだろう」と思いました。
すぐに、買ったばかりの煙草を捨てました。

幼い頃、おばあちゃん家に行くと、従兄弟が缶ピースを吸っていました。
空いた缶はとても良い香りがして、缶だけ貰ってきた記憶があります。

ちゃんと吸うようになったのは20歳になってからでした。
あの頃、煙草はまだそんなに高価じゃなかったと思います。
一箱200円前後だったんじゃないかな。
よく吸っていたのは、フィリップモリスのスーパーライトでした。友人の吸っているラッキーストライクやジタンも時々貰って吸っていました。
マールボロも、なんかカッコいいな、と思って吸っていた時期がありました。

酒屋さんでバイトをしていた頃は、店長がロングピースを吸っていました。
「吸ってみる?」と勧められて、1本もらいました。ひとくち吸い込んだら、クラッときました。
「なにこれ、きっつ」と私が言うと、店長は「飛べるだろ、これ」とニヤリと笑いました。
その影響か、それ以降しばらくオジサンが吸うような、ホープとかハイライトなんかを選んで吸っていました。

プールで泳いでいるとき、煙草を吸っているせいで息が上がりました。
呼吸が辛く、肺が悲鳴を上げました。
「煙草やめなきゃ」と切実に思いました。
泳ぎ終わって、帰る前に、外の見晴らしの良い休憩所で、煙草を吸いました。
すごくおいしくて、「運動後の煙草、サイコー」と心の底から思いました。

妹に、「煙草って、どこが良いの?」と訊かれました。そう訊かれると、そうだなぁ、と考えました。
みんな言うように、『百害あって一利なし』だしね。
「うーん、たぶん…」煙草の巻紙の火を見つめて答えました。
「なんにも生み出さないところじゃないかな」。
ただ、火が先端を静かに削っていくだけ。
そこがいいのかもしれない。


計16年、喫煙生活は続きました。
最後の何年間かはバージニアスリムを吸っていました。今まだ、あるのかな?
ちゃんと肺に吸い込んで、煙草を愉しんでいましたが、肺は異常なかったらしいです。
健康診断に行って、喫煙10年以上と言っても、「ウソでしょー?!」と医師が驚くくらい肺は綺麗だったみたいでした。
たぶん、私にとって煙草は、私を汚すものではなかったということなのでしょう。


煙草を止めたのは36歳のときでした。
京都に旅行に行って、喫煙の部屋を取りました。
でも、何故か分からないのですが、その数カ月前から、「煙草を吸いたくない」と感じ始めていました。
夜、部屋で、習慣的に煙草に火を着けました。
なんか舌に残るような、変な味を感じました。
二泊したのですが、二晩とも同じような感じがしました。煙草は部屋に置いていきました。

帰路、京都駅で新幹線の遅延が発生しました。
復旧に数時間かかることが分かって、チケットを払い戻してもらいました。
駅構内の割と大きな喫茶店で時間を潰すことにしました。
無意識のうちに、また自販機で煙草を買いました。
当時はまだそんなに喫煙・禁煙の住み分けも厳しくなくて、案内された席で私は買ったばかりの煙草に火を着けました。

吸った瞬間に、身の内から、堪え難いほどの嫌悪感がわいてきました。
「なんで私まだ煙草吸ってるんだろう」
すぐに灰皿に煙草を押し付けて火を消しました。
その場に居るのも嫌になり、煙草を置き去りにして喫茶店を出ました。

その日から、1本も煙草を吸っていません。
吸いたいという衝動が無くなりました。
自販機の前を通っても、コンビニに行っても、煙草が欲しいという欲求も無くなりました。
たぶん、やめる時期が来たのでしょう。
雨が上がるみたいに、私の煙草のときは止まりました。
だから、私には『禁煙期間』というものが存在しません。ただ、終わっただけです。


私はもう吸わないけど、煙草の愉しさ、おいしさは知っています。なので、目線は喫煙者寄りです。

ヒトの煙がイヤ(喫煙者あるある)なのに、喫煙所で煙にまみれて吸っているんだよね。
お小遣いで、値上がりしていく煙草を買ってるんだよね。

喫煙者さんたち、肩身狭いけど、がんばって。
どうぞ素敵なひとときを。


では、この辺で。
読んでくださって、ありがとうございました。
また明日。
おやすみなさい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?