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素晴らしい日本語は何気ないところに転がっているんだ

挨拶

年の瀬ですね、こんばんは。
いつものように夜型の、シーラカンスの妖怪です。
まあこの年も色々とコロナなんかがありまして。だけど記憶は曖昧でnoteなんかを見返して。
そしたらネタを思い出し、書いてしまえと書きました。

お借りしましたお写真はヤリイカだって。綺麗だね。

突然にやってくるのは磯辺揚げ

みんなこの冷凍食品知ってる?

とあるきっかけで、僕は初めて知りました。美味しかった。
で、商品名を声に出して読んでいただきたいんですよ。

あらぎり いかの いそべあげ

うん!きれいな日本語だと思いません?もう1回!

あらぎり いかの いそべあげ

綺麗ですね!僕はパッケージを10分くらい眺めてしまいました。
綺麗じゃない?
ならば、どうして「僕が」綺麗に思ったかを話していきましょう。

どうしてこの名前が綺麗なのか

僕は音韻学を全然わかっちゃいませんので、感性に従って適当に話しますね。

七五調だから

あらぎりいかの/いそべあげ で区切ると、ちゃんと七五調になっているのがわかります。
七五調は7音節と5音節を数珠つなぎにしていく形式で、「祇園精舎の鐘の声」で始まる平家物語が有名です。
ちなみにさっきの挨拶が七五調です。一箇所字余りだけど最近の傾向として「です」は「でs」と一音節にまとまるから許して。

最初が「あ」、途中が「い」、最後に「あ」

な〜〜〜にいってるんだこいつ!とお思いかもしれませんので、詳しく説明していきましょう。

「あらぎりいかのいそべあげ」の強拍はきっと「らぎりいかのそべあ」だと思います、地域によるけど。特に真ん中のは弱いアクセントに成ると思います。
(そもそも日本語は強弱(アクセント)よりも高低(イントネーション)を使いますが、この場合は七五調にノッて読み始めたときの強拍を指していきたいと思います)
UTAUでオンゲントロをしたことがあるなど、日常的に音声波形を見ていたり、V受肉をしようと3Dモデルの表情調整をしたことがある人だとすんなりわかると思いますが、「あ」「え」「お」は音量と口の開け方が大きめで、「い」「う」は小さめです。ほんと?と思ったらやってみよう!

まどろっこしい!暴力になる前に具体的に

発声がしっかりする語頭が、音素的にも強い「あ」
その次が「ら」で口の開け方を小さくしつつも抜けの良いあ段を維持。
「ぎり」はどちらもい段。とくに「り」はら行なので音と舌が小さくまとまりがちだ。
「いかの」は語のまとまり的にちょっとだけ強くなった「い」(当然い段)とそのあとに続く弱い「か」=あ段の音がグッドな音量バランス。「の」はイントネーション的に全体で最低に成る。お段なのも「あいうえお」と言えば分かる通り(お、を跳ね上げて言う人は元気だね)喉仏が下に落ちて音高を下げやすい。曲でいうと終止だ。

前半は竜頭蛇尾な様子の音声波形だろう。

「いそ」弱アクセントの「い」が、このセンテンスがまだ続くことを教えてくれる。イントネーションとしても右肩上がりでこの後になにか続くのだろうという予測がつく。ここの「そ」は口の開け方が小さいはず。英語だと"sun"の"su"と書きたくなる。
イントネーションとしては「げ」と同じ(か、少しだけ低い)音程に成るだろう「べ」。「げ」とは同じえ段なのもあってBメロのようなものだ。ここで次の「あ」に向けて準備が整う。
「あげ」元気に言わなければ音高変化は「そべ」と相同だろう。音量的には後半のピークだ、「げ」を元気に言いたくなるくらいには。なぜそこまで「げ」が元気になるかといえば「あ」で既に口を大きく開けているからだ。

後半も含めて考えると音量音高共にV字回復を見せている。「あらぎり」「いかの」「いそべあげ」それぞれを単体で切り出せばそんなに綺麗ではないと感じるが、まとめたときのフローには目を瞠るものがある。

なんとなくわかった?わかったなら重畳、わからないならそれでも結構。

遊んでみよう

面白い言葉があるなら遊びたくなるのが詩人の性だって多分誰かが言ってるだろうから、遊びます。

俳句・短歌にしよう

烏賊は季語的になんだそうです。三夏っていうのは三ヶ月の夏ってことだそうです。それはそうだね。今の季節?さあ……夏では?師走だけど。

烏賊単体では季語にならない!という意見も見かけましたが金子兜太が烏賊単体で使っているので無視の方向性で行きましょう。文句は金子兜太先生にお願いします。もう亡くなってるけど。

