デンマーク留学で旧姓利用を貫こうと思ったら想像以上に難しかった話
3月頭に予定通りのスケジュールを終えて、デンマーク留学から帰国しました。なぜデンマークへ留学したかの話については、別記事 2019年9月からデンマークITUで在外研究する話 を参照頂ければ幸いです。
さて先日、選択的夫婦別姓の陳情アクションを行なっている有志の方達の、本当に涙ぐましい努力で、ついに私の自宅がある神奈川県でも選択的夫婦別姓の意見書案が可決されました。
実は、デンマーク渡航前にこちらの陳情アクショングループおよび、神奈川メンバーに入れて頂いていたにも関わらず、留学中は本当に全く余裕がなく幽霊部員になってしまっていました。(メンバーの方、その節は本当に申し訳ありません!)
せめてもの罪滅ぼしに、私自身がデンマーク留学中、旧姓利用を貫こうとしたけど難しかった問題について、こちらに整理しておきたいと思います。
先に結論を述べておきますと、旧姓の通称利用はデンマーク渡航中は不可能でした。
トップの写真は、コペンハーゲンに住民登録する際、ミドルネーム風に旧姓をつけた状態の名前(名前 戸籍姓 旧姓 - 例:Hanako Suzuki Sato)で申請していたのが見事にはねられ戸籍姓のみ(名前 戸籍姓 - 例:Hanako Suzuki)で市民登録された書類です。
役所で戸籍姓しか認めてもらえないのは日本も同じなので、この時点ではあまり問題とは感じていませんでしたが、滞在中はこれが後々ボディブローのように効いてきました。
そもそもなぜ旧姓を利用したいのか
もともと結婚する時に姓が変わることについては、そういうもんだと受け入れていましたし、もう結婚して10年経つので結婚当初より戸籍姓への違和感は少ないです。すでに戸籍姓にも愛着があります。
子どもができてからは子ども関係の付き合いはもっぱら戸籍姓なので、ある意味プライベートでは戸籍姓・仕事では旧姓、と切り分け利用ができて良いかもぐらいに思うようになっていました。慣れって凄いですね。
実際、近年は通販などで、プライベートな買い物と、仕事で必要な買い物では、戸籍姓と旧姓で宛名を使い分けていたくらい、個人的には二つの姓を便利に使いこなしています。
少なくとも日本の生活では多少の不便はありましたが、この留学をする以前は、仕事や研究で海外との関わりは少なかったこともあり、日本独自の「旧姓を通称として利用する方式」に、まぁこんなもんかとその不便さに慣れきっていて、結婚した際の姓を変更する手続きの大変さも、そんなこともあったなと、もうほぼ忘れてかけていたくらいです。
最近、銀行振込などもオンライン振込時に名前を変更できるようになっていますし、お金のやりとりが発生する際も、名前を旧姓に書き換えて送金していました。
それでもなお、旧姓を使って仕事・研究を続けているのは何でだろうと改めて考えてみたところ、私の場合は下記3点に理由が集約されると思います。
1. 戸籍姓もこれまたありふれた苗字で同姓同名が旧姓以上に沢山いるから
2. 濁音が入っている旧姓の方が聞き取りやすいから
3. ずっと使ってきた名前だから
1. と 2. は私の個人的な事情と思いますが、3. は多くの別姓希望者が悩まれていることと同じかなと思います。
1. 同姓同名が旧姓以上にたくさんいるから
私の旧姓は「岡田」で特に珍しくもなんともない苗字ですが、旦那さんの苗字はこれまたありふれた苗字で、旧姓以上に同姓同名の方が存在します。
名前ってアイデンティティなので、同じ名前の人が世の中にたくさんいるのって、ある程度は許容できますが、ある一定以上の量になるとちょっと許容しにくいなと感じます。
