見出し画像

小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』10/5(土) 【第57話 緊急企画】

目覚めると、横にいる凛はまだ眠っていた。
私の手を繋いだまま寝てくれた。
凛の優しさに包まれて眠っていたことに
感謝した。
 
そんな気持ちで凛の寝顔を見つめていると、
流石に、視線に気づいたのではないだろうが、
凛が目を覚ました。

そして、凛は言った。
「裕奈ちゃんおはよう。眠れた?」
私が頷くと、凛は微笑んで言った。
 
凛「そういえば、翔より先に裕奈ちゃんと、
寝ちゃったな。後で自慢しよ」
私を元気づけようと、凛らしい心遣いだった。

凛の「さ、そろそろ、起きるか」の言葉で、
2人とも、ゆっくりと布団から出た。
そして、凛が言葉をかけた。
 
凛「裕奈ちゃん、先に洗面所使っていいよ。
私はここで身支度とかするから」
翔の家は、2階にも小さな洗面所がある。
2階は凛専用だが先に順番を譲ってくれた。

私はあまり化粧自体が好きではないのもあり、
20分程で洗面所を使い終わり部屋に戻った。
着替えが入った鞄があるからだ。
 
するとちょうど凛が着替えていたところだ。
着替えながら、凛が言った。

凛「祐奈ちゃん早いね。まぁ元がいいから、
私みたいにお絵描きに時間が要らないんだな」
 
そう言っている凛は今、着替えの真っ只中で、
下着だけの姿だった。私は思ったまま返した。

裕奈「お姉ちゃんって想像していたよりも、
はるかにスタイルよくて、セクシーですね。
羨ましい」それを聞いた、凛は言った。
 
凛「そう?祐奈ちゃん、セクシーになりたい?
セクシーになって誰に使うの?
ところでさぁ、今『お姉さん』じゃなくて、
『お姉ちゃん』って言ってくれたね。
なんか本当の妹できたみたいで嬉しい。
よし、じゃあ私も今日から『裕奈』って
呼んでいい?」
 
私は意図してそう言ったわけではないのだが、
自然と口から出てしまった。
でも、凛にそう言われて嬉しかった。
 
私に限らずだが、弟や妹は
後からできることもあるが、
兄や姉は、普通は後からはできない。
このシチュエーションは、
姉がほしい長女の憧れと言っていい。
 
私は、迷わず言った。
「勿論、裕奈でいいよ、お姉ちゃん!」
そんな、他愛ないやり取りが、
昨日受けた衝撃をやわらげてくれた。

身支度を終え、凛と2人で
1階のリビングに降りた。

既に、凛と私以外はみんなリビングに居た。
 
朝食を食べていたが、父の直樹が時計を見て
席を立った。そして電話をしに廊下に出た。
仕事の電話だろうと思ってた。

朝食が終わり、凛が剥いてくれた
林檎を食べていると、直樹が言った。
 
直樹「裕奈ちゃん、お父さんと病院に行くの、
明日だろ?で、日曜だけど、主治医の先生が、
それならと、12時に時間を取ってくれるから、
その時間に合わせて、病院行けばいいよ。
裏の救急口で名前を言えば、入れてくれる」

それを聞いて先程の直樹の電話は、
この件だと気付いた。
私は、そこまで気が回らなかった。
 
父からのLINEで、日本到着後、
空港近くにあるビジネスホテルに泊まり、
早朝に病院に向かうという連絡があった。

それもあり、凛からは、
「よし、裕奈、今晩もお姉ちゃんと
一緒に寝なさい!姉命令です!」
と言われていた。

私も嬉しくて調子に乗り
「はい、お姉ちゃん」と言った。
聞いてた翔の頭に無数の?マークが浮かんだ。
 
とりあえず、1日分しか着替えがないので、
取りに帰らなければと思った。
それ以外に何か予定があったかを
確認するため予定表を見ると、
そこには、「撮影」と書かれていた。
私は翔に向かって言った。
 
裕奈「ごめん、忘れてた。今日、撮影だね」
翔は少し驚きながら返した。

翔「いや、今日はさすがに中止にしようよ。
機材トラブルという理由で先週撮影した
動画も昨日はあげていないから。
1週分ずらせば大丈夫。
連続企画って事も、まだ出てない。」
 
裕奈「でも楽しみにしている登録者の人にも
悪いよ。私、大丈夫だよ」

翔「いや、そういうわけには、、
それに元々、今日は高尾山登山の企画だから
今からだと、時間的にも厳しいし。

まあ1週飛ばそう。その替わりに
総集編を作ってあげておくよ」
そんな会話を横で聞いていた母親から、
意外な言葉が出た。
 
「ねえ、闇鍋企画ってどう?
お父さん、凛、翔、祐奈ちゃん、私、
それぞれ、お互いには内緒で鍋の素材を買う。

それで、目を瞑って、順番に食べていって、
食材は何か?と、誰が準備したか?のクイズ。
裕奈ちゃんが優勝すれば、チャレンジ成功! 
 ってのは、どう?

勿論、みんな裕奈ちゃんの事が好きだから、
裕奈ちゃんの番だけ、凄いヒント言う、
とかって、面白くない?、、、、

あ、ごめんなさい、そんなに面白くないよね、
そんなの」翔が間を置き、返した。

 翔「いや、母さん、天才!!それ面白いよ。
でも、それだと家族みんなが出る設定だよね。
それは流石にヤバイでしょ?」 
その質問に、意外にも父の直樹が答えた。
 
直樹「それ大丈夫だ。凛、あれ持ってきて。
いつか、そういうこともあるんじゃないかと、
準備してたやつあるんだよ。」
凛が持ってきたのは、3種類の
レスラーマスクだった。
 
翔は呟いた「出たかったんだ、みんな」
凛は、頷きながら返した。

「うん、正直、YouTubeって、ちょっと
憧れというのはある、ただ、それより何より、
みんな裕奈ちゃんと、絡みたいんだよ!
気づけよ!」

翔「知らんわ、そんなの!」
私は笑い転げた。そして、
チャンネルプロデューサーの判断は、
企画採用だった。
 
ただ、わかっていたが、
私の気が紛れるだろうと思って、
翔は、その企画を採用にしたのだろう。
 
(第57話 終わり) 10/10(木)まで毎日投稿。
次回は明日10/6(日)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?