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コラム“Pediatrics Note”と小児科医〜夜明けのすべてさえあればそれでいい〜  

こんにちは。小児科医のcodomodocです。神経疾患、神経発達症、心身症などの診療をしています。最近はマルトリートメント(不適切な養育)な環境から発達性トラウマ障害をきたした子ども達への医療的な関わりについて勉強をしています。

うちの病院の院内報に毎月書いているコラム“Pediatrics Note”です(800字前後)。診療をしていて感じる、とりとめもないことを書いています。
今回は2024年の8月号です。

一番好きな映画は何ですか?

映画好きな人にとってこれほど難しくて答えづらい質問はないでしょう。気分で変わりますし、天気や季節によっても違うでしょう。憧れのあの子の質問だったら、格好つけて答えちゃうかもしれません。

今回、僕はそんな火中の栗をあえて一つ拾いたいと思います。それは2月に公開された「夜明けのすべて」です。観ているだけで胸の辺りにじんわりとした温かさを感じる不思議な作品です。

あらすじ
月に一度、月経前症候群でイライラが抑えられなくなる藤沢さんはある日、転職してきたばかりなのにやる気の見えない山添くんのとある行動がきっかけで怒りを爆発させる。しかし、山添くんもまたパニック障害を抱え、様々なことをあきらめ、生きがいも気力も失っていたのだった。職場の人たちに支えられながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な気持ちが芽生える二人。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになる。

小さな町工場の話で、サメも宇宙人も出ませんし、銃撃戦もありません。日々の生活が淡々と描かれるだけです。でもいい。

僕が推したいのは登場人物たちがお互いを知ってか知らずかに関わらず適度な距離感で関わる、その様です。

町工場の人たちが課題を抱えた二人の主人公に気を遣わせることなく、ごく自然に彼らを包み込み、受け入れていく様子や、互いの病気を知った二人が“助け合う”とも、“支え合う”とも、“寄り添い合う”とも違う、お互いにとっての必要を満たした、でも過剰ではないクールな関係性を保ちながら、それぞれが自分の足で歩く術を探す姿を観て、気付かぬうちに温かい涙が頬をつたうのです。

二人の主人公は病気によって不可解な行動をしてしまいます。それは病気の症状のこともあれば、病気によるトラウマが引き起こす行動のこともあります。

しかし、周りの人々はその背景を知らずとも彼らを受け入れ適切な環境を提供し、やがて二人も同じように行動するようになる・・。

トラウマは人の行動を変化させ、その人に関わる相手にもトラウマ体験を引き起こし、そうして人から人へ伝播していきますが、この作品には関わり方次第でトラウマが癒され、その癒しが人を通して伝播しうる可能性が示されており、僕はとても救われました。

心身に疲れが溜まっている方、ぜひご覧ください。よく眠れますよ。

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