IDでもあるはずの名前が使いにくい場面に戸籍姓では良く遭遇します。例えば、病院で同姓同名の人がいることはザラですし、芸能人にも同姓同名の方がいます。誕生日や住所など別の情報を一緒に照合しないと本人確認が難しい場面が多いです。
隠す名前でもないのですが、親しい人しか戸籍姓は知らないので、ここでは敢えて公開しないままにさせてください。
2. 濁音が入っている旧姓の方が聞き取りやすいから
名前って仕事のツールのひとつだと思っていて、聞き取ってもらいやすい・覚えてもらいやすい、って重要なことだと思っています。
戸籍姓でレストランなどに予約を入れると3回に1回くらいの頻度で別の苗字に間違えられます。私の発音が良くないのかもしれませんが、岡田では今までそんなことはありませんでした。
そして、商品名など覚えてもらいやすいネーミングのコツで「゙」濁点を入れるだけで記憶に残りやすくなるという話をどこかで読んだことがあります。誤差かもしれませんが、濁音が入っていない戸籍姓より濁音が入っている旧姓の方が、人に記憶してもらいやすいと感じています。
3. ずっと使ってきた名前だから
なんといっても一番の理由は「ずっと使ってきた名前だから」に尽きます。
学生時代からそして仕事で旧姓で呼ばれ続けてきて、しかも苗字に関連したあだ名で呼ばれることも多かったです。(おかっち、おかちゃん、おかやん、、など)
特に珍しくもなんともない苗字ですが、やはりずっと長年使ってきた苗字なので愛着もありますし、親が画数を考えてつけてくれた名前です。
結婚後も、仕事関係の人(特に社外の人)へ戸籍姓をわざわざ通知して呼び名を変えてもらうのも煩わしいですし、かつて仕事で受賞したデザイン賞なども旧姓で受賞しているので、実際、結婚した時点で仕事に戸籍姓が入り込む隙がなかったように思います。
唯一、特許申請は戸籍姓しか法律で認められていないので、特に海外特許の申請では今まで一度も書いたことのない戸籍姓での英語サインを求められて、それってサインの役割を果たすのかなと疑問に思ったものです。私の場合、あまり特許は重視していないのでそこは割り切って知財担当の方に言われるがままサインをしたのですが、特許がキャリアに直結する方は辛いだろうなと他人事でした。
人事や総務関連の手続きは戸籍姓でしたが、前職ではメールアドレスは旧姓のまま保持できたので、社員証の上に旧姓のシールを貼って(本当はダメらしいですが)やり過ごしていました。私の周囲の既婚女性もだいたいそうしていたように思います。
会社員を辞めてフリーランスになった今も、基本旧姓で仕事をしています。契約書も旧姓で交わして問題ないと知り、旧姓で名前を書き、旧姓の印鑑を押しています。請求書の銀行口座の氏名で初めて戸籍姓がカタカナでバレるくらいで、それについて突っ込まれることも今までありませんでしたし、日本独自の「旧姓を通称として利用する方式」に、きっと日本人は慣れてしまっているのでしょうね。
2018年9月から大学に学び直しで戻りましたが、研究分野が仕事と絡む、そして仕事と研究で共通の知人も多く戸籍姓に変えると連続性がなくなると思い、旧姓で入学することにしました。今の大学はもともと母校でもあるので結婚前から付き合いも深く、先生方にも昔から旧姓で認識されているので今更名前を変更するのも変だなと感じ、大学入学時に旧姓利用届を提出して現在に至ります。(後から知ったのですが、旧姓利用を認めていない大学もあるそうなので、そういう意味では環境に恵まれてラッキーでした!)
