見出し画像

#11. ベンジャミン・バトン

うちの病院の院内報に毎月書いているコラム“Pediatrics Note”です(800字前後)。診療をしていて感じる、とりとめもないことを書いています。
今回は過去号をアップします。2021年の10月号です。

ベンジャミン・バトンをご存知ですか。80歳で生まれ、若返っていった男の話です。先日外来であるお母さんから話を聞きながら、ふと思い出して想像に耽ってしまいました(診察中なのに!)。今回はその報告です。

診察室に来た男の子は保育園の年中組に通っています。マイペースな子で一人遊びが大好き。友達に邪魔をされると怒ってしまいます。時に手が出てしまうため、相談に来られました。診察室の彼は大好きな恐竜の話をして、楽しく遊んで帰りました。

彼が今より若い頃はもっとマイペースで、言葉で気持ちを伝えられず、些細なことで癇癪を起こし、環境の変化を察知しては泣いていました。

さらに若くてハイハイをしていた頃、夜の寝つきが悪く、偏食で離乳食を食べられませんでした。

彼は自閉スペクトラム症という神経発達症に当てはまる子でしたが、徐々に周りに順応し、成長しています。一般的に私たちは、社会に順応することを良い成長と考えます。

さて、もしもヒトがみんなベンジャミンだったらどうでしょう。想像してみて下さい。生まれてすぐから、子どもたちは周りに合わせることに注意を払いつつ、新生児室に並んでいます。その輪から出ようとする子もいますが、そういう子を喜んで注意する子がいます。


A Common Scold

保育園では多くの子が綺麗に並んで椅子に座り、同じことをしています。成長するにつれて、子どもたちは組織に組み込まれず、興味あることに熱中し、発想を働かせて自由に走り回る大人になっていきます。そんな大人の口ぐせは「なんでみんなに合わせるの?」「自由な発想ができない子ね!」でしょう。順応することを拒む世界です。

ただの妄想ですが、いまを生きている子どもたちの世界を想像しやすくなるような気がしませんか(私だけでしょうか)。大人が良かれと思う関わりが、子どもたちの世界を邪魔していることがあるかもしれません。

子どもたちを叱る前に、少しだけ想像してみて下さい。 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?