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風土とは?:味わい、感じる。栗山町のふるさと教育②

風土って一体なんだろう?
その意味をちゃんと理解できているだろうか?
 
2023年10月29日に雨煙別小学校コカ・コーラ環境ハウスで行われた風土とFOODを考えるワークショップ。後編をお届けします。


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午後はフードライター小西由稀さんを交えのクロストーク。
「風土とは何でしょうか?」という小西さんの問いかけから始まりました。

風土は、風と土という二つの言葉からなります。
風は流れるもの、通り過ぎるもの、新しいものを呼び込むという意味がある。
一方で土は動かないもの、そこにあるもの、受け止めるもの。
相反する言葉が合わさって風土という言葉ができています。

日本は湿度が高いので、麹菌が育ち、味噌、醤油、酒が生まれました。その土地ならではのものと、そこならではの気象条件が重なることで、そこに暮らす人たちにとっての土台が築かれます。その土台が風土なのではないでしょうか。

(小西さん)


小西由稀さん

続いて小西さんから道内3地域(真狩村・足寄町・浦幌町)の事例が紹介されました。ミシュランの星付きレストランで行う子どもたちのマナー教室、地元食材を使ってシェフが作るフルコース給食、農家さんの家に泊まって夕食を囲む民泊体験。いずれも「食」をキーワードとしたふるさと教育です。3つの事例から浮かび上がるのは「食」の作用。食べることでコミュニケーションが生まれ、おいしかった記憶は思い出と紐づき、地域をつなぐよすが(縁・因・便)に。やがて地域の誇りになる、と小西さんは説明します。

 では、栗山の風土とはなんだろうか?

いよいよ、クロストーク本番です。
登壇したのは料理を担当した酒井さん、大喜多さん、早乙女さん。それに、協議会メンバーであり、生産者の菅野さん。引き続き小西さんが司会進行を務めます。


まずはそれぞれの栗山とのつながり、栗山の魅力が語られました。実は栗山で生まれたのは酒井さんのみ。他の3人は「移住組」で、大喜多さんは大阪府堺市、早乙女さんは苫小牧市、菅野さんは福島県飯舘村の出身です。


2018年に移住した大滝さんは、それまで札幌でイタリア料理店を営んでいました。栗山で暮らすようになり、「時間の流れ方が変わった」と振り返ります。

栗山に移り住み、ゆったりとした時間の中でさまざまなものを見たり、聞いたり、感じる余裕が生まれました。朝起きて外の空気を吸い、季節を感じるたびに、栗山に来てよかったと思います。春のアスパラ、夏から始まるトマト、ナス。朝取れたものをお昼には料理として提供できる環境にいるというのは、料理人にとってとても幸せなことです。

(大喜多さん)


2011年の福島第一原発事故を受け、飯舘村を離れて北海道に避難した菅野さん。和牛繁殖やレストラン運営の傍ら、農業体験・研修の受け入れも積極的に行っています。

夏に首都圏の子どもたちを迎え、「いのちを感じる」ワークショップを行いました。子どもたちに取れたてのトマトときゅうりを出したら、最初はイヤがっていたのに最後には喜んでパクパク食べていました。新鮮でみずみずしく、寒暖差で甘みが増すから、ここでは普通の野菜がだんぜんおいしい。やはり鮮度は地域の価値。栗山の価値だと思います。

(菅野さん)


栗山生まれの酒井さんは高校卒業後、日本料理の名店「招福楼」で修業。板前として日本各地で仕事をした後、故郷に戻り、2001年に開業しました。一度離れたからこそ改めてわかる魅力が栗山にはあると言います。

葉物は鮮度が大事。香り、食感、味、水分量。それが全然違うから、ここでは野菜を主役にできる。地味に思えても、ポンと口に含むと、しみじみと心に染みてくるものがある。今日の料理もそうですが、穀物と野菜でこれほど豊かな食卓を飾ることができるのは、やはり土地の豊かさと、それを育てる人の豊かさであると感じます。

(酒井さん)


2018年に移住した早乙女さんは、栗山の食を知るため農家や木こりの仕事を手伝い、2021年に「サメオト」を開業。栗山では料理が生まれるプロセスそのものが違うと語ります。

都会にいるときは「春だからアスパラ料理を出そう」といった感じで、季節に応じて旬の食材を集めていました。でも栗山にいると、トマトが取れたからと直接持ち込んでくれたり、誰かの紹介で珍しい食材が手に入ったりと、食材の方から集まってきます。ここでは、縁でメニューが決まるんです。