とまぁ、色々不便はあるものの、実際日本で生活する分には旧姓の通称利用でなんとかなっていました。
ですので、今回デンマークへ留学が決まってからも、飛行機や VISA だけ戸籍姓で取得しちゃえば、後は日本と同様に旧姓を通称利用して過ごそうと考えていました。が、甘かったです。
旧姓利用を貫こうとしてかかった手間&トラブルの数々
渡航準備やデンマーク滞在中に旧姓利用を貫こうとして遭遇した手間やトラブル、思い出せるだけ思い出してみました。
1. パスポートの旧姓併記申請
2. 留学先の大学から入手する受入れ承認レター
3. VISA(Residence Permit)申請
4. コペンハーゲンでのアパート賃貸契約
5. 海外留学保険の契約
6. コペンハーゲン住民登録 - CPR番号とNemIDの取得
7. 渡航先大学のシステム全般・メールアドレス・学生証
8. 教授から結局あなたの名前は何なの?と聞かれる
9. その他、色々乗り切るための工夫
自分の名前を利用したいだけなのに、研究をスタートさせる前段階のところで、なんでこんな手間隙をかけなくてはならないんでしょうね。
ひとつひとつ、何があったか振り返ってみます。
1. パスポートの旧姓併記申請
まず、海外で身分を証明できるものは基本パスポートだけになるので、旧姓を証明できるものが何もなくなるのは困ると思い、旧姓併記パスポートに切替えました。
まだ7年も有効期限が残っていたので、「記載事項変更申請」を行いました。 記載事項を変更するだけで、6,000円も取られるの解せない。
<必要書類とお金と時間>
・記載事項変更申請書(パスポートセンターで入手)
・戸籍抄本 450円(本籍地が県外なので郵送手続きで更に切手代+82円(当時) x 往復 / 入手までに1週間ほど)
・旧姓の使用実績を確認できる書類(かつて受賞した海外デザイン賞のページを印刷して事足りました)
・旧姓使用証明書(大学から発行してもらいました)
・手数料 6,000円
・証明写真 800円
・申請書の記入&提出に移動時間含めて平日1時間半、受取りは7日後
<合計>
・かかったお金:7,414円
・かかった時間 (戸籍抄本入手から含めると):約2週間
実際は、旧姓併記パスポート作った方のブログを調べたり、パスポートセンターに電話して事前確認するなど、もう少し多くの労力が発生しました。
旧姓使用証明書の発行では、その書類準備&郵送のため、大学側にも手間をかけさせています。
幸運にも自宅から徒歩圏内にパスポートセンターがあったので、移動時間はかなり効率化できていますが、もし電車で行く距離にパスポートセンターがあったら、申請だけで半日・受取りだけで半日、と更に時間が取られていたかもしれません。
パスポートに旧姓併記をすることで逆にトラブルの元になることもある、という話も聞きましたし、実際申請する際に窓口の人にも「渡航先でトラブルになっているケースがあるのであまりお勧めしませんが、それでも併記しますか」と念押しされました。
ちなみに、海外で旧姓を証明できる身分証を増やしておきたいと思って、国際免許証の取得時にカッコ書きで旧姓を入れられるかダメ元で確認しましたが、こちらは不可能とのことでした。
国際学生証は旧姓を含めたミドルネーム風表記で入手できました。こちらは申請が緩かったので、おそらく旧姓のみの表記でも受け付けてくれたと思いますが、パスポートと表記を合わせることを優先しました。
2. 留学先の大学から入手する受入れ承認レター
VISA(デンマークの場合 VISA ではなく Residence Permit が正しいのですがここでは分かりやすさを優先して VISA と呼びます)を取得するために、受入れ先大学からの正式な Letter が必要です。
VISA は戸籍姓でないと受け付けられないため、Letter も戸籍姓の方が確実&その方が早く VISA が降りるだろうと思い、デンマークの大学側には、仕事・研究は岡田でしているが Letter は戸籍姓で出して欲しいことを、日本の状況(夫婦別姓が認められていないため、女性が旧姓を通称利用して仕事しているケースが多いこと)と旧姓パスポートのコピーも示して説明します。もちろん英語で。精神的には日本語で説明するより3倍くらいの労力がかかっています。
ちょうど私と同じタイミングで、旧姓での留学準備をされていて同じ悩みを抱えていた @mizukiharikiri さんのツイートが河野大臣を動かし、私がデンマーク側とこのやりとりをしていた、まさになタイミングで旧姓併記パスポートの説明が公式に外務省からアナウンスされるという奇跡が起こりました!(ちゃんと英語もある!)
