小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』10/7(月) 【第59話 再会】
【第59話 再会】
翌朝目覚めると父からのLINE通知が来ていた。
夜中の2時に、空港近くのホテルに、
チェックインしたという内容だった。
そして明日11時に病院の最寄駅の改札で
待っているというものだった。
今日は父とともに母が入院する病院に行き、
先生と話をする日だ。
スマホを眺めていると横にいる凛が目覚め、
声をかけてきた。
凛「裕奈、おはよう。裕奈、眠れた?」
私は黙って頷くと、凛が「ぎゅー」と言って、
私を抱きしめた。
身支度を終え1階に降りると皆揃っていた。
本当の家族の中にいるみたいに感じる。
10時に翔の家を出た。駅までは、
翔が一緒に、行ってくれた。
翔は私がホームに上がるまで、改札の外から
手を振りながら見送ってくれた。
11時前、父と待ち合せしている改札に着いた。
父の顔がわかるか不安だったが、
改札前には既に父らしき人物が立っていた。
幸いにして、それくらいの年齢の男性は
他には居なかったのですぐにわかった。
父に会ったのは、実に小学校以来であるが、
イメージは変わっていなかった。
足早に近づく私に、すぐ父も気づき、
小さく手を振った。
もし母の病気のことがなかったとしたならば、
第一声は何と、声をかけようか?
と迷っていたかもしれないが、
それもなく、声をかけた。
裕奈「おまたせ。ありがとう、来てくれて」
父の猛は、頷き言った。
猛「裕奈、おはよう。随分立派になったなぁ。
よかったよ、たまたま飛行機に空きがあって。
ここから、お母さんの病院までは遠いか?」
裕奈「確か、バスで20分ちょっとだったかな。
ただ本数が少ないから。
5分後に出るので、バス停に急ぎましょう。」
猛は頷いた。病院へのバスの中で、
学校のことなどを聞かれた。
少し驚いたのは、父から
「一緒にYouTubeやっている、翔くんも、
同じクラス?」と聞かれたことだ。
裕奈「え?なんで知ってるの、そのこと?」
猛は笑いながら答えた。
猛「裕奈、Googleアカウントを
LINEアカウントと連携させてないか?
だからYouTube開くと、裕奈のチャンネルの
動画が、LINEの連絡先と連動して、
レコメンドで出てきたんだ。
動画、面白いな。あと、翔くん、好青年だし」
自分がYouTubeをやっていることについては、
母にも言っていないので父は尚更知らないと、
思ってたが、既に動画を見られてたと思うと、
少し恥ずかしくなった。
ただ、父が私の演技のことを褒めてくれたり、
何より、翔の編集や、翔自身のことについて、
好きと言われ、何故か誇らしい気持ちだった。
そんな話をしているうちに、あっという間に、
病院のバス停に到着した。
翔のお父さんから、聞いた通り正面ではなく
向かって左側にある救急口に向かった。
インターフォンを押して、名前を伝えると、
「ちょっと待ってくださいね、開けますので」
と返ってきた。
暫くすると曇りガラスの自動ドアが開いた。
そこには女性の看護師が立っていた。
晴香「お持たせしてすみません。
ご案内しますので、こちらへどうぞ」
穏やかな笑顔が印象的な看護師の女性だった。
エレベーターに乗り看護師が3階を押したが、あ、という言葉とともに4階を押し直した。
看護師は笑いながら言った。
晴香「すみません、階を間違えちゃいました。
私、外科の看護師なんですが、外科が3階で。
ちょっと今、内科の看護師が手が離せなくて、
代わりにご案内してます。ごめんなさいね」
4階に着き、先日、話を聞いた
診察室の前まで案内された。
その看護師がドアをノックして、
中に一声かけてから、
「どうぞ」と言い、
中に案内をしてくれた。
勧められた椅子に座ると、そこにいた
医師から説明があった。
先日聞いた内容と同じだ。
とは言え、父に詳しい話はできていないので、
父にとっては、はじめて聞く内容だ。
医師からの、一通りの説明が終わったあと、「何か、質問はありますか?」と尋ねられた。
父の方から
「恐らく彼女の馴染みのある環境で
治療した方がいいと思うのですが、
病院を選ぶ際に留意すべき点はありますか?」
とか、「恐らく手術よりは薬剤治療になると
思いますが、準備する事はありますか?」
などの質問があった。
医師の答えを確認した父が、最後に追加で、
「彼女の事を考えると、生まれ育った山形で、
治療しようかと思うのですが、
受け入れ可能な病院の心あたりは
ありませんか?」と尋ねた。
すると先生が「私の医大時代の1年先輩に、
食道癌の権威がおり、山形の病院にいます。
もし山形での治療をお決めになるのでしたら、
私の方から彼に話をしておきましょうか?」
という言葉が返ってきた。
父は「是非、お願いします。
私、明日以降で山形に行こうと思ってます。
勿論、私の方から連絡しますが、
先生からも、話をして頂けると助かります。
ちなみに、その病院の名前は?」
先生の返事を聞きながら、父はスマホの
メモに病院名と医師の名前を入力した。
父は、お礼を言ってから
「この後、妻に会えますか?」と尋ねた。
医師は勿論と言い、奥に居る看護師に
案内を指示した。
私は、母に父を会わせるべきか?
ということは、密かに迷っていた。
しかし父には迷いはない。
病室に入ると母がベッドで横たわっていた。
心なしか、また痩せてような印象を受ける。
母は父の姿を見ると、かなり驚いていたが、
父は構わず「大丈夫か?」と言った。
その後、お世辞にも盛り上がったとは
言えない会話は続いた。
会話の切れ目で、父が言った。
猛「じゃあ、また来るからな。
お前は、自分のことだけを考えて、
ゆっくりしておいてくれ」
そう言って、2人で病室を出た。
父は病院の外に出てバスを待っている間に、
何本か電話をしていた。
仕事と思われるものと
山形の祖父母へのものだった。
その会話の中で「明日、行きます」
という言葉が聞こえた。
(第59話 終わり) 10/10(木)まで毎日投稿。
次回は明日10/8(水)投稿予定
★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0
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