運ばれていく

 投函された。今僕は赤い箱の中、真っ暗闇でバイクに乗ったお兄さんを待っている。
 別に待たなくたっていいんだけど、なぜか待っている。どんな旅になるんだろう。どこまで行くんだろうなんてワクワクしながら、待っている。
 待っている間、他の物達に聞いてみると、いろいろあって、運ばれ方があって、僕みたいに紙一枚になって、丸裸に情報を携えて送られることもあるし、丁寧に包まれて、中に大事な物を抱えながら送ることもあるそうだ。
ときどき、四角い入れ物にされて、中に生臭いものを詰め込んで、体がガッチガチにされる状態にされることもあるそうだ。あれはハズレなんだって。ガッチガチになったと思ったら意識が飛んで、起きると体から大量の汗を書いて、びちゃびちゃになっているんだって。
僕はそれはなんだか嫌だなーって思った。
 バイクのギアチェンジする音がして、すぐ近くに停まった。すると、意外とバイクに乗ったお姉さんが僕がいる赤い箱は開けて、差し込んだ光で目が眩んだ。ひょいっと体が持ち上げられた。目が慣れてみると、、バイクの後ろにある赤い箱に移動させられていて、箱は閉じられて、真っ黒になった。ここからはドライブだ。右に左にと揺らされる。
 そのあとは、ちょっと走って停止したり、長く走って停止したりを繰り返して、荷物がいっぱいになると、いつの間にかベルトコンベアの上にいた。すると、近くにいた仲間達と離れ離れになって、また新しい仲間達と出会って、お互い眠い目を擦りながら挨拶をしたんだけど、知らぬ間に一緒に眠っていた。

 翌日起きると、大きな車に乗っていて、体はまた右に左に揺れた。たぶんトラックの中かな。すっかり友達になった友達と話しこんでいると、またベルトコンベアの上をうぃーん、ときどきしゅーんという音を聞きながら流されていく。
友達も同じ箱に入れられて、今度はバイクのお兄さんの運転でドライブだ。最初は長いドライブだったんだけど、途中から短いドライブが続いた。何度も停止して、友達ともお別れがきた。グッドラックなんてかっこつけて言い合って、僕らは笑った。気が付くと、周りには誰もいなくなった。すっかり僕が最後みたいだ。
 ちょっと長めのドライブをしてバイクは停まった。お兄さんが僕を持って、家のポストへ向かう。確かにここは街はずれの家みたいだ。僕は銀色のポストに投函された。これで僕の旅は終わり。
 いろんな人にあった。最初に僕を投函した人。ポストに向かいに来たバイクのお姉さん。バイクからどっかの建物に運ばれていくときにすれ違って、お姉さんがお疲れさまとあいさつする人たち。ベルトコンベアで僕らを見守っているさっきすれ違った人たちだったり、また違う人たち。そのあと眠っちゃったから、ちょっとわからないけれど、トラックに載せてくれた人もいるはず。そのあとはトラックを運転してくれていたおっちゃん。それからまたベルトコんベアを見守る人たち。それから最後はバイクのお兄さん。
 僕ははがき。僕をここまで運んでくれる人たちがいたから、運ぶ仕組みの中の人たちがいるから、またはこの仕組みを作った人たちや、それを支える直接関係しない人がいるから僕は良い旅ができた。同じ言葉で話したができたら、ちゃんとお礼を伝えたい。悔しいな。こんなに感謝しているのにお礼さえ言えないなんて。
赤いポストの中にいたときにいがみ合う、夫婦喧嘩が聞こえてきたり、さっき聞こえた子どもたちが悪口を言う声が聞こえてきた。なんて言えばいいかわからないけれど、何がそうさせるんだろう。こんなにありがとうって思うのに。

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