第1話はこちら。
小さな幸せは目の前に。
静かな月明かりだけの薄暗いリビングで
むむさんと神さまのおしゃべりは続いていた。
きょきょさんは
なんとも言えない表情でうなづいた。
確かにそう。
本やテレビやネットで何度か聞いたことあった。
幸せは常に目の前にあるってことは。
なんとなーく分かる。
でも、それが分かっててもできないの。
理由も分かってる...
うん。神さまその通り。
心のゆとり。
そう。私の日常は忙しすぎる。
2人の子育て、家事、仕事、ママ友の関係...
考えることが多すぎて、心のゆとりなんて全然ない。
そう。それが知りたい。
この心の余裕がない生活から抜け出したい。
お願い。神さま教えて。
感謝すること。
感謝?
確かにそう。
人に助けてもらったりしたら
ちゃんとお礼を言いなさいってしつけはしてきた。
私たちもちゃんと感謝はしてる。
神さま、何が聞きたいんだろう?
本当の感謝とは?
むむさんは
なんとも気まずそうな顔をした。
確かに。
私もお父さんに“ありがとう”って言ってなかったな。
毎日ご飯作ってるのに
誰からもありがとうって言われないなってこと
ばかり考えてた。
あ。
きょきょさんは
なんか不思議な気持ちになった。
みんな繋がっている。
隣のご家族も、今日の買い物でレジ打ちしてくれたあの人も、電車で隣に座ったあの人も、道でただすれ違ったあの人も。
この人たちがいるから私たちは生きていけるんだ。
きょきょさんは
なんだか涙が出そうになった。
あるものに目を向ける。
なんか全てが幸せに感じてきた。
屋根があるところで寝れるのって幸せ。
布団で寝れるって幸せ。
毎日ご飯を食べれてるってすごい幸せじゃん。
毎日温かいお風呂に浸かれるのも
蛇口をひねって当たり前に水が飲めるのも
車や電車、バスですぐに遠くに行けるのも
全部すごいありがたいことだ。
洗濯機も掃除機も。
服や靴も。
当たり前だと思ってたものって
本当は全部すごい。
むむさんにもすごく響いてる。
自分?
自分に感謝...
それは全然なかった着眼点だ。
そうだよな。
自分がまず自分に感謝しないだ。
すごいな。むむさん。
宿題。
神さまはまた黒板を出現させて
そこに文字を浮かばせた。
感謝することをノートにか...
私も手帳に毎日書いてみようかな。
朝のやつはちょっと照れくさいな〜...
神さまはニヤリと笑って
持っている杖を振りあげた。
目を開けられないくらいの眩しい光が
杖から放たれ、きょきょさんは思わず目を瞑った。
光が落ち着き、きょきょさんが目を開けると
布団の上だった。
横を向くといつもの風景。
お父さんとめめちゃんが寝てる。
そしてむむさんも。
あれはなんだったんだろう。
夢?でも記憶は残ってる。
時計の針はもうすぐ6時。
よし。起きて朝ごはんを作るか。
改めて3人の寝顔を見たきょきょさんは
思わず呟いた。
「幸せだなぁ」
「あ」と
自分が自然と呟いたことに少し照れつつも
すごく心が満たされていることに気が付いた。
いつもと同じ朝だけど
いつもと違う気持ちで一日がスタートした。
#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門