愚痴をこぼす話

宿屋の一階。酒場にもなっているそこは夜になると毎日人々のざわめきで溢れかえる。
そしてそのざわめきに混じって、嘆く者がまた一人。
「あ〜〜〜もーヤダー!」
ドン! 木製ジョッキを力任せに置きながら、机に泣き伏せる女がいた。
向かいに座る男は顔色一つ変えずに自分のコップを煽っている。精悍な目付きに堂々とした体躯。ひと目で冒険者と分かる出で立ちだった。
「毎日毎日攻略! 討伐! 臭いし汚いし服がドロドロになるし終わった頃には魔力も体力もすっからかん! 冒険者の良いとこなんてもらえるお金だけよ〜〜!」
「……だから神官に就職すればいいと言っているだろう」
彼女はなまじ力がある魔法使い。加えてある程度肉弾戦も対応可能で、所謂器用貧乏に分類される人間だった。
神殿にて一定期間修練すれば、神官特有の方術を習得することができる。神官の方術は治癒・浄化・調律に特化したものとなっており、一般的にはパーティの後方支援を担う。今よりは肉体的な負担が減るだろうと、男は時折提案しているのだが。
「ぜったい! イヤ!!」
顔を上げて拒否をする彼女の瞳は対抗心が燃えている。
「今ここで転職したら、『魔法使いの女より神官の女の方が従順』『補助も火力も足りないなら神殿入りしてろ』『神殿でその性格も大人しくなるといいなァ?』…ってナメくさった態度とった奴らに馬鹿にされるじゃない! 神殿で性格まで矯正されるわけないでしょ! 足りねーのはお前の頭だっての!!」
「……じゃあ黙って旅を続けろ」
「それもヤダ〜〜! あーあ…平凡な暮らししてみたい…代わり映えのない毎日を送りたい……」
「世界が平和になるまで待つことだな」
「私が生きてるうちになる? それ」
「さあな」
一言端的に返すと、彼女は頬を膨らませた。カゴの中、一つしか無かったパンを鷲掴み、乱暴に食いちぎる。奮発して注文したチーズを勧めれば、素直に食べ進めていった。
(…将来が心配だ)
自分よりも遥かに目線が小さいこの少女、ジョッキの中身はジュースであり、酒など入っていないのである。数年後の未来、酒を呑ませたらどうなるか分かったものではないと、男はため息と一緒にジョッキを煽った。

(いいわけ)913字。RPGシリーズと同じ世界観。主役の三人とは違う人達の話。名前考えるの面倒くさかった。偏見や差別はどこの世界でもあるよねって話。

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