錬金術師の話

「魔道具師と錬金術師の違いって何?」
「……確かに似てるな」
「そうね。無理もないわ」
街の中心からほんの少し外れた場所。また旅路に戻るための買い出しの荷物を路傍で整理していた頃、コーンがいつものように疑問を口にした。その内容に揃って二人は頷く。
「有り体に言えば、扱う物の比率、目的によって変わるのよ」
「例えば?」
「…剣と弓みたいな……? 剣は鋼で弓は動物とか植物だから…」
「いやそっちじゃなくて」
呟くルークにコーンが訂正する。遠巻きに見ているざわざわとした人波は、座り込む三人組など気にも留めていない。
「その例えは違うわよ。そうね、この間の灯石は錬金術師が作ったもの。これはわかるわね」
「おう。だからリオが直せると思ったし」
「乱暴な言い方をすれば、灯石は光魔法を圧縮し具現化したもの。つまり、元素と星素そのものを取り扱うのが錬金術師。加えて言えば、必ずしも道具を作ることが目的ではないわ」
「結果として道具になるってだけのことか」
「そう。一般に出回る錬金術師の『成果』は道具だけだから。見落とされがちだけど、本来の姿はその過程にあるのよ」
「過程……あ、研究?」
「その通り。今日はやけに理解あるわね」
どうぐ袋の口を閉じて、少女が不思議そうに首を傾げる。
「お前が錬金術師になるっていうから、ちょっとその辺の人に話聞いてみたんだよ」
まあ結局分かんなくてお前に聞いてるんだけどな。いたずらが失敗したときの顔で笑うコーンの影で、ルークが得意顔で頷いている。その様子を見てリオノーラは概ね察した。これはルークの差し金か。
「…それでも、知ろうという姿勢はえらいと思うわ。いつものコーンとくらべれば大進歩ね」
だからリオノーラは、いつもよりずっと優しい言葉をかけた。褒められた幼馴染は、焦げ茶の目を丸くして、それから目元を柔らかくして笑う。
「……で、ルークは」
呼ばれた少年が肩を跳ねさせる。目が全力で泳いでいるが、リオノーラの笑顔はそれを許さなかった。
「どういう意図があるのか、今度は私が教えてもらおうかしら」
凍る空気に、巻き込まれた気配をコーンは察知した。
三人が旅立つのは、もう数時間後の話である。

(いいわけ)913字。魔道具の話まで進みませんでした。この世界の錬金術師はエネルギー研究者の面も担っているという設定。

お菓子一つ分くれたら嬉しいです。