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#10. 小児期逆境的体験

うちの病院の院内報に毎月書いているコラム“Pediatrics Note”です(800字前後)。診療をしていて感じる、とりとめもないことを書いています。
今回は過去号をアップします。2021年の9月号です。

学校で頻繁にトラブルを起こす女の子がいました。小学校高学年でしたが、夜尿や肥満がありました。診察中、お母さんは熱心に女の子が起こした出来事について話し、医師は注意欠如多動症と診断して薬の処方を始めました。しばらくすると行動は落ち着きましたが、良い時も悪い時もあり、落ち着いた生活を送ることが困難でした。ある日、医師が「今の生活で学校やお家の中に頼れる人はいる?」と聞くと、女の子は首を横に振りました。

医師は初めて女の子が生活する境遇に気づきました。

小児期逆境的体験(Adversed Childhood Experiences)をご存知ですか。

18歳未満に遭遇した心的外傷を引き起こす可能性のある出来事で、身体的・心理的・性的虐待、ネグレクト行為などが挙げられます。米国からの研究でACEが様々な認知発達領域に悪影響を及ぼし、その後、様々なリスクを高めることがわかりました。

例えば、うつ病、境界性パーソナリティ障害などの精神疾患や学習障害、多動、衝動などの発達障害。また、ACEは職場での常習的欠勤、金銭トラブル、生涯収入の低さと相関し、アルコール依存やDVを行うリスクを上げ、喫煙、肥満、意図しない妊娠、複数相手との性交渉、性感染症、レイプ被害のリスクを上げます。さらに虚血性心疾患、慢性閉塞性肺疾患、肝臓病などの身体疾患のリスクも上げると言われています。

ACEを受けた子が親になり、再び我が子にACEを加え、負の連鎖が続く。そんな光景を見た事はありませんか。対応に苦慮する患者さんやそのご家族の背景にACEがある可能性を考えてみてください。

対応で気をつけたい点を一つ。食べること、酒を飲むこと、人にあたることが短期的な解決法となっていることが多く、それらをやめることが真の解決に繋がる訳ではないこともあります。どうすれば良いか。。。今の私にできるお答えは、「安心して過ごせる安全な環境、関係を提供する」です。上記の女の子に必要なのは、頼れる大人、落ち着ける居場所なのです。


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