(早乙女さん)

「縁でメニューが決まる」レストランだなんて、聞いているだけでワクワクしませんか?
早乙女さんが、栗山の地に根を張り日々料理を作る中で感じる風土とはなんだろうか。

風土は、人間性を作る土台だと思います。僕がここで栗山の方たちとともに楽しく生活ができているのは、栗山の風土が素晴らしいからだと思うんです。栗山には僕のように町外から移り住んだ人がたくさんいます。栗山の面白い人にひかれて面白い人がやって来る。その面白い人が新たに面白い人を引き寄せる。どんどん引っ張る力が強くなって、ますますユニークなまちになっていると感じています。

(早乙女さん)

一方で、「栗山の風土が何か?という問いには、まだ答えられない」と控えめに打ち明けるのは大喜多さん。

栗山に来て5年。僕にはまだ時間と経験が足りません。いま経験していることが積み重なったときに、いつか「これが栗山の風土」という感覚が得られるときが来ると思っています。これからも多くの方と接して、少しずつ風土を感じ取っていけたらと思います。

(大喜多さん)

酒井さんは日本各地で暮らした経験から、風土についてまた別のアプローチで語ります。

僕は栗山という「土」から離れて、「風」に運ばれて紙飛行機のようにあっちへ飛んだり、こっちへ飛んだり、いろんな世界を覗いてきました。そこで知った郷土料理や方言、生き方、各地で感じたいろんなものを、今度は「風」となって運び、栗山の「土」に融合できたらと思う。調和という言葉があります。調えて和する。それが僕の仕事。死ぬまでそんな作業を続けられたらいい。それが僕なりの恩返しです。

(酒井さん)

風土を育むことが故郷への恩返しと語る酒井さん。風土が人間性を作ると考える早乙女さん。菅野さんの風土観は、故郷・飯舘村で培われました。

僕は農家の16代目として生まれ、地域の人たちに見守られ、助けられながら育ちました。物心ついたときから、先祖や地域の神様に守られている感覚がありました。
そういう豊かさが農村にはあると感じています。一人で生きているのではない。みんなで助け合い、助けられながら、生かされている感覚です。
栗山にもそうした多面的な関係性、豊かなつながりがあることを、今日皆さんの話を聞きながら感じていました。一人で生きているのではない。つながりの中で、みんなで生きていると感じられることが風土なんだと、改めて思いました。

(菅野さん)

つどう

午後4時。傾いた西日が部屋の一番奥まで達する頃、すべてのプログラムが終了しました。朝8時半から長時間にわたる充実感いっぱいのイベントでした。
冒頭に記載したとおり参加者はおよそ60名。小学生の子どもたちとその親御さんの他にも、町内の生産者や地域おこし協力隊、町づくりに関わる人、町外からも食や教育に携わる人や学生など、年代・職種を超えてさまざまな人が集まり、語らいました。


こうしたイベントを実施しても若い人はなかなか来てくれないものです。でも栗山の場合は、4Hクラブ(若手農業者)や、くりせいきょう(栗山町青年団体協議会)のメンバーも駆けつけてくれます。この参加者の構成が栗山の力です。こうした関係性の中で、上の世代の熱い思いが下の世代へ引き継がれ、つながっていくのでしょう。

(菅野さん)


クリを剝いたり、料理を盛り付けた午前の部に比べ、午後のクロストークは子どもたちにとってはちょっとハードルが高かったかもしれません。お腹も満たされ、ウトウトしかかったのは子どもたちだけではなかったはず。

風土を頭で理解するのは非常に難しいものです。でも今日のように、地域の人たちと一緒に作業をする、一緒にご飯を食べる、一緒に語り合う、そうしたことを繰り返す中で、「生かされている感覚」を感じ入ってもらえたらいいと思うんです。じわじわと漢方薬のように。昔から受け継がれてきた祭りにもそうした側面があります。つながる機会を作ることが、ふるさと教育では大事なのではないでしょうか。

(菅野さん)

「風土は考えるものではなく、感じるものだと思う」。大喜多さんの言葉がよみがえります。
風土とは、クリを剝いたときに感じた親指の痛み。風土とは、初めて食べたむかごのしみじみとした味わい。風土とは…。そんな一つひとつが地層のように折り重なって、一人ひとりの心に、それぞれの形で、育まれていくのかもしれません。

前編「風土とは?:味わい、感じる。栗山町のふるさと教育①」

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