悪夢を見た話

時々。
まったくわけのわからない、最悪な夢を見る。
どこか冷たさをまとう異質な空気。硬質な床を駆け抜ければ、後ろで扉の音。振り返れば左右から中央へ、蓋を閉めるように次々と両開きの扉が閉まっていった。お城に足を踏み入れたはずなのに、それらは幻覚で、まるでこの世の嫌なもの全てを集めたような泥沼の気配。
いつもどおり、私達は敵に挑む。勝てるかどうか分からない、死すら覚悟して武器を構えないといけない、そんな強敵に。
奮戦虚しく、私とコーンが血の海に沈んでいく。最後に残るのはもう一人の幼馴染、ルークだけ。
(……これは…またいつもと同じ結末かしら……)
私達を失ったルークは、発狂する。怒り、恐怖、それらを合わせた絶望から。
死の淵からもがいても、ルークに手が届かない。隣のコーンは目を覚まさない。

何もかも全てが呑み込まれ
真っ黒に、染まって

「……っ! ……」
動悸と、汗ばんだ感触。
辺りをゆっくりと見回せば、そこは真っ暗な木々の中。中央にはたき火がまだ燃え続けていた。そしてその前に座り込む人影。私に気付くと、彼は顔を上げた。
「コーンの次はお前か? まったく…」
ルークが眉を下げて笑う。仕方ないなと言われているようだった。
飲み物を飲んでいたのだろう。彼はコップを静かに片付けていた。見慣れた姿を見つめながら、気付かれないように安堵の息をつく。その横顔は、あの夢の中のものとは違っていた。
「……コーンも起きてたの?」
「ちょっと前に寝たけどな。リオも白湯飲むか?」
これ飲んだら明日の朝飯分無くなるけど。彼は悪戯をした時のように笑うから。合わせていつものように、呆れた口調で返す。
「それ、私が飲まなくても三人分もう無いじゃない」
「バレたか」
「川へ取りに行ってから寝てあげる。貸して」
「いや、行くなら俺だろ。流石にそこまではさせられねえって」
「大丈夫よ。魔力も大分回復してきたし」
ルークに近付き、三人分の水筒を取り上げる。念のために杖を持って振り回せば、彼は諦めたように手を振った。たき火に背を向けて歩き出す。
あの夢が現実のように鮮やかだったなんて、言えるはずもなかった。

(いいわけ)899字。ルークが水を汲みに行くと言ったのは男女関係なく夜の森はとても危ないので、言い出しっぺの自分が行くべきだと思っていたから。リオには火の番だけお願いする予定でした。

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