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●あこがれの喫茶人●第2回 喫茶人は馴染み上手

喫茶人の素敵だなと思うところに「馴染み方」というのがある。行きつけの店の空気に溶け込むように馴染むのである。

行きつけだからといって我が物顔をせずに入店し、お気に入りの席が空いてないとしてもさっと別の席に座る。
常連だからといって我先にということはせず、注文が決まっていても店員から声がかかるまで待つ。
店への信頼と言ってもいいかもしれない。よほど席数が多くて顔馴染みの店員もおらず見逃されているような状況でない限り、頃合いを見つつ待つのである。

そしてその「待ち方」も格好いい。どういうタイミングで店員が来るのか心得ているから、急がず、逆にもたつくこともせず待っている。店員がお冷を持ってくるのに合わせて待っている。
側から見ていて印象的だったのは上着を脱ぐタイミングだ。まずは座って注文を決める。(座る前から注文が決まっていることもあるが)そして注文が終わってから上着を脱ぐ。
店員がいつ来てもいいようにという配慮に見えた。店員が近づく気配があるのに上着を脱ぐ動作があると手前で待たせてしまう。まずは注文して、それから自分のことに取り掛かる。
店員が来るまで少し間がある場合は上着を脱ぎ、持参した本を取り出したりくつろぐ準備をして待つ。呼ばなければ店員が来ない店でない限り、手を挙げたりしない。待つ、という信頼なのだ。

なんと格好いい馴染み方と待ち方だろう。スマートの一言に尽きる。感服しながら私はそんな喫茶人たちを眺めていた。
空気を読むのとはまた違う。店の動きに添い、馴染んで預けて自分の時間を過ごす。
そしてその姿はまるで店の一部のように馴染むのだ。


〈お店の視点から〉
ちなみにお冷を持って行くタイミングは、お客様がお席について一呼吸置いてからというのを基本にしています。
私は通う側として、喫茶人の注文のタイミングが格好いいと思って倣っていますが、お店側としてはお客様それぞれのタイミングに合わせて参じています。
しかし、お冷が来るまで声をかけずに待つというのは店側からするととてもありがたいのです。
少人数で営業している店などは、ほかのお客様へのご提供と一緒にご注文を伺いに行くなど、一度の動きで併せて接客することが多いので、待っていてくれるのは助かるし嬉しいのです。

また余談ですが、7〜8年前まではメニューから顔を上げたり携帯電話を触り始めたらご注文が決まったサインとみていたのですが、ここ数年は携帯電話を見始めるというのは決まったサインではないことが増えました。
年若い友人に聞いたところ、画像検索をしてどんなものが提供されるのか見てから決めたいとのことでした。なるほど、そういう時代になったんですね。

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