見出し画像

香水は大人なカホリ

付き合いたてDKのBがLしてるお話です。

「しゅん、帰るぞー」
「あーい!」

教室のドアのとこに隣のクラスから来たひーちゃんが立ってる。ちょーイケメンの幼馴染。
そんなひーちゃんは実を言うと俺のカレシだ。まだ付き合って1週間のぴちぴちのカップル。
鞄を背負ってひーちゃんに駆け寄れば、冷やかしが飛ぶ。でも俺は満面の笑みで返してやる。ラブラブ参ったか!

「かーわい」

そう言ったのは、甘々な蕩ける笑みを浮かべるひーちゃん。俺の頭を撫でて、見せびらかすように頭を引き寄せた。ふぁ、良いにおいする……

「お前らにしゅんはやらないからなー」
「「「いらねーし!」」」

クラスメイトからの全力の否定を背中に受けつつ、手を引かれて教室から離れた。

頭一個分上にある横顔を見上げて、しみじみとかっこいいなぁと思う。なんていうか余裕があって、俺たちが騒いでても一歩後ろで見守ってるような性格。
でも全然嫌味じゃなくて、みんな困ったことがあればひーちゃんに相談したりする。兄ちゃんって感じ。
それに、ひーちゃん、最近いっつも良いにおいするんだよなぁ。落ち着く大人のカホリが一層それを引き立ててる気がする。

別れ際に抱きついてスンスンとひーちゃんを嗅いでいると、背中に腕がまわってぎゅーって抱きしめられる。それから髪の毛に顔を埋めてきて、「しゅん、好き」ってぼそっと呟く振動が響いてくる。

「俺も! 俺も好き!」

俺もぎゅーって抱きしめ返して、ひーちゃんを吸いまくった。

「しゅん嗅ぎすぎ」
「ひーちゃんがいい匂いすぎて止まらないの!」
「ああ、香水な」
「こ、こ、ここ、こ、香水!?」
「プッ、ニワトリみたい」

あははと笑うひーちゃんが、その瞬間すごい大人に見えた。俺も負けてられない!

じゃあ、と手を振って別れたあと、俺は一目散に家に帰り洗面所を漁った。何か昔、母さんがシュッて、出かける前にシュッてしてた気がする。

「あった!」

スプレーやら得体のしれない液体が入ったボトルに紛れていたCHAN〇Lと書いてある瓶を取り出した。全く使ってないのか、うっすらと埃が堪っている。
毎日ひーちゃんのかっこよさに俺ばっかりキュンキュンしてる気がする。背もチビだし、バカだし、全然いい所もなんてないから、ちょっとぐらいは俺だって……そう、俺だってオトナな男を見せて、ひーちゃんを惚れさせてやるんだからな!


 †

「うぅっ、取れない。なんで……?」

昨日の企みの通り香水を使った。でも思ってたのとなんか違う。甘ったるくて酔うし、とにかく臭い。全然いい匂いなんかじゃない。
試しにかけてみた手首を何度も洗ったのに匂いが取れなくて泣きそう。服着たら匂いが抑えられるかなんて思ったけど、全然無意味だった。
教室に入って席に着いた後、ざわざわ騒めき始めたかと思えば、皆の視線が俺に向く。

「しゅんー。何つけて来てんの? すっげー匂いするんだけど」
「べ、別につけてないし!」
「嘘つけ! この教室中ヤバい匂いだぞ。この、げろ甘な……」
「……ごめん俺無理だわ」
「えっ……」
「換気しよ」
「そ、そんなに?」

窓を開け放ち始めるクラスメイトを見て、泣きそうになった。実際ちょっと涙が出た。
二時間目が終わる頃には、換気しているせいかそこまで匂わなくなって、俺はホッと溜息をついた。まだ皆の視線が痛かったけど。

そして、三時間目。毎週唯一俺の楽しみな授業、体育の時間がやってきた。ひーちゃんと会える貴重なお着換えタイムがあるからだ。
最近一緒にお風呂も入らなくなったし、裸も見ること少なくなったから、カッコいいひーちゃんの体を拝める数少ないチャンス!
俺はチャイムが鳴った瞬間、体操服を抱えて更衣室までダッシュした。先生の「走らない!」って声は聞こえてるけど聞こえない。
いつものロッカーに陣取って、ひーちゃんが入って来るのをそわそわと着替えて待つ。
ひとりふたりと入ってきて、後は押し寄せるように更衣室になだれ込んできた。その中でも光輝いて見える俺のカレシ!

「しゅん」
「おう、おつかれ」

体操服に腕を通しながら言うと、ひーちゃんがすっごい真顔で俺のことを見てた。も、もしかして……?

「なんか、匂わねぇ?」

そんな声がこそっと聞こえた気がした。やっぱり、まだ匂ってる!

「あー、しゅんが香水つけてきてんの」
「量間違えたらしくて、教室が悲惨なことになったんだよ」
「なー、しゅん」
「うっ」

せっかくひーちゃんにかっこいい所見せようと思ったのに。恥ずかしくて、体操服から頭が出せなかった。何でいっつも俺こんなドジばかっかりするんだろう。

「しゅん」

固まってると、ひーちゃんが俺に声を掛けた。すっごい優しい声。その途端、ブワって涙が溢れてきた。

「しゅーん」

体操服を下に引っ張られて、頭がスポンと襟首を通って表に出てしまう。泣いてるのに。

「おまえなんで泣いてんの!?」
「本気にすんなって!」
「しー」

ひーちゃんが口に人差し指を当てて、皆を黙らせた。どうしてか、息を呑む音も聞こえたような気がする。
振り返ったひーちゃんと目があって、馬鹿にされるかと思ったけど、全然そんなのはなくて、……むしろ零れんばかりの微笑みが。
そのせいで涙腺が決壊した。

「しゅん、おいで?」
「ひーちゃん!」

両手を広げられたら行くしかない。俺は広い胸に飛び込んだ。
すぐ背中に手が回って、ギュッとしてくれる。俺が鼻水垂らしてることなんか、まるで気にしてないみたいに。

「おしゃれしたかった?」
「……だって、ひーちゃんが付けてるのかっこよくて」
「そっか、真似したかったんだ」
「うん」

ずびずび鼻を鳴らしていると、俺の頭をぐりぐり撫でてくれる。
ひーちゃんには敵わない。何から何までイケメンすぎる。
取り出したティッシュで鼻チーンまでしてもらって、至れり尽くせり。

「俺はこの匂いも好きだけど、いつものしゅんの匂いの方が好きかな」

一通り俺の顔面の悲惨な状況が治まると、ひーちゃんは俺の髪に顔を埋めてスンスンし始めた。
授業の開始のチャイムが鳴るまでずっとスンスンしてた。俺、どんな匂いするんだろう。

授業を遅刻して大目玉食らったけど、クラスメイトの面白がっていた眼差しは憐れみに変わっていた。


END

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?