高等魔法を習得できた話

大きな建物。神殿とも王宮とも違う半球体形状のそれは、魔法訓練所だ。国内でも数か所しかない、それ故に出入りできる人間は限られている。
許可をもらっていない私達は入口から少し離れたところで今かいまかとうろついていた。
「……まだかしら……」
「確かに、時間はとっくに過ぎてるな」
もうすぐ日が暮れ始める。まだ蜜色の光をしているけど、それが真っ赤に染まるまできっといくらも無い。
訓練所の前には2時間ごとに鳴る時計があった。10時、12時、14時、16時に軽やかな鐘の音が街に響き渡る。もっとも、大半の人が太陽の位置と雲と風を読んで動いているので、この鐘の音を気にするのは訓練所に出入りする人とその関係者だけだ。4回目の鐘が鳴ってからそれなりの時間が経っていた。
「リオ! …出てきたぞ」
その声に勢い良く顔を上げる。見上げた視線の先には、彼がいた。
地面を蹴って、離れたところから呼びかける。
「コーーーン!」
「うおっ! なんだよー待ち伏せか? もしかして寂しかったのかよ〜?」
「軽口はいいから! …どうだったの?」
少しの距離は駆け出したことによりすぐ縮まった。目の良い彼がこんな大声を出すまで気付かないなんて、やっぱり何かあったのか。
「それが…」
眉をへにゃんと寄せて、深刻な顔。その様子に思わず緊張で唾を飲み込む。きっと隣のルークと揃って同じ顔をしているだろう。
「…ぎりぎり習得できたぜーー!」
拳を空にかざすコーンに、喜びや怒りよりただただ、脱力した。
「おま…この、…驚かせるな…」
「ひやひやさせないでちょうだい…」
「にひひ。ご心配ありがとさん」
ニヤニヤとこちらを覗き込む顔が憎たらしい。片頬を引っ張れば、すぐに降参の言葉が飛んできたので素直に離してあげる。
「ま、これでリオの魔力切れも前よりは心配ないな」
「おう! オレに任せとけって。バッチリおすそ分けしてやるよ!」
「期待してるわ。ひとまず宿に戻ったら早速見せてもらおうかしらね!」
「げー。人使いが荒すぎだろ!」

(いいわけ)846字。MPを他者に渡せる魔法を習得できたよ! という話でした。

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