7と5があるので最初の5を補えば俳句になります。季語もあってばっちりですね。
ここで僕は枕詞を使おうと「あら」にかかる言葉を一生懸命探したのですが……ないものは!ない!ありませんでした。枕詞があれば楽できたのに
なのでみんなも自力で考えようね。

短歌にしたい人は下の句も考えれば短歌になります。本歌取りといって有名な歌から引っ張ってくるのもいいかもしれない。変な歌に引っ張られる方はたまったものではない

僕も考えたけども枕詞とクリスマスに引っ張られて

枕元にあらぎりいかの磯辺揚げ 置き配ミスだ冷凍しとけ

になってしまったので、関係者各位にはお詫び申し上げます。
……せめてプレゼント箱にドライアイスを入れてほしい、演出的にも玉手箱らしくなって良いと思うなァ。

平家物語に入れよう

せっかく七五調の名詞なんだから、最初のところに入れたってばれないよ、たぶん。

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。
粗切烏賊の磯辺揚、盛者必衰の理をあらはす。

平家物語?

これはひどい!むりだよ。どうして食い物が盛者必衰の理を表しているんだ。ギフト的に消え物だから?そうだな……本当にそうか?

この後続く中国の王朝シリーズ、日本の武将シリーズの列挙は、音節数的に合わないのだった。残念。

都で流行らせてみよう

二条河原落書って知ってる?この頃都に流行るもの〜ってな。七五調と八五調で書かれたユーモラスな風刺の立て看板です。
これに混ぜて建武の新政期の都で流行らせてみましょう。都でバズれ!

此頃都ニハヤル物 夜討 強盗 謀(にせ)綸旨
召人 早馬 虚騒動(そらさわぎ)
生頸 還俗 自由(まま)出家
俄大名 迷者
安堵 恩賞 虚軍(そらいくさ)
粗切 烏賊ノ 磯辺揚ゲ
本領ハナルヽ訴訟人 文書入タル細葛(ほそつづら)
追従(ついしょう) 讒人(ざんにん) 禅律僧 下克上スル成出者(なりづもの)

二条河原落書?

行けそう!
他のトレンドがみんな物騒だけど、それは最初だけで、後ろの方になると着物だ田楽だ茶寄合だ、なんていうのもあるから、食い物が流行ったって構うまい。

そもそも"あらぎりいか"って聞いたことある?

結構遊んだので話を戻そう。

そもそも「あらぎりいか」という言葉、聞いたことあるだろうか。胸に手を当ててよく考えてほしい。
ないはずだ。
……ある?それはどこで見たのか教えてほしいな。

あらぎりってなんだ

あらぎりでググると大量の「あらぎりわさび」に出くわすと思う。
ネスレによれば、あらぎりは「野菜を」「乱切りより大まか」で「肉や魚のぶつ切り」のように切ること、らしい。

どちらも、烏賊には決して関係ない。
肉魚カテゴリである烏賊は「ぶつ切り」のはずだ。

じゃあここで「あらぎり」を採用したのはなぜか?
それは、店側のこだわりだと思う。

単刀直入に言えば「あらぎりいか」ってなんだよ!と思わせることで、購入者の興味を引くことができるんじゃないか。とね。

只事じゃないパッケージ

文字組みが良い。
これに尽きる。

強拍の語頭「あ」のサイズが最大なんですね。「あらぎり」をでっかく出して、中心線を歪にして、字間を詰めて、イカの絵をおいて。視覚面でも「あらぎりってなんだよ!」を強く意識させようとしている気がします。

「いかの磯辺揚げ」は非常におとなしいです、そりゃまあ、結構あるだろうからね。しかし「いかの」は縦の位置としてもしっかり内側に収めて、全体がまとまっている。

左上の大胆な余白も、強い。上の方のスペースは「あ」のためだけに存在していますよ。
烏賊を背景の模様と同じ緑で塗っちゃうのも、普通はできないことです。

……ちょっと凝り過ぎじゃない?

終わりに

といっても、まとめることもなにもないので正直このまま解散にしたい。
が、それじゃあ寝覚めが悪いからちょっとだけ書こう。

日常で「きれいな言葉だな」「良いフレーズだ」と思う瞬間は突然やってくることがほとんどだ。それをアイデアが降ってくるという人もいれば言葉に出会うという人もいる[要出典]。あらゆる言葉は誰かの脳みそかそれに類するものから生まれてくるものだけど、たまに手元の狂いが功名になることもある。そんなときにふと立ち止まって、綺麗だと思わなくてもいいので心に留めておくと、そのうちオヤジギャグダジャレ大寒波シベリア永久凍土脳になるので、ほどほどにね。

良いお年を。

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