見出し画像

86.それから

仕事中のボクに奥さんからのLINE。添付された画像に写っていたのは、陽性反応の出た妊娠検査薬でした。

あ、奥さんめ!勝手にフライングしたな!

すぐに電話。

「ボクが帰ってから検査するっていったじゃん”(-“”-)”」

「ごめ~ん、ガマンできなかったの。ね、陽性でたね!」

うん、ほんとだ。陽性だ。
うれしかった。でも不思議と驚きはありませんでした。

ココが産まれてちょうど1年が経つころ、ボクたちは5度目の胚盤胞移植に臨みました。
その頃のボクたちはごく自然に、こう考えるようになっていました。

ココに弟妹を作ってやりたい。
ココをお姉ちゃんにしてやりたい。

物事がこじれてどうしようもなくなった時は、一度リセットしてはじめからやり直してみると、ウソのようにうまくいくことがある。

そんな気がしていた。次の妊娠は、きっと拍子抜けするくらいアッサリとうまくいくんじゃないか。大した根拠はないけど、ボクはそう思っていた。

だって今度は、ココがいるもの。
ココが守ってくれるはずだもの。

だから、もうそんなに怖くない。
きっと大丈夫。

そして迎えたクリニック判定日。
待合で待つボクと奥さん、そしてバッグに隠れたココのぬいぐるみ。
過去4回の経験からわかっている。
陽性なら内診室から、陰性なら診察室から呼ばれる。
そして…

「ここ村さん、内診室へどうぞ」

うん。

「行ってくるね」

「がんばって」

いつもよりずっと軽やかな足取りで、奥さんは内診室に消えていきました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?