@mizukiharikiri さんのツイートが6月3日のことで、河野大臣が対応を指示したのが6月4日、そして外務省から旧姓を含む別名併記パスポートの説明が公式に出されたのが6月21日のこと。
ありがたすぎる!と思いながら、すでに説明のために送っていたメールに重ねて、この外務省公式のページを添えました。これで無事に戸籍姓での Letter を貰うことができる、、、。
そう思った矢先、このやりとりをしていた時期はちょうどヨーロッパのバカンス時期の直前だったのですね。やりとりをしていた教授が突然バカンスで2週間いなくなり、メールが途絶えました。
頭が真っ白になりました。
単身で留学する方のブログなどで、VISA 発給が渡航日までに間に合わなくても最初は観光 VISA で現地入りし、渡航後に滞在 VISA に切り替えるといったやり方も拝見したのですが、デンマーク子連れ留学奮闘記 で書いている通り私は子連れで留学予定でしたので、VISA は私のだけでなく娘の分も必要で、娘の帯同家族用 VISA は私のより発給に時間がかかることは目に見えていました。(実際私のより1ヶ月遅れで発給されましたし、用意する書類も多く自分のより準備が大変でした。)
デンマークの幼稚園に日本から問合せても、CPR と呼ばれる住民番号がないとそもそも幼稚園の待機リストにすら入れてもらえない状態だったので、できるだけ早く渡航前に VISA を取って、現地到着後すぐに住民登録できる状態にしないといけない、とそれはそれは焦っていました。
結局、教授がバカンス中は別の方が対応をしてくれることになったのですが、この時にデンマークのたらい回しの文化を思い知ることになります。
教授がバカンス中に担当を変わってもらった事務のAさんに、改めて戸籍姓で Letter が欲しいことを説明して発行してもらった Letter は、こちらが想定していた留学期間より1ヶ月少ないものだったので、期間修正のお願いをしました。
そしてまた、その最中に事務のAさんがバカンスへ突入orz
事務のAさんからバトンタッチされた事務Bさんに、また同じことを説明し Letter 発行をお願いし、ようやく Letter をゲット!できました。同時に、VISA 手続きの最初は受け入れ側の大学にオンラインのフォームを埋めてもらう必要があり、やっと VISA 申請の一歩を踏めました。
で、おそらくこの時点でデンマーク側は、この旧姓や戸籍姓にまつわる話をちゃんと理解できていなく(そりゃそうだ)、しかも担当者も変わってしまったおかげで、私の大学での名前が全て戸籍姓で登録されてしまっていることに、渡航後気づくことになります。(詳細は後述)
とにかく、この姓にまつわるお願いを挟まなければ、教授がバカンス入る前に Letter を貰えていたかもしれず、大変だった家探しと幼稚園探しがもっとスムーズに早くできていたかもしれない、と今でも思わずにいられません。
3. VISA(Residence Permit)申請
VISA の申請に関しては、はなから旧姓の利用は難しいことは理解していたので 戸籍姓のみで申請しました。ありがたいことに旧姓を入力するフォームもあったので入力しておきましたが、おそらく単なる確認用でその入力した旧姓はこれ以降どの場面でも反映されることはありませんでした。
日本の大学の留学許可証は旧姓のみでの表記でしたが、この旧姓確認フォームのおかげか、旧姓併記パスポートのおかげか、もしくは資料の細部まできちんと確認していないのか、(個人的には一番最後の理由を疑っています、苦笑)特にトラブルなく申請できました。
申請自体は指紋登録以外は全てオンラインででき(さすがデンマーク!)、大学から Letter を入手した後は時間はかかりましたがスムーズに申請できました。そして、皮肉にも電子化が進んでいたこのデンマークのシステムのおかげで、行政どころか大学でも旧姓を通称利用できる隙が全くありませんでした。(詳細は後述)
帯同する娘の VISA 申請書類を準備するのがこれまた大変だったのですが、姓の話とはまた違う話なので、それはまた別の記事で書きたいと思います。
4. コペンハーゲンでのアパート賃貸契約
大学から Letter を貰うのと、VISA 申請の手続きと並行して、デンマークの家探しに奮闘していました。家探しが大変だった話もまた別記事でまとめたいと思っていますが、結果的に Facebook を通じてアパートを借りることができました。(デンマークではオンラインサービスやSNSで家を探すのが普通です)
