78.移植なき採卵でも
ココの死産から半年後、奥さんの女性周期が整うのを待って、ボクたちは再び採卵に臨む決心をしました。
気持ちの整理がついたわけではない。
ココのことを取り返そうとしたわけではない。
後ろめたい気持ちが、少しもないわけではない。
ただボクたちはこの時、何か“具体的に”前に進むことがしたいと考えていました。たとえすぐには妊娠することができなくても、それまでの期間をムダに過ごしてはなかったという、確かな結果を求めていました。
前回の採卵は約2年前。その時は13個採卵して全て受精、そして7つも胚盤胞まで育ってくれた。信じられないくらいの好成績。
そして今回。事前の検査で奥さんのAMH(アンチミューラリアホルモン)は、やはり前回より2年分落ちていました。そりゃそうだ。前回ほどは期待できないだろう。それでも、どうか。
飲み薬、点鼻薬、自己注射、気休め程度のサプリメント。奥さんと一緒に、前もこんなだったっけ?なんて言いながらも、つつがなく採卵準備は進んでいきました。
そして当日。無事採卵を終え、診察室へ。
「うん、10個取れました。明日○時にお電話で受精確認してください」
翌日○時。奥さんクリニックに電話。
「はい…はい…はい、ありがとうございました」
クルリとこちらを向く。
「全部受精したって!!」
あれ、デジャヴか??
そして次の受診日。先生は少しあきれたような顔で
「えーっと、9個です。10個中9個、胚盤胞になりました」
・・・。
なにか神さま的なものからのプレゼントだろうか?だとしたらなんか…バランス悪くないか(;^ω^)?
しかも9個中1つだけだけどグレードAAの子がいる。まぁそれはオマケですから、なんて先生は言うけれど、ボクたちはこの先生のそういうところが好きだ。変に期待を持たせないのが、逆に信頼できるような気がする。
「では移植は…あぁそうか、帝王切開されてるんでしたね…。それではまた〇月以降にいらしてください」
診察室を出ると、カウンセリングをしてくれたあの看護師さんが声をかけてくれました。
「よかったわね!ココちゃんもきっと喜んでくれてるよ!」
この人にはいつも驚かされる。どうして一度話しただけのココの名前を憶えてくれているんだろう。どうしてまた不妊治療を再開したことを、ボクたちがほんの少しだけ後ろめたく思っていると知ってるんだろう。
ボクたちはまた、この人の前で泣いてしまいました。
さて凍結胚は今回9つ。前回の残りが3つあるから全部で12個。凍結保管費用だけでも相当なものになってしまうけど(◎_◎;)、ちょっと減らしてなんて贅沢はまさか言えまい。
とりあえずこれで、不妊治療のことは一旦お休み。移植はできるとしても半年後。それまではゆっくりココのことを考えて過ごそう。
よかった。とにかくボクたちは少し、前に進んだ。
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