魔法に必要な手順の話

「リオってなんでそんな魔法出す時に色んな方法使うんだ? ふつーは一つじゃねえの?」
その言葉に、魔法陣を記していた手が止まる。床に膝をついていた少女が顔を上げた。その表情は「呆れた」と言わんばかり。
「使い分けた方がやりやすいのよ。同じ食事でも、パンは手で、ステーキはナイフとフォークを使うでしょう?」
「それって、使い分けないと行儀が悪いぞーとかある?」
「無いわね」
きっぱりとリオノーラは断言する。蔓を巻き付けた、インクに浸していない素のままの筆が床を滑る。何も書けないはずの筆は、リオノーラの魔力により確実に魔法陣を描いていく。
「魔法にお行儀はないわ。常識はあるけど、それは言い換えれば定石みたいなものだもの。極端な話、発動さえすれば前提も過程もどうでもいいとさえ言えるわね」
「結構雑なんだな」
「どうでもよくはなくないか? 過程によっては、代償を伴う場合もあったと思うが」
二人の会話を見守っていたルークが声を上げる。ルークの疑義があるという発言に、リオノーラは少々うんざりした顔を表に出した。いつもは補足に回ってくれるルークまでもが質問側に参戦したので、これは収拾がつくのかと懸念した為でもある。
「それは特殊なケースよ。代償が必要なくらい強力なものなんて、固有魔法ぐらいしか思いつかないわ」
「また新しい単語出てきた。固有魔法ってなに?」
「固有魔法はその魔法使い特有の魔法。習得できる人間は一握りで、大体は魔法使いとしてそれなりに経験を積んでから発現する事例が多いわね。基礎魔法には無い、強力な魔法の効果がこれまでに確認できているわ」
「そうか。古代の魔法に近いものもあるんだったか」
「そういうこと。…さ、できたわよ。陣の中に入って。陣を踏んだら動かないでね」
言われた通りに二人が陣を踏む。リオノーラも自分の荷物を背負って、辺りを見回した。魔物の気配はない。
愛用の杖で床を一突き。わずかに光を残し、洞窟の中から三人の姿は跡形もなく消えていた。

(いいわけ)834字。魔法手順の話もそのうち。

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