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小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』9/5(木) 【第44話 待ち伏せ】

その後、クラスメイトの事や、先生の事など、
2人の共通話題で1時間程、話は盛り上がった。
 
後半は、お互いの趣味の話に少し入ったが、
順番待ちのお客さんが徐々に増えてきたのと、
あと1日だがまだテスト中ということもあり、
切り上げることにした。

伝票を持って、レジに向かった。
私が奢ると言ったが、翔は譲らなかった。
そんな翔を見て、言った。
 
裕奈「私が誘ったんだし私が出すよ。
そんなに高いものでもないし」翔は返した。

翔「いや、いいって!ここは、俺が出すから。
また今度、機会あれば俺の話聞いてもらうよ」
そう言い伝票を私から奪いとった翔に向かい、
私は言った。
 
裕奈「オバチャンみたい。じゃあ甘えるけど、
今度、YouTuberになりたい、
って話の続きを、聞かせてよ」

それは、席を立つ前に、翔が話し始めていた
話題だった。会計の順番がまわってきたので、
翔は言葉に返すことなく、頷きだけで返した。
 
次の日の期末テスト最終日は、前日と同様、
午前中でテストが終わった。

明日から短縮授業だ。それほど根をつめて、
テスト勉強をしてはいないが解放感はあった。
 
高校から駅まで歩いているとき、
道の横にある紫陽花が目に留まった。
それを見て、昨日、翔と歩いた
駅までの道のりを思いだした。
 
駅に着いて、ホームにあがると電車が出発する
間際だった。急げば、十分間に合ったのだが、
なんとなくやり過ごした。
そして、ホームに居る人々を見渡した。
 
テストが終わり、最初のほうに教室を出た。
だからクラスメイトの大半は、私よりも
あとのはずだ。次の電車まで20分ある。

高校から、この駅までは歩いて10分程なので
この鉄道を利用する多くのクラスメイト達は、
恐らく次の電車だろうと思った。勿論、
お喋りなどで教室に残る生徒もいるだろうが。
 
私は、ホームにあるベンチに腰をかけている。
改札からホームに上がる階段が見える場所だ。
登り口は2か所あるが、その中央に位置した
このベンチからは、両方の登り口が見える。
 
電車の到着時刻まで5分ほどになったとき、
階段を登ってくる男子生徒が目にとまった。
目にとまったのは風貌が目立つからではなく、
私が、彼を待っていたから気づいたのだろう。
 
彼は、一人だった。彼を待っていたのだから、
近寄って話かければいいのだろうが、
何故か「変な風に、思われたらどうしよう?」
という思いで立ち上がることができなかった。
 
とその時、アナウンスがホームに流れると
同時に、電車が滑り込んできた。
私は到着した電車に引き寄せられてるように、
線が引かれている乗り口まで、足を運んだ。
その時は左手にいる男子から視線を外してた。
 
もう一度、左手を見ると私に気づいた男子が、
軽く手を挙げて、近づいてくるのがわかった。
私は、胸の前で小さく手を振った。
その男子生徒は、翔だった。

その時ドアが開いたので翔は小走りに近づき、
同じドアから、電車に乗った。
電車のドアが、閉まると、翔が話を始めた。
 
翔「櫻井さんも、同じ電車だったんだね」
私は笑いながら返した。
裕奈「同じクラスで同じ最寄り駅なんだから、
一緒になる可能性は、そら、高いよね」
翔は、笑って返した。
 
翔「そら、そうだね。逆に今まで一緒に
ならなかったのが不思議かもしれないね」 
裕奈「でも気づいてなかっただけじゃない?
だって昨日まであんまり喋った事なかったし」
 
翔「そうかな、俺、櫻井さんなら、
もし電車で見かけたら、すぐ気づくけどな」
私は首をかしげる素振りで返した。

裕奈「え?私、そんなに印象に残るような、
変な顔してる?」
翔は首を振りながら、慌てて返した。
 
翔「全然変な顔じゃないって!
いや、むしろ可愛いから、4月の時点で、
俺は、顔をわかっていたよ」
私が、少し間を置いて返した。
 
裕奈「4月から?」その言葉を聞いて、翔が
しまったという表情になりドギマギしている。
私は、翔の反応の意味はわからなかったが、
翔から話かけてくれたので思い切って言った。
 
裕奈「ねえ、谷川くん、このあと予定ある?」 
翔「いや、別にないけど」
裕奈「じゃあ、またランチ、一緒にしない? 
昨日の話の続きも聞きたいし。」
私の言葉に、翔は笑って返した。

翔「いいね。じゃあ、一つ前の駅で降りない?
その駅前のファミレスの方が混まないから、
時間を気にせずに居れるし」
翔の提案に、私は頷いて、いいよ、と言った。
 
一つ前の駅で降りてから、駅前のロータリーを
回り込むと、目当てのファミレスがあった。
従業員に壁際の席を案内された。翔は私に、
壁際をすすめ自分はその前の席についた。
 
昨日もそうだったのだが、
翔は細かい気配りができる人だと思った。
恐らく他の人を常に気遣っているのだろう。
だから4月から私の事を認識してたのだろう
ぐらいに思った。
 
自分は、いつから翔のことを認識してたかを、
思い出してみるが、具体的には思い出せない。
何かの出来事があったわけではないだろう。

そんな回想をしていると、翔が私の分まで、
ドリンクバーも持ってきてくれた。
 
翔が席についたのを待って私が話しかけた。
裕奈「ねえ、ところで、YouTuberになりたい、
って言ってたけど、谷川くんは
チャンネルとか持ってるの?」
 
(第44話 終わり) 次回9/7(土)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

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