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小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』9/12(木) 【第47話 夏休み】

夏休みに入ったが、まだ流石に受験勉強を
することはなく、3日間の夏期講習と、
山形にある祖父母の元へ、帰省をする以外、
決まった予定はなかった。

そのため必然的に翔と動画の撮影だったり、
打合せのために会う頻度は上がった。
 
打合せも初めはファミレスでしていたが、
毎回ファミレスだとお金が勿体ない
ということで、いつからか翔の家で、
打合せをするようになった。

最初に家に誘われた時は、警戒したが、
驚くほど、何もしてこない。
依然として下心は感じるのだが、
とにかく動画の話ばかりをしている。
 
私に女性としての魅力がないんじゃないかと、
自信をなくすほどだ。ただ翔の動画に対する
熱意と才能は本当に凄いと思った。
夏休み前半の3週間で、5本の動画をあげた。
 
そして驚いたのは5本の動画がどれも好評で、
登録者が一気に1万人に達した。
 
8月の2週目は山形の祖父母宅に帰省していた。
特に娯楽もないので自分達の動画を見ていた。
翔がアカウント所有者権限を共有してくれた
のでコメントへの返信も、可能な限りやった。
 
その中で、「Haru」というアカウントの人が、
どの動画にもコメントを書き込んでくれてた。
正直に嬉しい。特に、一番最近の動画に
あげてくれていたコメントが印象に残った。
 
「ユナちゃんとショウくんを見てると、
本当にホッコリします。仲がいいですね。
実は私にも仲良くなりたいと男性がいるので、
お二人に、あやかる事ができれば、
と勝手に思ってます。
もうアラフォーですけどねww」 
 
まさかそんな大人の人にコメントを
もらうとは思っておらず恐縮をした。
自分なりに、精一杯考えコメントを返した。

お盆が終わり、東京に戻る前に新幹線の駅で、
お土産を買った。ここ数年お土産を買う相手が
いなかったが、今年は、久しぶりに買った。

東京に戻った翌日は、翔の家で打合せだった。
13時に、翔の家を訪ねた。
 
チャイムを鳴らすと、翔の姉の凜が出た。
名前を告げると「すぐ、開けるね」
と言ってドアを開けてくれた。

翔の家には、夏休み中何度も来ているので、
翔の家族とも顔なじみになっている。
 
姉の凛に、挨拶をし、お土産を手渡した。
凛はお礼を言い、家の中に誘い入れた。
 
そして、2階に向かって言った
「翔、彼女が来たよ」すると、翔が返した。
翔「彼女じゃないって!」凛は返した。
凛「ブサイクなほうが、否定するな!」
姉弟のこのやり取りは、何度も見ているが、
いつも笑いが溢れる。
 
私は、2階にある翔の部屋に上がった。
翔は、お盆の間も企画を考えていたようで、
パソコンの画面を私に見せ、ワードで作った
簡単な企画書を説明してくれた。
 
翔が、2つ目の企画の説明をしているときに、
ドアがノックされた。
翔が返事をしないので、凛が言った。

凛「翔、返事ぐらいしなさい。入っていい?」 
それでも翔は全く返事をしようとしないので、
私は立ち上がりドアを開けた。翔の姉の凛が、
お土産のお菓子を皿にのせ麦茶と持ってきた。
 
凛「はい、これ、裕奈ちゃんからのお土産。
翔、あんた、ありがたく頂きなさいよ」
翔は、凜に向かって、うるせぇと言いながら、
私に向かって「ありがとう!」と言って、
お菓子を口に運んだ。
 
そして、凛はお盆を持ち、部屋を出て行く時、
わざわざ、振り返って、言った。

凛「翔、今からここでエッチするんだったら、
姉ちゃん、イヤフォンしておいてあげるから、
声とかは、気にしなくていいよ」
翔「しないって、だって彼女じゃないの!」
凛「だから、ブサイクな方が言うなって!」
私は、笑い転げた。
 
いつも、こんな楽しい家庭で生活してるから、
翔みたいな優しい人に育つのだろうと思った。
そして自分の環境とどうしても比べてしまう。


私の両親は私が小学校6年生の時に離婚した。
だから、今は、母親と2人暮らしだ。
 
離婚し、家を出て行った父親は収入があり、
養育費を毎月、結構な額を振り込むので、
幸いにして経済的に困っていない。
勿論、母も仕事をしているが
主だった収入源は、父親からの養育費だ。
 
小学校まで、どちらかというと
前に出るタイプだったと、
周りからは言われる。
学芸会でも自分から、
主役に立候補したこともあった。
 
ただ両親の離婚を機に、自分から積極的に、
人と接したり、人前には出なくなった。

離婚の原因は、浮気や金銭的な事ではなく、
2人の不仲が原因だった。
私の前では両親は仲睦まじい姿を演じていて、
2人の不仲には、全く気付いてなかった。

そのことを、ある日突然聞かされた。
小学校6年生の子供がしっかりしているかは、
個人差はあるだろうが両親の離婚というのは、
どんな子供にとっても決して
影響が小さいものではない。
 
いつしか人と接することに
距離を置いていた私にとって、
翔の家で過ごす楽しい時間は、
この上ない、宝物になっていた。
 
 
(第47話 終わり) 次回9/14(土)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

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