迷宮脱出の話

「あーーー」
迷宮の中、コーンの叫びがこだまする。やかましいと言う前に弱音の言葉が続いた。
「もームリ。やってらんねえ。帰ろうぜ」
「…賛成。もうくたくたよ」
数多の冒険者達が挑んでは敗れてきた、一癖も二癖もある迷宮。
依頼を受けてのこのことやってきた俺達も、例に漏れず目的を果たせないでいた。
空気の流れをはかりながら地図を書き足し、強化薬をがぶ飲みしながら魔物を蹴散らし、少しでも味に変化を出そうと薬漬けにした干し肉を食べてみたり。
そんな風に彷徨いながら迷宮に挑戦して五日目。体力も精神的にも精神的にも限界が来た。……妥当な所か。どうぐ袋の口を開ける。
「はいはいじゃあ魔物避けの薬使うぞー」
「ちょっと待て、脱出魔法は?」
「この領域は空間魔法が使えないのよ。ある一定の所まで入口に近づく必要があるわ」
「うええ……まじかー。じゃ今から薬まいて、魔法使えるようになる領域まで歩いてから脱出?」
「そういうこと」
二人が話してる最中、俺はまだ袋の中を漁っていた。おかしいな……あと一つは残っていたと思ったんだが。
「ルーク、まだー?」
「………あー」
空を仰ぐ。顔を覆った俺の姿を見て、二人は察したようだった。一気に顔色が変わっていることだろう。
「なあ、まさか」
「薬を切らしてるってわけじゃ……」
「…そのまさかだ」
「はあ!? まじ!?」
二度目の叫びが迷宮内に響く。バサバサと何かの翼の音が聞こえた。
「…数え間違い?」
「だと思う」
魔物避けに限らず、薬の類は常に消費量を計算してから使っている。これから進む階や領域の事前情報を確認して、必要な本数をあらかじめ取っておいているのがいつもの状態なのだが。
「つまり、全部蹴散らして戻るしかないってことね」
凶悪な影にリオノーラが仕込み杖を構える。背中に翼、短く生えた足には大きな爪。その群れは、おそらく先程の大声に寄ってきたものだ。
どうぐ袋の口を閉めて、乱雑に背中に背負う。弓を構えれば、コーンが大きく一歩、前に出た。
「はは、上等じゃん。帰ったら肉食おうぜ!」
「賛成。お前の取り分は減らすけど、な!!」

(いいわけ)886字。あるはずと思ってたものが無かった時の話。五日間はなかなか粘った方。目的は所謂モンスタードロップの品でした。

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