複合店舗の話

「はい、先生ー。質問でーす」
街の中。歩きながらコーンは真っ直ぐに手を挙げた。その声にリオノーラとルークが振り返る。
雑踏の中立ち止まるのは憚られたので、リオノーラとルークは少し距離をあけた。二人の間にコーンが追い付き、三人並んで街の中を歩く。
「今度はなに?」
「鍛冶屋と魔道具師と錬金術師が一緒に店構えたら都合良くね? あんま見かけないけどなんで?」
「……そうね」
装備を揃えるための買い回りの日。コーンの唐突な質問は概ねいつものことだった。
リオノーラは手を顔に添えて考える。最初に考えて回答するのは常に彼女の役目と言っても過言ではなかった。自他ともに認める才女。完全な正解を知らなくとも、世界の理に沿って、筋の通った答えを返してくる。コーンはそんな彼女の話を聞くのが好きだった。
「何となくの印象だけど…多分、魔道具師と錬金術師はあまり商売っ気がないのよね」
「それは分かる気がする。店もただの人ん家みたいだったし」
「ほしいなら見れば? と言いそうな空気だったな」
「すごく儲かる職業でもないみたいだし…多分魔道具や錬金術を、本格的に生計を立てるものとしては見做していないのよ」
魔道具作りは比較的ハードルが低い。簡単なものだったらコーン達も自作することがある。誰にでも取り組みやすい分、魔道具師でないと作れないと言ったものは限られているのだ。
錬金術は前にリオノーラが説明した通り、研究の過程で道具が生まれるケースが多いため、そもそも商売をする気はないという方が正しい。
「とはいえ、大きな街だったら複合店舗として構えていることもあるみたいよ。王都が楽しみね」
「……一応聞くけど、この街はあんの?」
「無い。買い回り飽きたんだろ、お前」
「…バレた?」
「バレバレよ。あと鍛冶屋だけだからがんばって。終わったらお昼にしましょ」
「あーーまじかーー」
コーンは嘆く。建ち並ぶ店の通り、どこかから香ばしい小麦の匂いが漂って、コーンのお腹が切なそうにキュル…と鳴いた。

(いいわけ)839字。この世界で本格的などうぐ屋は珍しいという話。利益を出せないならお店を構えないという真面目な人が多い様子。

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