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72.忌引き休暇

奥さんが退院した翌日からボクはまた仕事に復帰しました。

結局なんやかんや10日近く休ませてもらった。でも土日を含めると、出産休暇と忌引き休暇で全部まかなえるはずだ。
ボクは会社の人事課に休暇の手続きに行きました。

書類を提出しようとすると、担当の人が申し訳なさそうにボクに言いました。

「あの、ここ村さん。お休みになっていた事情は上司の方から伺っております。それで、あの…大変申し上げにくいのですが、今回の場合は忌引き休暇は認められないのです。お手数ですが有給休暇で手続きをしていただけますか?」

忌引き休暇は認められない。
そっか。そうなのか。
有給休暇で手続きするのは一向にかまわない。有給だってたっぷり余っているからまとめて消化するいい機会だ。

別に怒りも、憤りもありませんでした。

確かにボクはあの子の出生届も出してないし、あの子は戸籍にも載ってない。
つまり社会的にはココは産まれてないし、産まれてないんだから死んでもいない。

当然、忌引き休暇はとれない。そりゃそうだ。何も間違ってない。誰も悪くない。

でも、それでも、

ボクはココの顔も、ココの重さも、ココの肌のやわらかさも知ってるんだ。
ココはお風呂でうんちだってしたんだ。
間違いなくココは、ボクたちの手の中にいたんだ。

だからココが、社会的には存在しないということを受け入れるのはやっぱり苦しかった。
仕方のないことだとはわかっているんだけれど。


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