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小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』6/22(土) 【第19話 三日月の影】

その日はそのまま、晴香は、部屋に泊まった。
翌日は、2人とも仕事だったので、その日は、
あまり夜更かしせず、眠りについた。
晴香の手を握り、朝まで眠った。
 
翌日は緊急のオペもあり、かなり多忙だった。
週末が学会の為、変則的に木曜が非番だった。

それもあり、オペの後も、書類の作成などで、
遅くなり、病院を出たのは23時過ぎだった。
 
晴香には、オペが終わってから、遅くなりそう
だから、先に休んでてとLINEをしておいた。

家に帰り、玄関を見ると晴香の靴があった。
晴香は明日早番だったので、自分の部屋に
居るかと思ったが、来てくれているようだ。
 
ただ、日付が変わろうとしている時間なので、
もう既にベッドに入り、寝ていた。
私は晴香を起こさないように、
シャワーを浴びて夕食をとった。
 
晴香を起こさないように
ソファで寝ようとも、思ったが
晴香と過ごせる時間もあと少しだと思うと、
晴香の近く居たいと思い、
出来るだけ晴香を起こさないよう、
静かに寝室に入り、晴香の横に入った。

慎重に入ったつもりだったが
晴香が気づいて、目を開けた。
晴香は微笑んで言った。
 
晴香「おかえり、愛してる」
私は晴香を優しく抱きしめ頭を撫でていった。
拓也「愛している。おやすみ」

 
翌朝は、晴香と、同じ時間に起きた。
晴香は、それを見て言った。

晴香「ごめん、起こしちゃった?
休みなんだから、ゆっくりしてなよ」
私は首を横に振り、言った。
 
拓也「大丈夫だよ、昼間寝るから。
朝ごはん食べれる?パンぐらいしかないけど」
晴香「え、いいよ。自分でやるから」 

拓也「気にするなよ。じゃあ準備しておいで、
その間に作っておく」

晴香は、ありがとう、と言って、
口づけをし、洗面所に向かった。
晴香と朝食をとり、彼女を送り出した。

 
幸せに包まれた時間だと思った。
しかし晴香が居なくなり1人になると、
色々と考えてしまう。
 
愛する人と、遠距離恋愛になるということと、
そして何より、その愛する人が、
病に侵されているということだ。

そして、自分にできることが
何もないことが、この上なく、歯がゆい。
ましてや医師の職にいながら何もしてやれない
自分に苛立ちさえ感じる。
 
今週末の学会も、何か理由をつけて
欠席しようと何度も思った。

そうすれば、晴香と過ごせる時間ができる、
と思う一方、一緒に居たとしても、
それにより彼女の病が治るわけではない。
結局、自分は何もできない。
 
そんな、深い思考の沼に
はまっている時に、ふとした瞬間、
例のクレストムーン クリニックの
ことを思い出した。

晴香の居ない部屋に一人で居ても、
この“沼”にはまるだけだと思い電話をした。

この日も、予約が空いているようだったので、
言い方は適切ではないが、気分転換がてら
行くことにした。
 
いつも通り薄暗い診察室に入ると、後から、
いつもの、小柄な若い女性が入ってきた。

まず問診から始まる、と言っても、
ただ自分の悩みを話すだけだ。

そして今までと同じだが、この若い女性は、
それほど熱心に、その悩みを聞いている
感じでもない。

逆にまるで人形に話をしているように感じた。
なので包み隠すこともなく、
恋人とずっと一緒に居たいと思ってるが、
それが叶わないと口にしていた。
 
その後、催眠療法に入った。
徐々に意識が遠いところに行く。
ただこの日は意識が遠くの方に
行きながらも、女性の声が所々聞こえてた
 
「もう、そんなの終わらせほうがいい、
そうすれば、お互いが楽になれる。」
そんな言葉が聞こえた気がして、反射的に
「そんなのは嫌だ」と言ったような気がする。
 
ただ、それをしっかりと聞き分けられるほど、
言葉にはなっていなかったように感じる。

その後も断片的に女性の声が聞こえる。
何故か途中から、それが晴香の声に聞こえた。

「だから言ったじゃない、、、2人で居ても、
お互いにとって良いことはないって」

なんでそんな言葉が聞こえてきたのか?
いや、本当に聞こえたのかも含めわからない。
 
気づくと、その若い女性が、お疲れ様でした、
と言ってる。
どうやら施術が終わったらしい。

だが今までの2回と比べると、
まだ眠りの中にいるような感覚だ。
頭がボーっとしている。
 
昨晩遅かったので寝不足だった
からだろうか?と思いながら、
クリニックから帰路につく。
帰宅しても、まだボーっとしている。

とりあえず、ポケットの中に入ってるものを、
仕事机の上に出し、そのままソファに伏した。

次に気づいた時には体を揺すられ、
晴香に声を掛けられていた。
 
晴香「拓也大丈夫?どうしたの、具合悪い?」
まだ、完全には眠りから覚めた感覚がないが、
言葉を返した。
 
拓也「あ、ごめん、おかえりなさい」 
晴香は心配しながら、おでこを触っている。
晴香「熱はないみたいだけど、大丈夫?」
 
私は、体を起こしてから、
今日、クリニックに行ったことを話した。
晴香は冷蔵庫から水を出し、
持ってきてくれ、渡しながら言った。

 晴香「あんまり、怪しいクリニックに
行かないほうがいいよ、
拓也に言うのもおかしいけど。
それに、寝不足なんだよ、拓也。

だから言ったじゃない、朝、
もう少し寝てて。もう今日は休んで。
私はこっちにいるから何かあればすぐ呼んで」
 
そう言って、晴香は私を寝室まで連れてきて、
布団を被せ、私に口づけをして、寝室を出た。
 
(第19話 終わり)次回は6/25(火)投稿予定


★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

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