Facebook を通じて大家さんと知り合っていた私は、ここで Facebook の私の表記名が旧姓であることに気付きます。私の Facebook は最近仕事用のチャットツールとしても大活躍しているので、今更、戸籍姓に変更するつもりはありません。
デンマークでは、家の広さに応じて何人住民登録できるかが決められていて、自ずと住居と住民登録が結びつくので、名前が一緒でないと整合がとれないなと悩みました。ずっと Okada で名乗っていたのにいきなり別の名前で名乗られても困るよなぁと。
そこで悩んだ末、ミドルネーム的に旧姓をつけた状態の名前(名前 戸籍姓 旧姓 - 例:Hanako Suzuki Sato)で契約書を起こしてもらい、サインはパスポートに習って漢字の戸籍姓でと割り切りました。
(ちなみに直筆サインは、Adobe Acrobat のサイン機能を活用しました。便利!日本でも早くこの Acrobat のサイン機能が活用できる場面が広がればいいのにと思います。)
この住宅賃貸契約書の他にも、前述した Letter を発行してもらうため、そして VISA 手続きを進めてもらうため、など直筆のサインが必要だった書類は全て、その文書内の名前部分が旧姓でも戸籍姓でも、戸籍姓と旧姓を連結させたミドルネーム式でも、相手はどうせ漢字を読めない・単なる記号と割り切り、もし何かトラブルが合ってもパスポートのサインと照合すれば済むようにサインは漢字の戸籍姓で通し続けました。
英語の綴りと異なる漢字サインをし続けるのって地味にストレスで、後から、実はパスポートもクレジットカードもサインはなんでも良いらしいと知るのですが、もう10年以上前に結婚時に変更したパスポートの漢字サインを今更変える気にはなれませんでしたし、漢字サインを今更旧姓に戻したところで、様々な文書に戸籍姓と旧姓が混ざるのは変わらないので、この地味なストレスは戸籍姓と旧姓があり続ける以上、開放されない悩みなのだろうと思います。
5. 海外留学保険の契約
留学時に大学経由で加入する留学保険があるのですが、日本の大学は前述の通りずっと旧姓で通しているため、保険契約の申込書が旧姓で記載された状態で届きました。多分日本国内のみ有効の契約であれば、そのままサインして提出してしまっていたと思うのですが、海外なので念のため保険会社に電話しました。
案の定、保険会社の方は旧姓利用者の契約ケースは初めてとのこと。最初は原則戸籍姓でないと契約できないと言われましたが、パスポートにも旧姓を併記している旨を伝えると、社内で検討して折り返しますとのことで、数日後に折り返し電話がかかってきました。
旧姓併記のパスポートは、パスポートの表記とパスポートのICチップに入っている情報が違います。パスポートの表記は旧姓がカッコ表記で「例:Hanako Suzuki (Sato)」と入るのですが、ICチップの中には戸籍姓のみしか入っていないので「例:Hanako Suzuki」となっています。
最終的に保険会社の判断としては、もし海外で保険証券とパスポートを照合されることがあったとしても、ICチップを読み取って確認することはないためパスポート表記が優先されるとの判断になり、パスポートの表記と同じカッコ表記で旧姓を入れた氏名で契約することになりました。
<かかった時間>
・保険会社に電話して確認する時間:5分05秒(iPhoneの履歴より)
・保険会社から折り返しの電話がかかってくるまでの時間:2日
・保険会社から申込書を送り直してもらう時間:(確か)2日
ひとつひとつの確認にかかる時間や手間は本当に些細なものなのですが、こういった確認がいちいち面倒ですし、チリも積もればで時間を圧迫していきます。保険会社の人にも打ち合わせや検討に時間を割かせてしまいましたし、書類の作り直しと郵送し直しでコストを発生させてしまいました。
6. コペンハーゲン住民登録 - CPR番号とNemIDの取得
デンマークでは、住民登録すると CPR と呼ばれる国民識別番号が発行されます。日本のマイナンバーみたいなもので、これがないと何もできません。病院にも行けないですし、銀行口座も開けませんし、幼稚園の待機リストにも入れてもらえませんでした。
VISA 取得後、この CPR を申し込めるようになるのですが、この申し込み時に、いちるの望みを託して、ミドルネーム的に旧姓をつけた状態の名前(名前 戸籍姓 旧姓 - 例:Hanako Suzuki Sato)で申請をしてみました。
