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長谷川貞夫さん「視覚障害者だけでなく全ての人が容易に使える点キーボードの標準化」

➊試運転を行った1号機を改良しフルキーのFDSJKLとスペースキーを点字キーにする改良。

⑴富士通がパソコンの1号機を発売した後、NECが同じくPC8801を発売した。
私はこのPC8801で専用の点字キーボードを別に付けるのではなく、フルキーをなんとか点字キーにしたいと考えた。
その頃私の所に東京電機大学の村井和雅さんが来ていた。そこで彼にこのようなソフト開発を依頼した。もし成功すればPC8801をお礼に差し上げる事にした。
村井さんは当時のCP /Mという言語を使い見事に成功させてくれた。またそれにSSY02と言う音声装置を付けるとまだ非常に聞きにくかったが何とか入力した文字を発音してくれるようになった。このCP /M言語とSSY02を高知盲学校の有光さんに送った。高知盲学校では、第1号機に加えPC8801も使うようになった。
専用の点字キーボードが不要になったので非常に喜ばれた。
そして前にも述べたがAOK日本語ワープロ開発にこれを取り入れたのである。また、やがてPC201と言う漢字プリンターも発売され、AOK日本語ワープロは益々便利になった。

今ではフルキーボードで点字式に入力するのは全く当たり前の事であるが、この入力方法は私の1つのアイディアの実現であった。のちに勿論、この点字式入力だけでなくカナ漢字変換が可能になってから、フルキー入力も合わせて日本語入力に使えるようにした。

➋NEC PC9801時代になって高知システム開発大田博志社長が点字式入力で功績をあげる

⑴いよいよパソコンが PC9801などの2バイト文字の時代になった。
NECでは、新たに PC9801E. PC9801F2などを発売した。ところが、これらの機種で前項の PC7701で出来たFDS.JKLとスペースによる点字式入力が出来なくなっていた。

⑵そこで現在最も多く視覚障害者が用いているPC−Talkerの発売元である高知システム開発の大田博志社長がNECに今後の機種では点字入力が出来るような構造にして欲しいと要求した。
それでその後、NECの PC9801は点字式入力が可能になった。

⑶その上、パソコンの構造上点字入力が出来るようにする事がJIS規格になった。

➌視覚障害者だけでなく全ての人が容易に使える点キーボードの標準化
これまで視覚障害者に関係する事を書いてきたが、ここでは一般の人を含めた点キーボードの標準化について、私が行った事を実際に示しておく。

⑴郵便貯金icカードサービス実証実験に参加
1998年2月から郵政省は郵便貯金icカード実証実験を開始した。
これは、埼玉県大宮郵便局関内で行われた。
私は東京都練馬区に住んでいるので、大宮市に行き新たに郵便貯金のカードを作った。
icカード実証実験とは、同じカードの中に買い物用の区分を作りそこに一定の金額をチャージし、大宮市内の商店などで買い物が出来るようにするものである。
➀視覚障害者に対するバリアフリー上の問題点
自分のカードから、買い物用区分にチャージするのは郵便局のタッチパネルを使うので視覚障害者には不可能である。
金額などは一から0までの横一列のキーを用いる事になっているが、これも数字の点字が無いので入力は無理である。
➁実際に大宮市内の商店やスーパーで買い物をした。その際、スーパーの点キーボードで自分が買い物に使う区分の場所の暗証番号を入力する事になっている。しかしこのキーパッドは上段が789その下が456その下が123で、0は下段となっていた。
これも視覚が無ければこのキーは分からないから買い物が出来ない。
➂私はこれらのバリアフリー上の問題点を郵政省に改善するよう申し入れた。
➃そうしたらすぐに点キーに点字が付けられた。その速さには感心した。
私は点キーボードの配列は計算機やパソコンの点キーボードでなく視覚障害者は電話に慣れているので、上段が123、2段目が456、3段目が789、0は下段の真ん中で左が*、右が♯にするよう提案した。
➄郵政省側は私だけでなく、視覚障害者を集め私の提案通りに電話式キー配列にする事を担当課長が明言してくれた。課長さんの名前を覚えていたが今は忘れている。

