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『箱男と、ベルリンへ行く。』(十四)


『2月17日、長い一日 あるいはわたし達の「マジカル・ミステリー・ツアー」』(5)
 
今日は2024/6/6、ついに、映画『箱男』のポスターと本予告が解禁になりました。
まだご覧になっていない方、いませんよね。めちゃくちゃかっこいいです。

ぶち上がりました。役得で、正直、もう何回も観てますが、またもう一回観たいです。いや、あと何回も観たいです。8月23日が待ちきれません。
 
で、2月17日、もう夜の10時を回っています。我々は、メイン会場をあとにし決戦の地、Zoo Palast Auditoriumを目指します。
なんと、同シアターの座席数は、790席を数えるそう。そしてその座席がすべてソールドアウト、790人で一斉に、映画「箱男」初めての上映を目撃するわけです。なんか緊張してきた。
 

ここがZOO PALASTだ。お前が邪魔でよくわからん?


と、その前に、同地でも上映前のレッドカーペットがあるそう。もうあと少しで今日が終わるというのに、お客さんおるんかいな。「箱男」を観るお客さんたちは劇場に入っているはず、つまりレカペを待つ人々は鑑賞する人以外の人たち、ま、ちょぼちょぼお客さんたちがいて、ささっと会場入りして、ふふんと上映を待つってなかんじ……、いや、います、レカペ待ちのお客様たちが、見えて参りました。

これならわかるかな。


スケジュールは押しに押して、30分押しほど、それでもわたし達をベルリンのお客さんたちは待ってくれていたのです。
送迎車を降りると、歓声があがります。
『お、なんか、この感じ、メイン会場とはまた違った味わい』
Zoo Palastの方は、メイン会場よりもだいぶフランク。

鬼強そうなバウンサーに見守られながら、関さんと私、レカペ堪能中。


続いて、本丸の弐号車も到着。
監督、永瀬さん、浅野さん、佐藤さんが降りてきます。ひときわ歓声も高鳴ります。あちこちから、「アサノ!」「ナガセ!」「サトウ!」の声。もちろん、「イシイ!」の声も。
 


見て欲しいのは私ではなく、監督の背中です。


隣を見ると、関さんが「バッジクバレ」の呪文を投げかけてきます。ライターを「バッジ配りおじさん」に仕立てて何が面白いのかわかりませんが、一応周囲を見渡し雰囲気を確認、『あれ、なんかイケそうじゃない?』
そう、お客さんたちはもちろん、運営側も、なんだか、フランク&フレンドリー、試しに戦闘服のポッケからバッジ入りのパケを出し、手近なお客さんに、「Would you like HAKO-OTOKO badge?」とお声がけ。すると、始め怪訝な顔をしながらも、手をのばしてくれました。バッジを一つ、手渡すと、なんと感謝の言葉が。そして立て続けに、辺りのお客様が私に向かって手を伸ばしてくれるではありませんか。私は、次々に、バッジを手渡していきます。

バッジ配りおじさん。


『あ、なんか、嬉しい』
そう、バッジをもらってもらって、私は嬉しさを噛みしめておりました。
監督や佐藤浩市さんは、サイン攻め、質問攻め、セルフィー攻めに遭っています。
中には、かなりの石井監督ファンもいらっしゃるらしく、過去作について鋭い質問をしているシネフィルもいる模様。
一方、私は「バッジ配りおじさん」になった自分もまんざらではありません。
と、そんな私を見かねたのか、『セルフィー、OK?』と、可愛らしい女性が声をかけてくれました。
『セ、セ、セ、セルフィ? 私と?』
戸惑いながら、もちろん、OK。パシャリ、しかし、あの写真、女性の携帯の中に収められ、使い道もなく、デジタルの世界を浮遊するデータデブリになったことでしょう、いたたまれない……。
 

私とセルフィを撮ってくれた女性は、丁度ベルリナーレベアの真後ろにいる左を向いた黒髪の方……、だと思う。
そう、この右にいらっしゃるビューティ。
ほんと気を遣っていただいて申し訳ないです。


と、突如、ブーイングが聞こえました。
「なにごと!」
なんでも、浅野さんがファンサせず、一目散に劇場へと姿を消したことに対するブーイングだそう。
いやいやいや、なにも理由なく浅野さんがそんなことするはずないのです!
事態は、押し押しの押し、運営側が、浅野さんにだけ、なぜか、「時間がないので、できるだけ早く劇場へ」と伝えたのとのこと。そのお声がけが、幸か不幸か、我々の耳に届かなかっただけのこと。あんなにも気遣いの人である浅野さんが、ファンを無視してそんなことするはずがありません。
そして、しばらく、そのことに気付いた永瀬さんが、わざわざ浅野さんを呼びに行ってくださり、再度我々と合流、それからはもう見事な神対応ですよ。
そんな様を見て、つくづく、私は、「このチームの一員でいられて、よかったなぁ」と感じました。誰一人、鼻にかけたような人いません、それどころか、超一流の紳士ばかり、見ていて、目が気持ちよかったくらいです。
 

うむ。


さて、「バッジ配りおじさん」も終了の時間が迫って参りました。
200ほど用意したブツもほとんど売り切れ状態、配れなかった方々、申し訳ありません。
こんなことなら、もっと持ってこれば良かったですね。
ということで、ものすごく充実したレカペを堪能。我々はいよいよ劇場へ。
 

劇場の中の控え室はこんな感じ。


劇場に入るとロビーではしばしのフォトセッション。いやぁ、皆さんサマになります。しびれる、かっこいい。
で、ついに劇場入り。用意いただいた席には各々の名札が、しかもベルリナーレベアのロゴ入り。
『なんか、感慨深い……』
そして、着座なり!