ですが、電子化されたデンマーク、基本 VISA 申請時の情報がそのまま受け継がれるらしく、在留カードと健康保険証を受け取った時には、見事に旧姓は弾かれていました。
そして、あらゆる行政システムや銀行口座などを一元化したIDでログインできる便利な NemID という仕組みがあるのですが(デンマーク語で Nem は簡単という意味だそうです)、これももちろん行政システムと連動しているので、戸籍姓になっています。
ここまでは、日本でも行政関係は全て戸籍姓しか取り扱っていないですし仕方ないで済む話だったのですが、この電子化されたデンマークの行政システムが、大学のシステムとも連携していたことが問題でした。
7. 渡航先大学のシステム全般・メールアドレス・学生証
私が滞在したデンマークの大学では、大学のシステムと上記で説明した NemID が連携しており、メールアドレスやら学生証やら色々申請するのに、NemID でのログインが必要でした。(後から知りましたが、デンマークに留学する学生は NemID を取得しないまま過ごす人も多いとのことなので、先生達と同様に様々な設備やシステムが利用できる権限が与えられていた PhD 学生としての留学だったため、NemID が必要だったのかなと予想します。)
渡航後生活を整え、ようやく大学関係の環境設定を完了し、やっと研究を進められるとホッとしたのも束の間、大学のシステム上に表示される名前、メールアドレス、学生証、全て戸籍姓で発行されており、その事実に気づいた時は、渡航前あんなに説明した苦労はどこに消えたんだ!と軽くめまいを覚えました。
Letter をもらう際と、VISA 申請する際の手続きでたらい回しにされた結果、私の旧姓事情を知らない方が事務手続きを行い、かつ NemID の登録は戸籍姓で行われているので、ログインシステム的にはなんら問題なくむしろ戸籍姓の方がスムーズなんですよね。
この後、戸籍姓のみでは私の研究領域では誰も私を私と認識できないので、先生達との混乱を避けるためにも、システム上の名前を旧姓に変更して欲しい旨を相談しに行きますが、この際も、顔見知りの事務の方に相談メール→別の事務の方に回される→システムサポートへ案内され、同じ説明を3人の方にするため半日がつぶれました。(もちろん英語なので個人的な精神的負荷も日本語の3倍)
ちなみに、この時期の私にとっての半日というのは、娘をシッターさんに預けている中での、本当に本当にひとり時間が貴重な中での半日だったので(しかもシッターさんによっては安くない時給をお支払いして頼んでいたので)、研究を進めるスタート地点に立つ前のこういった細かな雑用に、しかも日本人同志の既婚者かつ姓を変更している側だからこそ遭遇しているこの特殊なトラブルに、相当な苛立ちを抱えていました。
1日検討して頂いた結果、結局以下の対応となりました。
・法的な名前は消せないので旧姓は戸籍姓の後ろに添えるだけ(つまりミドルネーム式表記 → 例:Hanako Suzuki Sato)
・すでに発行されてしまったメールアドレスは変更不可
・学生証はミドルネーム式表記で再発行
というわけで、色々手間暇がかかったにも関わらず、結局デンマークの大学では旧姓のみの通称利用は不可能でした。
(名前表記をミドルネーム式に再発行してもらった学生証。PhD学生として受け入れだったので、正確には学生証ではなく教員・スタッフと同じ権限のあるスタッフカードの扱いです。)
私の場合は交換留学だったので卒業証書をデンマークでもらうことはなく、日常会話ではファーストネームで呼ばれることがメインなので、もうこれでいいやと諦めもつきましたが、卒業証書や学位をもし旧姓でもらいたいとうことであれば、また更なる交渉が必要だったのだろうと思いますし、行政と大学のシステムが結びついている限り、旧姓のみでの発行はおそらく難しいだろうと思いました。
8. 教授から結局あなたの名前は何なの?と聞かれる
個人的にはこれが一番堪えた出来事だったのですが、受け入れてもらった教授から「結局あなたの正しい名前は何なの?」と聞かれた時に、渡航前も渡航後もこちらとしては一生懸命説明したことが、結局理解してもらえていないんだな、ということに途方もない無力感を覚えました。
日本では、役所関係は戸籍姓で、それ以外の仕事や研究は旧姓で、とサインや印鑑を使い分けるのに慣れきっていましたし、もし何か言われたとしても「旧姓なんで」の一言で理解されると思いますが、海外にでて初めて旧姓って本当にただのお飾りなんだな、と思い知らされたのでした。