⑵通産省のデビットカード推進協議会の場合
郵政省の郵便貯金icカード実証実験が行われた1998年に次いで、経産省がデビットカード推進協議会を作り電子マネーを作り、一石を投じた。
デビットカードとは、自分が持っているキャッシュカードを用い、買い物をした支払いをそのカードの暗証番号で行うのである。つまり銀行のATMを使うのと同じ番号を使い買い物をするのである。
➀私は郵政省の例もあるので、この協議会に積極的に参加した。私が覚えている限りでは8件の事業所が参加していたがそれぞれの事業所の暗証番号の入力方法は全く違っていた。
西武デパートの場合はパソコンの点キーと同じ上段が789のものだった。ただ西武デパートにはこの点キーを置いてある売り場が分からなかったので私は使えなかった。
➁ローソンの場合は横一列の点キーであった。
➂コスモ石油も加入していたがガソリンの給油の支払いで使うのであろうが、これも使えなかった。
➃京都に商店街があり、ここの商店会が加盟していたが私が尋ねた範囲ではやはりパソコン式の点キーのようだった。
➄この他私が聞いた事のない、証券会社の名前もあったがこれも試せなかった。
➅近畿日本ツーリストの場合、上段が123で、電話式に最も近いが0が下段の左なので電話式とは言えない。この端末は近畿日本ツーリストの事務所に行って確かめたように思う。

➊デビットカード推進協議会の最終的結論
➋私はこの協議会の委員になっていたようである。2000年に呼ばれて意見を述べた。
➌まず事業所により横一列のキー。パソコンの計算機の点キーと同じ。電話式と似ているが0が最下段の左では困る。などまちまちのキー形式では困ると発言した。
➍入力時に横から暗証番号を見られると危険なので点キーパッドにするにしても横から目隠しの仕切りを立てて欲しい。
➎この協議会のまとめ役は、NTTデータの二ノ宮尊徳さんであった。あの有名な二宮尊徳さんとは『ノ』があるかないかの一字違いである。だから、お名前まで覚えていた。
会合の結論として視覚障害者も一般の人も共通に慣れている電話式点キーを採用するようになった。
私は今よくデビット支払いをするが、きちんと目隠しの仕切りの立っている端末を使っている。この端末を使う度に、私の案が採用されたかと思うと嬉しい限りである。

●日本国有鉄道関係が視覚障害者が使えないタッチパネル式券売機を発表したが、これも電話式点キーで解決した
日本国有鉄道はJR東日本と西日本、同東海などに分かれる頃の話である。いわゆる切符購入の窓口を合理化しタッチパネル券売機でこれに代わるようにする計画があった。
視覚障害者に対しては音声応答で切符が購入出来るという物であった。
1997年頃だったと思う。10月頃これを実施した。私は山手線の恵比寿駅へ実際に体験しに行った。
タッチ式券売機が10数台あり1番左に視覚障害者の為の音声対応券売機があった。
私は試しに『上野』と言うと、『上野大人1枚ですか?』などのような音声があり、私が『はい』と答えると『150円です』のような応答になった。
『宜しければお金を入れて下さい』のような返事だった。
以上は当時の記憶の範囲ですから全てが正しい内容とは言えません。
私はこれでは能率が悪くてとても利用しにくいと感じた。そこで、国有鉄道に対し電話式点キーへの改良の為の意見を団体で強く申し述べた。すると年末の12月14日に東京駅の中の会議室のような所に視覚障害者が10数人招かれ電話式点キーによる券売機の試作品を体験した。
その後意見を求められたが、電話式点キーは確かに券売機の右下に付いていたが、なぜか上に持ち上げるような蓋が付いていた。この蓋は不要ですと言うと、一般の利用者が迷わない為ですと言われた。
結局最終的には、この蓋が取り外され実際に駅で視覚障害者が使うようになった。

以上、視覚障害者による数字の入力方法について郵政省の『郵便貯金icカード実証実験』の店舗における入力端末を上段が789の計算機式でなく、電話式点キーにして貰った。また、通産省関係の『デビットカード推進協議会』については店舗でまちまちの数字入力キーを使うのでなくこれも電話式点キーにしてもらい、入力の指が他から見られないように囲いを付けて貰った。
最後に鉄道に乗る為に切符を買うなどの手続きについても音声対応でなく電話式点キーにして貰った。

以上に共通な電話式点キーとは、日本が決めた物でなく、ituと言う国際的な電話についての協定を電話以外の数字入力に用いる事となった。
視覚障害者は電話を使う事が多くこの点キーに良く慣れていた。この点キーが電話わかける目的だけでなく各種の数字入力に使える事にしたことは、視覚障害者のバリアフリーにおいて非常に幸いな事だったと私は考える。

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