見出し画像

小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』8/11(日) 【第38話 All you needs is love】

今の症状が、急に良くなるわけではないので
この体調に、付き合いながらも、出来るだけ
これまで通りの生活リズムで過ごすため、
朝、重い体を起こす。

努めて普通に、朝食を食べているつもりだが
洋子の目にも私の体調が良くないという事は
明らかなようだ。洋子は心配しながら言った。
 
洋子「あなたどこか悪いんじゃない?
大丈夫ですか?」その問いに、私は答えた。

隆「気圧がの変化とかで偏頭痛が出るようだ
歳なんだろうな」無理に笑ってみるが
洋子は心配そうに続ける。
 
洋子「あなた病院行きませんか? 
私、今日、仕事休むので」と言ってきた。
私は焦りを悟られないように、返した。
 
隆「大丈夫。酷いようなら、1人で行くから。
お前は、心配せず、仕事に行ってきてくれ」
洋子は、その言葉を聞いて、直子に
「お父さんの具合悪かったら、すぐ電話して」
と言って、仕事に出ていった。
 
玄関のドアが確実に閉まるのを確かめてから、
直子が口を開いた。

直子「ねえお父さん、お母さんの言葉聴いた?
お母さん、あのライブの日のことなんて、
もう気にしてないよ。

それよりもお父さんの事が、
心配で、心配で仕方ないんだよ。
それだけ、お父さんのこと、
大切に思ってるんだよ」
 
直子の言葉を聞いて、何故か涙が出た。
「そうだな」という言葉を2~3回繰り返した。

そして、自分が求めているのに、それでいて、
自分に、一番足りないものがわかった。
簡単に言うなら、それは洋子への「愛情」を
絶えず高めようとすること。
 
洋子の気持ちを汲み取って、洋子が望む
未来に向けて見返りなど求めず、
自分の足で進んでいく、ということだ。

洋子の言葉で、進むべき方向はわかった。
あとは、どうやってやるか?ということだ。
 
その答えを探し出そうといつかと同じように
深い思考にのめりこもうとしてはみたものの
今の自分には負担が大きかったようで、
再び、酷い頭痛に襲われ思考を止めた。

暫く横になってたが、洋子が帰ってきた音で
目覚めた。
 
まだ頭痛は治まってはいないが、
洋子に心配をかけないように、
笑顔でリビングに移動した。洋子は言った。

「あなた、体調はどう?」
私は笑顔をつくり、返した。
 
隆「もう、だいぶよくなったよ。
心配かけて、すまなかったな」
私の言葉も完全には信用していないようだ。

洋子は、職場の人に色々聞いてくれた
ようで、それを私に教えてくれた。
事情を知る直子は、1人表情を曇らせている。
 
食事が終わり、入浴後は、自分の部屋に入り
再び横になった。眠れそうな気配がないので
今日も、病院で出された睡眠導入剤を飲んだ。
意識は徐々に遠くなり、一応眠りにはついた。

私が眠りについたあと、リビングに残ってる
洋子と直子の間で交わされていた
会話の内容について、私には知る由も
なかった。
 
結局、眠りにはついたものの、
昨日と同じく夜中には目が覚めた。
それでも昨晩よりは、長く眠れたと思うが、
まだ、外は真っ暗だ。

それでも、目を閉じてみると、
まどろみ程度の眠りはあったかもしれないが
「眠っている」という感覚はないまま、
朝を迎えた。

 
台所で物音がするので、既に、
洋子と直子は起きているのだろう。

私も起きているのだが不調を悟られないため、
少しでも頭痛が軽減されるタイミングを待ち、
リビングに移動した。
 
リビングに行くと、洋子が居た。
「おはようございます」の言葉をかけらると
思っていたが、なかった。
 
その代わりに、洋子は黙って私に近づいた。
何を言われるのだろう?と
半分怯えていると洋子に両手を握られた。

洋子の行動に私の理解が追い付くより早く、
洋子は私に抱きついてきた。

洋子「あなた、病気のことを直子に聞いた。
どうして、言ってくれなかったの?
私あなたの妻よ。もしあなたに、
万が一の事があったら、  この先、私、
どうやって、、、」
 
そこで洋子の言葉が詰まった。
そして、すすり泣く声が聴こえた。
洋子は声を振り絞り続けた。
 
洋子「私、あなたがいなきゃ何もできない、
何にも楽しくない。私定年した後、
あなたと一緒にご飯食べたり、
出かけたりするのを楽しみにしてたの。

だからごめんなさい。その気持ちが強すぎて、
今まで以上に、自分が思った事を、
そのまま、あなたにぶつけてしまって
いたかもしれない。

でも、そんな贅沢は言わない。
ただ私は元気なあなたと、これからずっと
一緒に居たいだけ。
だからお願い、無理はしないで。」 
 
そこまで話をするのが、やっとで、
再び洋子のすすり泣きが響いた。

その間、私は何も言えなかった。
気づけば、私の目からも涙があふれていた。

そして、リビングの入口に、直子が
立っている事に、ふと気づいた。
直子も、目を真っ赤にしている。
 
(第38話 終わり) 次回はお盆の関係で、6日後の8/17(土)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?