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【日記】2020/8/15 バンドマジック

 昨年の8月、ROCK IN JAPAN FESTIVAL に出演したGRAPEVINEが、ライブの最後に演奏した曲は「Everyman,everywhere」。現地にいた私にとっては、久しぶりに聴くエブエブ(「バインのライブで最後に聴いたのは果たしていつだったのか?」を覚えていないくらいに)なのに、感動をよそに、リリース当時にライブで良く聴いてきたエブエブとは全く違うエブエブなのだと受け止めずにはいられなくて、ひとり切なさに駆られていた。

 しかし、数日前のバンドの公式YouTubeチャンネルでプレミア公開されたRISING SUN ROCK FESTIVAL 2018で、改めてエブエブのライブ映像を観たとき、今のバインは、あの頃のような若さや衝動は失っても、それ以上のものを手にしているという圧倒的な自負が感じられた。20年以上バンドが踏み締めてきたものを彼らは肯定している。そこにロマンを感じたのだ。

 「Everyman,everywhere」は、ちょうど16年前の曲だからリリース当時はメンバーみんな30代で、Vo&Gtの田中さんなんてちょうど30歳。未だ青年とも呼べる風貌だった彼も、今は40代半ばを過ぎた立派な大人であるが、恐ろしいことに今の私は当時のメンバーよりも年上だ。20代の頃、私はこのバンドに強い憧れを抱いていただけに、当時の彼らを自分が追い越してしまった事実をふと実感すると、妙に寂しくなってしまう。そして、楽しいライブのはずなのにじわじわと現実が押し寄せてきて、ときに自分の中にある闇が顔を出してくる。

 ただ、ここ数年間、ライブを通して自分と対峙してきた中で、乗り越えられた過去が私にはある。好きで聴いてきたバンドなのに、すごい力が働くのだなと驚いたことがあった。これは「文學界 7月号」に掲載の田中さんが書かれたエセーにも通ずるが、別に「がんばれ」とか「元気出して」という歌詞はなくても、バインの曲を聴いていると、景色とか、空気とか、匂いとか、言葉とか、懐かしい感情とか、が、頭や心の中に呼び起こされ、その時の自分に一番フィットするものが自然と力になってくれるのだ。

 私の場合、それはバンドに恋をしていた高校生の自分。数年前まで、闇としか思えなかった時代を生きてきた自分である。

 「バンドマジック」という言葉があるが、どういう時にミュージシャンがこの言葉を使うのかは正直よくわかっていない。でも、私にとっての「バンドマジック」はこれだよね、と思う。

《いつも通りの道を そう いつもと同じ風 違うな 今ならわかるだろ》
          "Everyman,everywhere"より

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