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小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』6/25(火) 【第20話 三日月に堕ちにて、晴夜に溶けゆく】

翌朝、目が覚めると、頭はスッキリしていた。
やはり、寝不足がたたったのかもしれない。
 
リビングに行くと、晴香がソファに
横たわって寝ていた。
それを見て、しまった、と思った。

まさか本当に気遣って泊まってくれて
いるとは思ってなかったからだ。
 
私の足音に気づいた晴香が目を覚ました。
そして、慌てて私に近づき、言った。

晴香「具合はどう?大丈夫?」私は返した。
拓也「本当に泊まってくれてたなんて
本当に、ごめんなさい。

もうすっかりよくなったよ。晴香が言った
ように寝不足が溜まってたのかもしれない。」
晴香は、それを聞いて安心した表情で言った。
 
晴香「よかった。でも、今日、
病院休んだら?心配だよ」私は返した。

拓也「大丈夫だよ。それより晴香、
今日静岡に帰る日だよね。何時?」

晴香「午後一番の、診察予約だから、
8時には出るつもり」

拓也「そうか、気を付けてね。  
お父さんとお母さんに宜しく
お伝えください。会った事ないけど」
晴香は爆笑した。そして言った。
 
晴香「そんなこと言えるなら大丈夫そうだね。
いつか、うちの両親に会いに来る?
あ、因みにうちのお父さん職人だから怖いよ」 
そう言って再び笑った。
 
その後、私が先に家を出た。その日は、
金曜にしてはそれほど患者は多くなかった。
19時前には、帰宅した。
 
帰宅してすぐ、晴香に電話をした。
診察結果を聞くためだ。
勿論、検査結果はそんなにすぐ出ないから、
詳しいことは来週だとわかってた。

だから晴香の声を聞きたいということが
一番の理由かもしれない。
 
電話すると、すぐ出たが、小声で
「ちょっと、待ってね」と言った。
家族と一緒だったのだろう。
 
15秒後ぐらいに、電話口から、
再び晴香の声が聞こえた。

晴香「あ、ごめん、ごめん。
横にお父さんとお母さん居たから
自分の部屋に移動した。」
拓也「病院はどうだった?」

晴香「詳細な検査結果は、来週にならないと、
わからないみたいだけど、血液検査で、
すぐにわかる項目では思ったほど、
数値は悪くないみたい。

なので、結果出てから最終判断になるけど
とりあえず、静岡に来てすぐ入院はなさそう。
まあわからないけどね。
それより、拓也は、体調大丈夫?」
 
拓也「うん、今日は、患者も
少なかったから早めに帰ったよ。
明日から宮城だし。

まだ少しだけぼーっとする時があるけど、
明日、新幹線の中で寝れば大丈夫でしょう」

晴香「本当に大丈夫なの、拓也?
私が言うのもおかしいんだけど、一度、
病院で診てもらったほうがいいんじゃない?」

拓也「大丈夫、もし、続くようなら、
ちゃんとそうするから。」

晴香「拓也さあ、患者さんのために
頑張ってる拓也は大好きだけど、
かと言って、拓也が体を壊したら私悲しいよ。
恋人を泣かせるような事しないでよ」
その時、後ろで子供の声がした
 
「え、晴香おばちゃん、今、電話で
恋人って、言わなかった?
ねえねえ、おばあちゃーん、
晴香が恋人と電話してるみたいだよー」

その声に続いて、晴香の
「こら!葵!あんた、何言ってるの!」
という声が聞こえた。
そして電話口で、晴香が言った。
 
晴香「ちくしょう、うちの兄貴の娘、
小3なんだけど、ませてて。」
私は苦笑いしながら、言った。

拓也「大変だね、なんか。
まあ結果がよさそうでよかったよ。
折角の親子水入らずの時間を邪魔しないよう、
このへんにしとくね。また電話するよ。」

もう少し声を聞きたかったが
そう言って早めに電話を切った。
 
翌日からの宮城の学会出張は2日間だが、  
2日目、日曜は14時には終わった。
そこから仙台駅に移動して新幹線に乗り
自宅に帰ったのは18時前だった。

晴香は昨日のうちに東京に戻ってるので、
今日は部屋に来ているはずだ。
 
そう思い自宅の玄関を開けると靴がなかった。
ただ鞄はソファにあったので、
来てたことには間違いない。

近所のコンビニか、スーパーにでも、
買い物に行っているのか?   

あるいは自分の部屋に忘れ物でも
取りに行ってるのか?

などと思ったが、ふと仕事机の
ノートパソコンが開いていることに気づいた。

そして、その横に私が置きっぱなしにしてた、
クレストムーンクリニックのカードがあった。
直観的に嫌な予感がした。
 
パソコンを立ち上げ、検索履歴を見てみると、
クレストムーンクリニックの検索が続いてた。
そして、そのサイトの口コミを見て、
血の気が引いた。

晴香は私の体を心配し、何気なく検索したら、
この情報にたどり着いた、、
だとしたら、彼女が取る行動は?

晴香の電話にかけたがコールにすらならない。
 
私は、慌てて家を出た。そして、
晴香が向かったはずと予想している、
クリニックの前まで来た

ふと、見上げると、夜空には、
下弦の三日月が浮かんでいた。

雲一つない晴夜だった。
 
 
(第一章『三日月に堕ちにて、晴夜に溶けゆく』 終わり)


*次回は6/27(木)は、第一章を振り返るコラムになります。
*小説、第二章『弦月に堕ちにて、茫洋と溶け行く』は7/4(木) 21話「Second Life」から再開予定です。

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

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