Kiyotaka Inagaki…


と、隣には三峰さん。本当はつい一時間前に別れただけなのに、なんか久しぶりぃ!

はい、イケメン。


で、あとは上映を待つばかり。時間は、もう23時が目の前!長かった17日はあと一時間、でも映画は二時間、17日延長戦は確実です。
 
やがて、司会の方が登壇、彼の呼び込みの元、石井監督の登場です。
石井監督のスピーチをここに残しておきましょう。
 

ボケボケで、申し訳ないですが、壇上の監督です。


「この上映に来ていただいて、ありがとうございます。とても嬉しいです。
ドイツで、ベルリンで、この作品を観ていただく、上映できるということに、とても感慨深いものがあります。現在の日本映画においては、このような作品は、非常に作るのが困難でした。この映画が完成したのは、奇跡だと思います。その奇跡を実現してくれたのは、この会場に一緒に来てくれている、日本映画界を代表する優れた俳優さんたち、そしてやはり会場に来てくれている、頼もしい製作スタッフ、そして、やはりここに来てくれている、ライターや、映画のスタッフたち、そして、ここには来れませんでしたけれども、日本で皆さんの反応を待ってくれている、非常に優秀なスタッフや俳優さんたち、
この作品を完成させてくれたのは、そういう方たちのおかげです。こころより深く、この場を借りて、あらためて感謝いたします。
そして、この作品は、世界的に著名な文学者の原作です。その原作のエッセンスを面白い映画として皆さんに体験していただくために、様々な工夫を凝らしました。
二重三重に映画的な仕掛けをしております。ギャグやアクションも、シュールなアクションも満載です。どうぞ、笑って、存分に笑っていただいて、楽しんでいただいて、そして、この最新型のマジカルミステリーツアーを堪能していただきたい、と思います」
 
もう、ジーンですよ、そして、
これ、最新型の『マジカル・ミステリー・ツアー(!)』だったんだ!
万雷の拍手の中、映画「箱男」は始まり、そして終映しました。
 

これは、上映前。
本当に広い劇場でした。


終映後、何か、私は、すごく脱力していたのだと思います。
あんまし、記憶にありません。上映中も、実は周囲の反応はどんなかな、とつねに緊張状態が続いていました。
『へえ、案外、こういうところで笑ってもらえるんだ』とか、
『あれ、ここ、意外に、反応鈍い』とか、
でも、700人同時に同じ場所で同じ映画を観る、そのこと自体、もしかしたら一生に一回、あるかないかかなと思ったりしています。
海外のお客様と、日本のお客様の反応はまた違うはず、8月23日、皆様に見ていただけることが今から楽しみでなりません。
 
もちろん、上映が終わったのは、明けて18日、もはや深夜1時を過ぎているところ。
上映後のティーチインは、監督に加えて永瀬さん、浅野さん、佐藤さんも交え、とてもアクチュアルに行われました。でも、残念なことに、劇場自体のお尻がいっぱいいっぱい、監督も、「もし時間があればロビーで個人的に感想をお聞かせ下さい」と言い残した、30分弱でティーチインは終了。
我々は控え室に戻りました。
チーム「箱男」の面々で、控え室は一杯、でもなんだか、妙な達成感に包まれていて、正直言って、幸福でした。
思えば、監督の言うところである「マジカル・ミステリー・ツアー」は、私にとって、8年前から、始まっていたと感じます。
監督から、映画「箱男」のシナリオを一緒に書こうと誘っていただいた時がまさに「マジカル」で「ミステリー」な「ツアー」が始まったのでした。
そして、その旅は、決してベルリンでは終わりを告げません。
わたし達の「最新型の」マジカルミステリーツアーは、まだまだ続くのです。
(あ、いや、この連載っつう意味じゃないですよ。なんか、映画「箱男」のこれまでと今後をちょっとエモく言ってみたかっただけです、だけど……)
 
で、関さん、三峰さん、私の三人はひとまずその日、チーム「箱男」に別れを告げ、チーム「コギト」の根城にタクシーで帰りました。
かろうじて空いているキオスクでビールを調達、そしてあらためてささやかな乾杯。
私は、もう、自分の感覚が麻痺していて、眠くもないし、眠くなくもないし、なんだかよくわかんない状態です。
したら、なんでかわかんないんですけど、突如、三峰さんが感極まったらしく、私と関さんのために、美しいおじさんの涙を流してくれました。なんでかわかんないんですけどね。
 

無事、今日が終わって、よかったです。ね、三峰さん。


こうして、私の2024年2月17日は、若干の延長戦を加え、終わっていきました。
寝たのは、三時くらいかなぁ。
「え? これで『箱男と、ベルリンへいく。』の連載もおわり?」
いえいえ、まだ、私はあと数日、ベルリンに滞在していたのですよ。
 



(つづく)

(いながききよたか)


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