幸運にも、このデンマーク滞在中に私は旧姓を利用することでの深刻なトラブルには遭遇しませんでしたが、これら地味なストレスや手間、姓にまつわるどうしたらいいんだろうという悩みが一切発生しない方が本当に羨ましいと思いました。
ちなみにデンマークでは結婚すると、1981年の法改正以降、
1) 旧姓のまま
2) 相手の姓に変更
3) 新しく姓を創る(夫婦の複合性にする方が多そう)
の3パターンから自由に姓を選択できるそうです。デンマークではすでに40年近く、人々が姓にまつわる悩みから開放されている生活を送っていると考えると、日本人が夫婦別姓で悩んでいることについて実感を伴って共感・理解してもらうのは、正直難しいだろうなとも思いました。
少し強引な例えになりますが、パソコンがない時代にどうやって仕事を進めていたのかって、実際にその時代を知らない人にはあまり想像がつきませんよね。メールの代わりに回覧板や郵送などで連絡を取り合っていたのかな、と方法は思いつくものの、詳細な仕事フローは私には正直イメージできません。その時代に仕事をしていた方も、おそらくもうパソコンがない時代のやり方で仕事をしろと言われても既に難しいのではないでしょうか。
他国ではイメージすることすらもう難しくなっている不便な仕組みが、未だ日本には残っているって相当悔しいことだなと思います。
9. その他、色々乗り切るための工夫
その他、旧姓を仕事・研究で利用するためにデンマーク渡航前から、そして渡航中に続けていた工夫を少し整理しておきます。
9-1. メールアドレスの氏名表記はどちらの姓も入れる
仕事でもプライベートでも現在メインで使っているメールアドレスは Gmail なのですが、デンマーク渡航以前から旧姓でも戸籍姓でもやりとりすることがあり完全に切り分けられないので、苦肉の作でどちらの姓も入れた名前表記にしています。
本心としては、片方の姓でやりとりしている方にはもう片方の姓はお伝えしたくないんですけどね。
9-2. 渡航中は基本、戸籍姓・旧姓ともに名乗る
デンマーク滞在中は、自分自身もどこで何と名乗ったか混乱するのを防ぐため、かつトラブルがあった際に目視で説明ができるように、パスポートと表記を揃えて基本ミドルネーム風に戸籍姓・旧姓を続けた綴りで名乗るようにしていました。(完全に揃えるとカッコがついちゃうのですが、カッコは名前欄でエラーが出ること多し・不思議な顔されること多々のため、カッコは除いています)
ただし、パスポートやビザの情報と確実に連携すると思われるデジタルな申請のみ戸籍姓のみで通し、人が目視でチェックするようなアナログな申請はミドルネーム風に旧姓併記をした綴りで名乗るようにしました。
旧姓だけで名乗るのは、日本人の方が相手のシーン、もしくは大学のツテやシステムを使わない調査やインタビュー、ほかプライベートなシーン、に限定されました。
最後に
もともとは、日本で旧姓の通称利用でなんとかなる生活を送っていましたが、海外が絡むと旧姓の通称利用は完全に詰む、という体験をしました。旧姓は通称利用で十分、と思っている方には今一度この事実を知って頂き、ご理解を頂ければと思います。
コエリ こと 岡田恵利子
追記) 応援・サポートのお願い
全国の有志で成り立っている、選択的夫婦別姓の陳情アクション活動、誰でも参加できますので、興味ある方は覗いてみてください!(私は幽霊部員になってしまっているのでこの記事をきっかけにまた活動復帰したいですが、本当にたくさん素敵な方が所属していらっしゃいます)
活動に参加するのは難しいけれど、応援したい!と思われる方は、クラウドファンディングで是非金銭的なサポートをお願いします!(2020.4.17 まで実施中)
Instagram でも情報発信中!
幽霊部員ですが、宣伝でした。
追記その2) インタビューをして頂きました! 2020.4.15
選択的夫婦別姓・陳情アクションのメンバーの方にインタビューして頂き、その内容が記事になりました!
追記その3) 取材して頂きました! 2021.3.22
選択的夫婦別姓の議論が国会でなかなか進まないので、2021年から川崎市議会に向けて陳情活動を始めることにしました。
■ 東京新聞 2021.1.21
■ タウンニュース 川崎区・幸区版 2021.1.22
■ 神奈川新聞 2021.2.2
■ 朝日新聞 withnews 2021.10.14
以上
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